「いよいよ決戦か……!」
エイリスさんがカサミテーションを構えます。しかし、太陽の魔神は空を見上げるような素振りを見せました。
『ここで貴様らを燃やし尽くすのは簡単だ。だが、ここはその戦いにふさわしくない』
「どういう、意味ですか?」
『〈天空階段〉の頂上。ここは愚かにも我らと対等になろうと組み上げられたこの傲慢の塔だ。古き者らの望み通り、人と神が同席できる円卓にて、謁見をしてやる』
太陽の魔神の身体がどんどん崩れていきます。
あの言葉が本当なら、いつまでも姿形を保つことが出来ないのでしょう。
「太陽の魔神!」
『何か?』
「私は、貴方を倒します!」
『ハハハハハ! 貴様の前世は〈天空階段〉の建設者か? 円卓はここではなく、上にある。まずはそこに来い』
そう言い残し、太陽の魔神は姿を消しました。
ビリビリとした気配が消え、ここにいるのは間違いなく私達だけなんだと、確信出来ました。
無意識に恐怖していたのでしょう。膝から崩れ落ちそうになります。ですが、まだ座っていられません。
それは全てが終わった後にします。
「行きましょう。私達は立ち止まっていられません」
〈天空階段〉は静かなものでした。
無音の中に私達の足音が響きます。
「噂には聞いていたけど、本当に何もないね。マルファ、体力は十分かな?」
「誰に言ってんだよ。わたしは見た目以上に体力あるっつーの」
「あはは……。二人共、喧嘩は止めましょうよ」
とは言いつつも、これはいつものやり取りです。
誰も言及はしていませんが、これはある意味、私達なりの精神統一なのかもしれません。
少しばかりの和やかな時間。しかし、周囲の警戒は怠りません。
「……何だか、落ち着かないな」
エイリスさんは珍しくキョロキョロと周囲を見回していました。
「ここはすでに太陽の魔神の領域だ。どんなことが起きても不思議じゃない。だというのに、この静けさはなんだい? 全然落ち着かない」
エイリスさんの言うことはもっともでした。
口では待っていると言っておきながら、何か仕掛けてくるのだろうとは思っていました。
私達は、ひたすら階段を上るだけです。
「……あっ」
カサブレードが震えていました。最初は微々たるものでしたが、階段を上るたび、確実に振動が強くなっています。
「どうしたんだい、アメリア?」
「あ、いえ、その……カサブレードが反応しているなって」
「カサブレードが? ……どうやら、太陽の魔神は近いようだね」
誰も喋らなくなりました。
頂上までたどり着けば、待ったなしの戦いが始まる。おそらくは死闘になるでしょう。
怖くない、と言ったら嘘になります。ですが、それでも私はこのカサブレードを放棄するため、太陽の魔神をどうにかしなくてはなりません。
「二人共。歩きながら聞いてくれ」
エイリスさんは続けます。
「君達に出会えて、本当に良かった。そして、願わくばこれからも一緒に行動したいと願っているよ」
「はんっ。まるで遺言じゃねーか。急にビビったのか?」
「そうじゃない。だけど、言いたいことを言っておきたいと思っただけだよ」
「……そうか」
「マルファは言いたいことは無いのかい?」
「わたし~?」
少しの沈黙の後、マルファさんは言いました。
「生きて帰るぞ、必ずな。わたしはまだ魔法について、極めちゃいねぇんだ」
「はい! もちろんです!」
「ここまで来たんなら、アメリアも言っとけ」
「わ、私ですか?」
「そうだね。どうせなら全員だ」
困りました。何も考えていませんでした。
なんとなく振られるのではないかと思っていましたが、本当に振られるとは……。
ですが、今の気持ちを言葉にすれば、良いんですよね。
「まだまだ皆で楽しいことをしたいです。エイリスさんから古魔具のことを教えてもらったり、マルファさんと魔法の練習をしてみたり、二人にはメイド業務に付き合ってもらったり」
なんだ、何も考えていなくても、言葉が湧いてくるじゃないですか。
「太陽の魔神を倒しましょう。それで、日常を送りましょう」
皆の思いが出揃いました。
そんな中、いよいよ頂上が見えてきました。
「行って、帰りましょう」
私達は、頂上へたどり着きました。
「ここが、〈天空階段〉の頂上」
頂上は屋外となっていました。
雲一つ無い青空が広がっています。物語や絵本で描かれている決戦の舞台は、もっとどんよりしたものだというのに。
サンドイッチでも持ってくれば良かったと、本気でそう思える快晴でした。
そんな頂上の中心では、卵のようなものが鎮座しています。
カサブレードが鳴動します。
それで私は、目の前の
「これが、太陽の魔神の本体」
『然り。ここで我は復活の時を伺っていた』
卵が脈打ちます。振動はやがて強烈な風圧となり私達に襲いかかります。
「強風……! ですが、いつかは止みます」
私達は立っていました。そして戦闘準備に入ります。
「太陽の魔神、私は貴方を倒します」
『やってみろ。力の半分までしか取り戻せていないが、貴様らを撫でるには十分が過ぎるッ!』
空から炎をまとった岩石が落ちてきます。
私達はそれぞれのやり方で耐え凌ぎます。岩石の雨が止んだ直後、強烈な熱波が広がります。
「お前ら! わたしの後ろに隠れろ!」
叫び、マルファさんは両手を前に突き出します。
「お前用に特訓した防御魔法を見せてやるよ! 激流壁の魔法!」
分厚い水の壁が何層も出現しました。
熱波が水の壁とぶつかります。一層目、二層目、三層目……。水の壁はどんどん蒸発していきます。しかし、熱波は私達を飲むことはありませんでした。
「ちっ。めちゃくちゃ削りやがって! やりすぎなくらいがちょうどいいってことかよ!」
「マルファありがとう! 次はボクの番だ」
エイリスさんの持つカサミテーションが形を変えていきます。