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第103話 太陽の魔神、顕現

「――――!」


 渦の中は一体どうなっているのでしょうか。

 マルファさん曰く、うっかり中に入ったら、色々と覚悟したほうが良い。とのことでした。全く想像がつきません。


「思うに、渦を構成する魔力一つ一つに回転力を持たせたのかな?」

「ちっ。やっぱり分かるか」

「そりゃあね。だとするのならば、非常に破壊力がある魔法だね。……マルファ、これ人間に向けて使っちゃいけないからね」

「分かってるよ、んなもん。流石にこんなもん撃ったらどれだけ悲惨なことになるかぐらいな」


 エイリスさんはなんとなく察しているようですが、私はどうなるのか、想像できません。

 話が分かっていないと気づいてくれたのか、エイリスさんが補足します。


「要は無数の高速回転する刃の中に飛び込んだようなものだ。それなら想像つくかい?」

「……急に想像力が激減しました」


 あまりにも悲惨すぎるので、私は少しだけ考えて、あとはもう考えないようにしました。

 なるほど、確かにこれは人間に撃つ魔法ではありませんね。


「そろそろ、攻撃が止むぞ」


 話している間にも、渦はその場を蹂躙していました。

 サンハイルさんの悲鳴一つ聞こえないのが不気味です。

 果たしてサンハイルさんはどうなったのでしょうか。


「え……!?」


 攻撃が止んだ後の空間は悲惨なものでした。

 地面は半球状に抉れていました。まるでそこの空間だけ削り取ったかのようです。


「サンハイルさん……!?」


 サンハイルさんは立っていました。

 骨が折れているのでしょうか。全体的に立ち方がおかしいです。出血も凄まじいです。あの鎧のおかげなのでしょうか。


「フシュー……!」


 サンハイルさんは顔だけ動かし、私たちの方を見ました。


「ハハハハハ! お見事だよお前ら! おかげさまで全身の骨が砕けちまった! こいつはしばらく動けねぇ!」

「……普通ならもう死んでるだろ。大人しく死んどけよ」


 口こそ悪いですが、マルファさんはサンハイルさんの生命力にドン引きしているようでした。


「ボクがトドメを刺す」


 エイリスさんがサンハイルさんへカサミテーションを向けました。


「ボクはいずれこの国を導かなければならない。きっと、手を汚すこともあるだろう」


 カサミテーションの先端に魔力が集中します。


「だからこそ今、汚す。最初が君で良かったよ、サンハイル。国を守ることで生まれた汚れだったと、罪悪感が少し軽くなるよ!」


 カサミテーションから魔力が解き放たれる。

 次の瞬間――!



『とうとうこの瞬間が来た』



 声が聞こえました。

 その直後、サンハイルさんの足元から光の柱が立ちました。

 光に包まれたサンハイルさんの体から、魔力に似た何かが漏れ出しました。


「ァァガ!? テメェ、太陽の魔神……! とっくの昔に目覚めてやがったのか!」

『気づくのが遅いな。おかげでなんとも愉快な舞踊を堪能したわ。礼を言おう』

「そのついでに俺の力を吸っているのかよ。蚊みてぇな奴だなお前はよ!」

『ほぉ、その解釈は中々に合っている。全てのものに恵みを与える――貴様が蚊と呼称したその生物は、恵みを運ぶための仕組みとして作った要素の一つよ』

「出てこいや! タイマンだ! 俺はテメェとの戦いを待っていた! 来いよ! 早く早く早く!!!」

『フゥゥーム? 何故、願いを叶えてやらなければならないのかと答えるところだが、今回は特別だ』


 きらきらと光が集まっていくと、やがて人のような形になっていきました。

 全身が光なので、目だとか、そういうパーツは存在しません。

 サンハイルさんはその姿を見て、喜びます。


「出やがった! お前が太陽の魔神サマか!」

『そうだ。ほうら、来たまえサンハイルよ。我と似た者よ』


 その言葉で、サンハイルさんの表情が一変しました。

 徐々に身体が動き出します。高い自己治癒能力が傷を癒やしたのでしょう。


「俺だ!」


 サンハイルさんは太陽の魔神目掛け、駆け出します。


「死にな太陽の魔神! 死んで、俺になれ!」


 サンハイルさんが跳躍しました。サンハイルさんのブレスレットが剣に変わります。落下の勢いを利用し、サンハイルさんは太陽の魔神へ剣を振り下ろします。



『それはこちらの台詞なのだがなぁ』



 太陽の魔神の拳がサンハイルさんの腹部にめり込みます。一瞬浮くサンハイルさん。太陽の魔神は一瞬で蹴りや殴打を複数回入れました。

 ぐるりと白目をむくサンハイルさん。そして、まるでゴミ袋を持つかのように髪を掴み上げました。


『燃やし尽くすことも出来たのだがな。それをやってしまうと、我は我を取り戻せない』


 そこからの光景は異様なものでした。

 まるで捕食でもするかのように、太陽の魔神はサンハイルさんを徐々に飲み込んでいきます。


「ちっ! 助けるつもりじゃあないが!」


 マルファさんが水球の魔法を放ちました。ありったけの魔力を込め、巨大化した水球が太陽の魔神へ向かっていきます。

 しかし、水球は太陽の魔神へ触れる寸前に蒸発し、消えてしまいました。


「……おいおい。込められる分だけ込めたつもりだぞ? 不意打ちどころか、攻撃にすらならねぇってのかよ」

『今のは打ち水か? だとしたら礼を言おう。おかげですずめたぞ』

「おまけにわたしの魔法は清涼感を提供しただけかよ」


 不意打ちをしたはずです。明確な敵対行動。しかし、今この瞬間も太陽の魔神は、私達の方を一切見ていません。

 やがて、サンハイルさんは完全に飲み込まれてしまいました。


『ふぅーむ。やはり力の一片どころか、カスを無理やり人形ひとがたにするのは横着が過ぎたな。おかげで吸収効率が悪い』

「真の姿じゃないんですか!?」


 思わず私が口にした言葉に対し、太陽の魔神は首を縦に振りました。


『そうさ。そして次はお前だ、カサブレード使い』


 今までこちらを一切見なかった太陽の魔神が、とうとう私達へ顔を向けます。

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