サンハイルさんはブレスレットを天高く掲げます。
嫌な予感がした私は一歩前に出て、エイリスさんとマルファさんをかばうような位置取りをします。
「カサプロテクト!」
「日光は刃となりて!」
ブレスレットが弾け飛んだかと思えば、その一つ一つが光の刃と化します。全方向へ飛び散る光の刃はありとあらゆるものを切断していきます。
そんな強力な光の刃がとうとう、カサプロテクトの防御障壁へ衝突します。
「ツ――!」
「流石はカサブレード、といったところか。切り刻むつもりだったのに、上手く逸れやがった」
弾け飛んだブレスレットは光の粒子へと変わり、サンハイルさんの左腕へ戻っていきます。
カサプロテクトの障壁はズタズタでした。本来なら傷一つつかないはずなのに、衝撃の結果でした。
「エイリス、アメリア! わたしの時間を稼いでくれ!」
「了解。アメリア、いけるね」
「もちろんです!」
私とエイリスさんはそれぞれサンハイルさんを挟み込むように走り出しました。
サンハイルさんは何かを警戒しているのか、じっとしているだけです。
「アメリア! カサフック!」
「はい!」
私とエイリスさんはそれぞれのカサブレードを逆さまに持ち、勢いよく振り抜きます。カサブレードの柄がまるでロープのように伸びていきます。
ロープがサンハイルさんの体に絡みつくと、最後に『J』字型のハンドル部分でがっちりと固定します。
「手際が良いな! それで次は何をしてくれるんだ!?」
「お前をぶっ飛ばす魔法をプレゼントしてやる、よ!」
マルファさんの指先から細い光線が放たれました。光線はサンハイルさんの手前で、
「ほっ、ほぉう……!?」
なんと、広がった光線は全てサンハイルさんを貫いていきました。
人に撃つ魔法ではない。私は直感的にそう思いました。しかし、それくらいの魔法でないと、サンハイルさんを行動不能にすることは出来ません。
「
「死ねるな、こりゃ。その辺にいるやつなら、もうこれで終わっているだろうさ」
全ての拘束から逃れたサンハイルさんはよろめいています。様々なところから出血し、明らかに深手を与えられたと認識できます。
ですが、サンハイルさんの傷が徐々に塞がっていくのが分かります。
「回復魔法でも使ったのか?」
マルファさんは冷静にこの現象の正体を見極めようとしています。
しかし、その正体は非常にあっさりしたものでした。
「俺は人よりも自己治癒能力が高いようでな。太陽の魔神の力を使えば、回復魔法並の回復力にはなるさ」
「ちっ。化け物が」
「化け物ね。なら化け物らしく暴れるから、退治をしてもらおうか」
一度まばたきをしたら、サンハイルさんが目の前にいました。もう一度まばたきをしたら、サンハイルさんのブレスレットが片刃の剣に変わっていました。
そして、もう一度まばたきをしたら――凶悪な笑みを浮かべ、サンハイルさんが斬り掛かってきます。
「まぁ、これくらいで死なれちゃ興ざめだからな」
突風。その後、私は全身が冷たくなった後、痛覚が騒ぎ出しました。全身に鈍い痛み、そして出血。あそこまでめちゃくちゃに斬られて、よく生きているなと自分を褒めてやりたくなりました。
エイリスさんとマルファさんもそれぞれ、カサミテーションや防御魔法を駆使して、なんとか生き残ったようです。
あれでもまだ手を抜かれているような感覚がします。そんなわけがないのに。そのどれもが、私達を殺すための一撃だったというのに。
(いかなくちゃ……!)
私はサンハイルさんへ向かっていました。
カサブレードの力を引き出せている今の私が、一番動ける。
少しでも二人の回復の時間を稼ぐため、サンハイルさんへ仕掛けました。
「サンハイルさん!」
「来たか! アメリア・クライハーツ!」
片刃剣とカサブレードがぶつかります。
お互い一度距離を取った後、再び接近します。
サンハイルさんがデタラメに片刃剣を振り回します。それに対し、私は割と冷静に迎撃出来ていました。
何故か。
(フレデリックさんのほうが――上手かった!)
フレデリックさんと剣を交わしていた経験が生きていました。
この横薙ぎを耐えたら、次は上からの振り下ろしに注意。攻撃には流れというものがあり、一定のリズムやパターンがあります。
フレデリックさんはスパルタでした。とにかく様々なパターンで私を殴り倒していたので、次にどんな攻撃が来るか、とにかく予想しなければなりません。
「メイドか、本当にお前」
予想して、防御して、出来そうなら反撃をしてみる。そうしなければ、ただ殴られて終わりだから。
フレデリックさんとの死なない特訓は、私を死ぬ気にさせていました。
サンハイルさんの肩が一瞬大きく動きました。この肩の動きは知っています。
突きの予備動作だと確信した私は、その
「そこで更に踏み込んでくるのか!」
「メイド魂ィー!」
サンハイルさんの突きより、私の方が――少しだけ速い。
私はサンハイルさんの脳天へ、カサブレードを振り下ろしました。
「ぐ、お……!」
手応えがありました。追撃をしようとしたら、サンハイルさんが大きく距離を取ります。
「……本当に強くなっていてくれて、嬉しいわ。」
サンハイルさんが片刃剣を放り投げます。すると、光の粒子となり、再びサンハイルさんの左腕に戻っていきました。
「ここまで育てられて俺を褒めてやりたいなぁ!」
サンハイルさんのブレスレットが強く発光します。
一瞬腕で目を覆ってしまいました。光はすぐに消え失せ、その代わりに目にしたのは――。
「俺は俺のために、お前らを手に入れよう」
光の鎧をまとったサンハイルさんでした。