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第117話 燻る太陽 3(エイリス視点)

 スピア・イーグルの攻撃は苛烈なものだった。

 身軽さと高さを生かし、槍のようなくちばしでボクに風穴を開けようとしてくる。カサミテーションでいなしながら、攻撃のチャンスを伺う。

 様子がおかしいとはいえ、命のやり取りに関しては全く問題なさそうに見える。


「カサミテーションの砲撃か大剣形態で一気に落としたいところだけど……」


 カサミテーションはカサブレードの形態を模倣している。そのため、カサブレードが可能なことはそれなりに出来るため、攻撃手段には困らない。

 問題はどのようにしてスピア・イーグルの足を止めるかだ。

 思考している間にも、スピア・イーグルは何度も襲い掛かってくる。

 意思を持つ矢と対峙しているかのようだ。立ち止まっていると、あっという間に貫かれてしまうだろう。


「とりあえず試しの一発を……!」


 選択したのはカサミテーションの砲撃機能。空を縦横無尽に飛び回るスピア・イーグルへ大雑把に狙いをつけ、撃った。

 カサミテーションの先端から光線が放たれる。しかしボクの予想通り、スピア・イーグルはひらりと避け、再び襲い掛かってくる。


「やっぱり駄目だったか」


 防御魔法を使う時間がなかったため、カサミテーションでスピア・イーグルを叩き、僅かに軌道をそらす。スピア・イーグルは少し痛みを感じたのか、一度空に戻り、旋回を始める。


 ……中々良い手なのでは?


 下手に大振りの攻撃をするより、体力の消費を抑えられて良いのかもしれない。

 そうなると、問題がある。それは失敗したときだ。


「少しでも反応遅れると、きっと痛いんだろうな」


 次に襲い掛かってくる時。それが決着の時だ。

 少し怖いな。けど、アメリアなら全力でやりきるだろうし、マルファならもっと良い方法であっさりと解決してしまうのかもしれない。


 ボクにはないモノを持つあの二人。

 そんな二人がとても羨ましくて、それでいて一緒にいられることに誇りを感じて。


 そうだね。

 うん、やっぱり一か月後だなんて制限をつけたのは大失敗だ。


 ボクは怖かったんだ。

 いつか王女に戻る自分から二人が離れていくことを。いつか来る終わりに対して、完全に受け入れていなかったんだ。



「違うよね。ボクはイーリスであり、エイリスだ。なら、どっちも・・・・こなせば良い!」



 スピア・イーグルが高度を下げてきた。

 今までにない速さで襲い掛かってくる。それがどうした。

 突進に合わせ、ボクはカサミテーションの持ち手を引っ張った。すると、そこからロープが伸びる。


「カサミテーションのワイヤーフック!」


 突進を避けたのと同時に、ロープをスピア・イーグルへ巻き付ける。古魔具収集をする際の技術として、ロープ投擲の技を磨いていた甲斐があったようだ。

 ロープはしっかりとスピア・イーグルへ食い込む。間髪入れず、ボクはスピア・イーグルを地面へ叩きつけた。

 そしてすぐにカサミテーションの先端をスピア・イーグルへ押し付けた。


「真似させてもらったよ、アメリア。君がブレネンに仕掛けた戦法だ」


 光線がスピア・イーグルの胴体に大穴を開けた。



 ◆ ◆ ◆



 あの後、ボクは城へ戻った。


「……ふぅ」


 ボクの仮説は間違っていなかった。

 スピア・イーグルを簡単に埋葬した後、ボクは再び花の中心点へ向かい、あの力が太陽の力だということを再確認した。

 そうなれば、また気になることが出来た。


 どうしてあんなところにそんな力が生まれたのか。


 全然きっかけが見つからない。

 何かがあったから、あそこだったんだ。


「……少し歩こうかな」


 ボクは気分転換に廊下を歩くことにした。もちろんイーリスの格好でだ。

 分かったことが少ない。けど、ボクは何故かこれで調査を打ち切ってはいけないと思ったんだ。


「どうもっス、イーリス王女! 今日もお元気そうでー!」


 遠くから手を振ってきたのは、この城のメイド長であるルミラだった。

 アメリアの元同僚にして、この城で最高のメイドだ。


「ご機嫌ようルミラ。今日も張り切っていますね」

「へへっ。そりゃあそうっスよ! なんせあたしはメイドっスから!」

「ふふっ、アメリアが聞いたらとても喜びそうね」

「だったら最高っスね! あー、アメリアさんの話を聞いたら、また一緒に働きたくなったっスねぇ」

「ルミラはアメリアと働きたいの?」

「もちろんっスよ! だってアメリアさんは尊敬する先輩っスからね!」

「アメリアは幸せ者ね。こんなに慕ってくれる子がいるなんて」


 これはボクの本音だ。

 一生懸命な者に、人はついてくる。ボクもアメリアのひたむきな姿を見て、背筋が伸びる瞬間が何度もあった。

 きっと、ルミラも同じ気持ちなのだろう。


「でもアメリアさん今、期間限定で働いているらしいからなー。無理っスよねー」

「へぇ、どこで?」


 すると、ルミラは笑顔のまま言った。



「ジム・パーナソン侯爵のお屋敷っス!」



「――え?」


 ボクは一瞬、時間が止まったような感覚を覚えた。


「え、ジム・パーナソン侯爵ってあのジム・パーナソン侯爵?」

「? もしかして同姓同名の貴族様がいるんスか?」

「い、いえ……。ごめんなさい、変なことを言ったわね。ちょっとわたくし、急用を思い出したので失礼しますね」


 ボクは急いで部屋に戻り、エイリスの姿になり、城を飛び出していた。


「アメリアがあの近くにいただって!?」


 目的地は決まっていた。

 走っている間、ボクは頭の中を整理する。アメリアという要素が加わった瞬間、どんどん仮説が生まれてきた。


(不可思議なキラーラビットはいわば、副産物・・・。ついでに起こった出来事だったんだ)


 人にぶつからないよう注意しながら、何度も角を曲がり、やがて一つの建物の前にたどり着く。


(もしキラーラビットやスピア・イーグルをおかしくさせた原因・・がいるのだとしたら……!)


 ボクは勢いよく扉を開け放った。


「マルファ!」

「うお!? エイリス!?」


 マルファと目が合った。心底驚いているようだったが、今はそれどころではない。


「どうしたんだよいったい。まるで緊急事態じゃねーか」

「緊急事態だよ。他でもないアメリアの件だ」


 もしもこの奇妙な出来事の中にアメリアがいるのだとしたら。

 アメリアに危険が迫っている。遠い未来ではなく、たった今にでも。

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