目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第102話 三人の奥の手

 サンハイルさんの光の鎧は神々しく輝いていました。

 あれがあのブレスレットの真の姿とでも言うのでしょうか。


「ようやくこの姿をお披露目出来たな。こいつはブレスレットの力を完全解放した姿だ」

「こ、れは……。なんて神聖さだ。それでいて淀んだ空気を放っている」


 エイリスさんがカサミテーションを構え直しました。


「とんでもねぇ力を感じる。これがあいつの奥の手なんだな」


 マルファさんのこめかみに、一筋の汗が流れました。


「サンハイルさん! 私達を手に入れるとはどういうことですか!?」

「この姿を見せたんなら、もう隠すことはねぇな」


 サンハイルさんは〈天空階段〉を見上げました。


「太陽の魔神の復活が近い。俺はこの戦いから出るマイナスエネルギーを食らわせ、奴を復活させる」


 そして、サンハイルさんは拳をぐっと握りしめました。


「そのうえで奴を喰らう! 奴は俺似ていると言いてぇんだろうが、違うね。奴俺に似ているんだよ」

「そんなことが……!」


 サンハイルさんは私の言葉を遮ります。


「あるねぇ! 俺は俺だけだ。似ている存在なんていない、俺が唯一だ」


 光の鎧から光線が放たれます。光線は何度も直角に曲がり、私達に襲いかかってきます。


「カサプロテクト!」


 私は光線の前に移動し、カサブレードを防御形態に切り替えました。

 カサブレードから防御障壁が展開されます。これでなんとか防ぎきります。

 ですが、光線はカサプロテクトを目前に、更に直角に曲がりました。


「まずっ……! エイリスさん、マルファさん防御を!」


 折れ曲がった光線が地面に着弾しました。次の瞬間、爆発を起こしました。

 閃光と爆風が私達をかき回します。上下の間隔が一瞬失われました。

 なんとか体勢を立て直した私は、すぐにカサブレードを構え直します。


「ほう……まだ慣れないからか、狙いがズレちまったようだな。本当は直撃させるつもりだったのにな」


 だが、とサンハイルさんは余裕の笑みを崩しません。


「またぶちこめば良いだけだ」


 サンハイルさんの鎧に、光の粒子が集束していきます。

 同時に私は走り出しました。またあの光線が放たれたら、ひとたまりもありません。

 大きな一撃を放たれる前に押さえ込む。これが私の判断です。


「判断が良いねぇ。だが!」


 サンハイルさんの右手に光が集まり、剣へと形を変えました。

 カサブレードと光の剣がぶつかります。あれは魔力で出来ているのでしょうか? 質量を感じません。

 サンハイルさんが手に力を込め、僅かに私のカサブレードを跳ね上げました。


「さっきのようにいくと思うな」


 なんと、もう片方の手から光の剣が生み出されたではありませんか。

 完全に意表を突かれました。防御が間に合いません。カサブレードの力を引き出し、更に防御力を上げようと試みます。


 次の瞬間、サンハイルさんの顔面に光弾が直撃しました。


「ちぃっ!!」

「アメリアに気を取られ過ぎだ!」


 攻撃の主はエイリスさんでした。カサバスターのようにカサミテーションを構え、先端部から光弾を撃ったようです。

 完全に隙を突けたからか、鎧に集束した光の粒子が霧散します。

 チャンスだと感じた私は、エイリスさんの攻撃に便乗することにしました。


 サンハイルさんの顔めがけ、カサブレードを振るいます。一度、二度、三度。何度も何度も叩きつけます。

 これで倒れてくれたら何も言うことはありません。私はただ、カサブレードを振るい続けるだけです。


 最後に一発、顔面へフルスイングしました。


 サンハイルさんが吹き飛び、何度も地面をバウンドします。

 手応えは十分。ですが、これで終わったとは思いません。

 私が油断なくカサブレードを構え直したあたりで、サンハイルさんは立ち上がろうとしていました。


「ぐ……く、くくく。くはははは! まじでやるわ。こいつら、本当にやる……!」


 立ち上がり方に余裕が見えません。

 どうやら確実にダメージが入っているようです。

 でも、あと一歩足りないようにも見えました。


「こうじゃなきゃ……お前らを連れてきた意味がない……!」


 サンハイルさんの鎧が再び形を変えます。

 今度の姿には鎧感はなく、どちらかというと、ボディースーツのようでした。


「更に姿を変えた!?」

「あまりの怒りによって、この力になれたようだ。さぁ、ここからが本番だ!」


 ここからが本番?

 いいえ。いいえいいえ。それは大きな間違いです。


 だってこっちは、最初から本番なんですから!



「ありがとうな。アメリア、エイリス。おかげで、出来た・・・



 マルファさんの頭上高く。そこには巨大な魔力の渦が生み出されていました。


「――螺旋圧壊の魔法。アメリアとエイリスが時間を稼ぐ前提の攻撃魔法だ」

「させるかよ!」


 私とエイリスさんは同時にサンハイルさんを押さえにかかります。完全に用意が整うまで、私達は死に物狂いでサンハイルさんを止めます。


「マルファさん! お願いします!」

「マルファ! 気合だよ!」

「へっ、どっちも言われなくても分かってっつーの!」


 マルファさんが手を振り下ろすと、巨大な魔力の渦がサンハイルさんへ襲いかかります。


「これがお前らの切り札か! ならば止める! そうでなくては俺は俺でいられない!」


 私達が離脱した後、覚悟を決めたサンハイルさんが魔力の渦へ挑戦しました。

 なんと、防御行動すら取らず、螺旋圧壊の魔法を受けたではありませんか。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?