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第99話 サンハイル、再び

 エイリスさんは終始圧倒していました。攻撃を受け流したり、はたまたひらりと避けたり、カウンターも合わせてみたりとやりたい放題です。

 そんな中、マルファさんが全く違う方向を見上げていました。


「戦いの匂いを嗅ぎつけてきたな」


 マルファさんが指差す方向を見上げると、オオワシのような魔物が空を旋回していました。

 そこで私は、魔物がエイリス達をちらりと見たのを確認します。負けた方を襲うつもりだ、ということを察しました。

 私はカサブレードを手の内に出現させました。カサバスターで撃ち落とすか、カサフックで地上へ引きずり落とすか。遠くてもやりようはたくさんあります。

 そう思っていたところで、マルファさんは手で私を制しました。


「ここはわたしの出番だ。アメリアは体力温存してな」


 そう言った後、マルファさんは右拳を魔物へ向けます。その後、人差し指と親指を伸ばします。

 次の瞬間、マルファさんの周囲に魔力の粒子が集まってきました。これは一体どういうことなのだろうか。

 私が聞く前に、マルファさんが教えてくれました。


「魔力ってのは理論上無限にある。わたしがやっていることは、その無限の一部をちょいと集めているだけさ」


 マルファさんの人差し指に魔力が集中しているのが分かります。

 今まで見た魔法のどれよりも、強大な気配を感じます。


「マルファ、適当に時間を稼いでいてよ。すぐにボクが助けに入るからさ」

「言ってろバーカ。逆にわたしが助けに入るまで死ぬんじゃねーぞ」

「それは大丈夫。気にしないでおくれ」


 エイリスさんと魔物の戦いも終わりに近づいてきたようです。

 エイリスさんはカサミテーションを逆手に持ち直します。


「はぁ……!」


 カサミテーションの本体が僅かに輝きます。すると、カサミテーションの形に沿った魔力の刃が形成されていくのが分かります。

 危険を察知した魔物が迅速にケリをつけようと接近します。ですが、それよりも早くエイリスさんの準備が終わりました。


「これがボクなりの、カサブレードだッ!」


 逆手に持ったまま、エイリスさんはカサミテーションを振り抜きました。魔物はとっさに両腕で防御しようとしましたが、カサミテーションはその防御ごと切り裂きます。

 僅かな抵抗の後、カサミテーションの魔力刃は魔物の上半身を真っ二つにしました。


「よし、いい具合。中々の働きを約束できそうだ」

「す、すごいですエイリスさん! こんなにすごいものを作るなんて……!」

「苦労した甲斐があったというものさ。さて、マルファ。助けはいるかい?」

「いらねぇ」


 次の瞬間、マルファさんの指先から細い光線が放たれました。

 オオワシのような魔物が攻撃に気づき、避けようとします。

 しかし、光線はほうきのように広がっていきました。いきなりの変化に魔物は避けられるわけもなく、すぐに蜂の巣となりました。

 落ちていく魔物を見ながら、マルファさんは魔法の名を口にしました。


箒星ほうきぼしの魔法――わたしオリジナルだ」

「マルファさん、すごいきれいな魔法ですね! しかも箒なのがなお良いです!」

「そうだろそうだろ。わたしはすごいんだよ。ちなみにもう一つ魔法があるが、それはあとのお楽しみってことで」

「うん。あれだけ広範囲に攻撃できる魔法はそうお目にかかれるものじゃあない。マルファ、すごいね」

「な、なんだよエイリスまで。褒めても何も出ねーぞ」


 エイリスさんはカサミテーション。

 マルファさんは箒星ほうきぼしの魔法ともう一つの魔法。

 なんと頼もしいのでしょう。私も負けてはいられません。


 それからは特に魔物が襲いかかってくるわけでもなく、私達は先へ進むことが出来ました。

 ですが、変化はあります。


「……」


 徐々にですが、嫌な感じが強くなってきました。

 この騒動の原因へ近づいているのか、それともまた別の何かへ近づいているのか。

 私は少し考えた後、一旦忘れることにしました。

 歩き続けていれば、必ず目的地へたどり着きます。

 今はただ、心を落ち着けるときです。


「見えてきたね」


 エイリスさんが前方を指差すと、遠くに塔のようなものが見えてきました。

 あれこそが〈天空階段〉と呼ばれる場所なのでしょう。


「あれは……?」


 塔の頂上は雲がかかっていて良く見えません。それにしては明るすぎるような気がします。気のせいか、あそこだけ太陽の光が強いような気がします。


「アメリア、何か分かったのかい?」

「い、いいえ。ただ、あの塔から感じられる神々しさは何なんでしょう。神聖さがすごいというか、まるで本当に神様があそこにいるような感覚になります」


 すると、



「良い感性をしているじゃないか。やっぱ、イイわお前」



 聞き覚えのある声がしました。

 声のする方へ顔を向けると、そこにはあの人が――サンハイルさんがいました。

 驚きはしませんでした。むしろ、やはりというような感想でした。


「驚かないんだな」

「サンハイルさんは絶対に現れると思っていましたから」

「良い顔になったな。何を手に入れた?」

「サンハイルさんに負けない気持ちと、手段を掴みました」

「……なるほど。手に入れたのは覚悟か」


 私達は無言で戦闘準備を終えました。

 ここがどこであろうと関係ありません。サンハイルさんにとって、場所の有利不利なんて存在しないのでしょうから。

 サンハイルさんも武器を抜くかと思いましたが、なんと私達に背を向けました。


「え? 何を?」

「何って、〈天空階段〉までついていくに決まってんだろ。おら、早く行くぞ」


 サンハイルさんは戦うどころか、同行を申し出てきたのです。

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