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第100話 開戦

「それでよぉ。あの爺さんが作った空間ときたら想像以上に堅くてな。ぶっ壊すのにだいぶ時間かかったんだわ」


 なんとも複雑な空気でした。

 サンハイルさんが先頭になって歩いているのですが、ずっと口を動かしていました。

 エイリスさんとマルファさんは無視していましたが、私としてはそれは少し抵抗があるので、返事をしていました。


「どうやって壊したんですか?」

「あぁ? そんなもんこのブレスレットを使ったに決まってんだろ」

「そのすごいブレスレットですか? それならもっと早くに壊せそうな気が……」


 私はサンハイルさんが初めてブレスレットを使ったときや、ガーフィ様との攻防を思い出します。


「俺もそう思っていたんだけどな。誤算だったわ。けどまぁ、そのおかげでブレスレットの使い方も分かってきたから結果オーライなんだわ」

「そ、そういうものなんですね」

「そういうものなんだ。お勉強になったろ」


 実はこのやり取りはあまり苦にはなりませんでした。

 サンハイルさんがずっと喋りっぱなしというのもあるのですが、なんとなく会話を続けやすいのです。

 エイリスさんとマルファさんはずっと睨んでいました。それに気づいているのか、サンハイルさんは二人をちらりと見ます。


「お前らさ。せめて殺気は隠せよ。マナー違反だろ」

「……人として色々とマナー違反している奴に言われたくはねーよな」

「サンハイル。ボク達は君がいつ急に襲いかかってきても良いように準備をしていることだけは忘れるな」


 真正面からの敵意を浴びてもなお、サンハイルさんは終始、余裕の表情を浮かべていました。実力からくる余裕なのでしょうか。


「はっ。いくら準備してようが、その時は一瞬でやってきて、一瞬で終わるんだぞ」


 たった今、開戦してもおかしくはありません。

 だって、そういう間柄なのですから。

 瞬きをした瞬間、サンハイルさんは私達に襲いかかってきても、驚きません。


「あの、サンハイルさんはどうして〈天空階段〉までついてきてくれるんですか?」

「なんでそんなこと知りてぇんだ? 気になるのか?」

「気になります」

「……そうか。俺はそういう正直な奴は嫌いじゃねえ。教えてやるよ」


 サンハイルさんが〈天空階段〉の方を指さしました。


「あれがどういう状態か分かるか?」

「分かりません。あそこだけ太陽の光が強いような気がします」

「良い見立てだな。あれは、要するに太陽の魔神の力が漏れ出しているような状態なんだよ」

「! じゃあ、もうすぐ復活ということですか!?」

「すぐというわけじゃねぇよ。ただ、秒読みに入りそうな状態であることは間違いない」


 私はそこで疑問が浮かびました。

 どうしてそんな重要なことを話すのでしょう。それなら、私達のことを遠ざけて時間稼ぎでもすればいいのに。


「お前いま、『どうして内緒にしておかないんだろう』とか思っただろ」

「! な、なんで!? もしかしてそれも太陽の魔神の力ですか!?」

「お前の顔が分かりやすいだけだ。質問に答えるとするなら、内緒にするまでもない、ということだ」


 サンハイルさんは続けます。


「お前らが何をどれくらい知ったとしても、どうせ死ぬんだ。なら、雑談に花咲かせようぜ」

「……サンハイルさんは一体何をしたいんですか? 一体どうしてこんなことを?」

「さぁてね。もしも俺に勝てたら教えてやるよ」



 とうとう、着きました。

 見上げてもなお、その全容が分からない塔――〈天空階段〉。かつて、人間が神々と交信しようと建てられた塔。



「さ、てと。ようやっと着いたか」


 サンハイルさんはポケットに両手を突っ込んだまま、私達の少し前を歩きます。

 やがて立ち止まり、ゆっくりと体を向けます。


「太陽の魔神は争いを求めている。人間同士の戦いによって生まれるマイナスエネルギーを餌にしているんだ」


 サンハイルはポケットから手を出しました。

 左腕には、あの太陽のブレスレットが着けられていました。


「お前たちをここに連れてきたのは何も慈善事業じゃあねぇ。お前たちから抽出されるマイナスエネルギーを食らわせてぇだけだ」


 太陽のブレスレットは形を変え、棍棒状に変化しました。


「ハハハハハ! 戦うぞテメェら。ここまで来たテメェらに逃げるという選択肢は存在しねぇ! あるのは戦うか、俺にひれ伏して生きる力が抜けた人形になるかだ!」


 サンハイルさんから伝わる圧倒的な力の波動は、まともに受ければ気絶でもしそうな圧でした。

 ですが、負けません。

 先に言われたのはしゃくですが、私達に逃げるという選択肢は最初からありません。


「それじゃあバトルスタートか! いきなり死ぬんじゃねーぞ!」


 サンハイルさんは棍棒で地面を殴りました。

 その瞬間、爆風と閃光が私達を飲み込みます。


「ぐ、ぅぅ……!」


 吹き飛ばされそうになりました。なんと暴力的な風なのでしょう。少しでも足の力を緩めれば、あっという間に持っていかれそうなほどです。

 以前の私なら、ここで吹き飛んでいたに違いありません。ですが、今の私はその先を歩いていけます……!

 一歩ずつ確実に。ですが、力強く、確実に。

 風の中に、光。

 私は一気に駆けました。


「ほう!」


 サンハイルさんの姿が見えたのと同時、私はカサブレードを振っていました。

 サンハイルさんの棍棒とぶつかり合います。


「成長したっていうのは本当らしいな! 前だったら、いまのでお前ら全員終わっていたと思うんだけどなぁ!」


 エイリスさんはサンハイルさんの脇腹にカサミテーションを叩きつけました。間髪入れず、マルファさんが氷塊を作り出し、サンハイルさんの顔面へ射出しました。


「ッ! それに良い反撃をする! 鋭くなったなぁオイ!」


 サンハイルさんの棍棒がブレスレットの形へと戻っていきました。

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