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第118話 間接的干渉(エイリス視点)

 ボクはマルファに今までのことを話した。

 すると、彼女は驚きの回答をしてみせたんだ。


「あ? 喋るキラーラビットならわたしが倒したぞ」

「マルファが!? それじゃあキラーラビットと会話はしたのかい?」

「あぁ、した。太陽のように光り輝くモノを口にした瞬間、ああなったんだとよ」

「太陽のように……! じゃあやっぱり、そのキラーラビットは太陽の魔神の力を取り込んだと考えて良さそうだね」

「わたしもそう思ったから、その認識で良いと思う」

「やはりか……。太陽の魔神関係は完全に終わったと思ったんだけどね」

「すっとぼけんなよ。一点を除いて・・・・・・、だろうが」


 マルファの目つきが変わった。そうだ、ボクはあえてその事実を避けた。

 そう、〈天空階段〉の頂上を最後に見なくなった人間が一人だけいる。


「サンハイル、だね」

「あぁ、分かってんじゃねーか」

「けど彼はボク達の前で飛び降りた」


 あの時、サンハイルは太陽の魔神から吐き出された。アメリアが精神世界で本体を撃破した影響だったのだろう。

 彼はもはや生きているのか死んでいるのかも分からない状態だった。

 ボク達が近寄ろうとした時、突然彼に生命力が漲った。


『はっ。俺はようやくサンハイルという個になれたんだ。誰にも、邪魔させねぇ』


 そう言って、彼は迷うことなく〈天空階段〉から飛び降りたんだ。

 結局彼の死体は見つからなかったが、あの状態で生きているとは考えにくい。

 アメリアが目覚めた後、ボクとマルファは互いに口裏を合わせたんだ。


「もしも、だ」


 そのうえで、マルファは言った。


「もしも奴が生きていて、アメリアを探していたのだとしたら?」

「……そう遠くないうちに突き止めるだろうね、どんな手を使っても」


 マルファはただの理屈至上主義ではない。こういった柔軟性があるから、マルファなんだ。

 あり得ない――それで終われば簡単なことを、マルファはあえて口にする。

 はっきりと口にされたからこそボクも、その仮説に現実味を感じる。


「それなら、あの喋るキラーラビットや、ボクが交戦したスピア・イーグルは、彼がアメリアを探すついで・・・に生まれたってことになるね」

「太陽の力を感じたんだ。今この世界に太陽の魔神の力が残っている奴なんて、サンハイルくらいしかいねーだろ」

「そう、だね。それなら全ての出来事に納得が出来そうだ」


 なら、とマルファが考え込む。


「奴はアメリアを見つけた、ってことだよな。あんなに近くまでやってきたんならよ。奴の性格ならアメリアの職場ごとぶっ壊しそうなもんだが……」

「どうだろうね。やりたくてもやれなかったのかもしれないよ」

「どういうことだ?」

「思い出してほしい。彼はボロボロだったんだ。あの怪我が今でも癒えていないなら、慎重になるんじゃないかな?」

「あー……なるほど。一理あるな」

「そういうこと。ボク達にはまだ少しだけ時間があるということだ」


 とはいえ、そこからどうするかはまた別の話である。

 本当はアメリアに合流でもすればいいのだ。しかし、ボク達がそれをしないのには理由があった。


「なぁ、どうするよ。アメリアと合流するか?」

「少しだけ様子を見たい」

「理由は?」

「あの素直なアメリアがすぐボク達に助けを求めていないんだ。何かがあるかもしれない、と考えるのが普通だろうね」


 これがボク達が慎重にならざるを得ない理由である。

 すでにサンハイルと会っているかもしれないアメリアが、今もこうして一人でいるのには何か理由があるのかもしれない。

 例えばそれが、自分だけでなく、他の人も巻き込むかもしれない状態だったのなら。


「そんなんのはわーってるけどよ。んじゃ、どうするんだ? ずっとここで張り込みでもするか?」

「それも手だろうね」

「手な訳ねーだろうが! お前は正体明かせば良いかもしれねーけど、わたしはどう見られても不審者だぞ。兵士呼ばれてアウトだ」


 すっかり状況は停滞してしまった。

 アメリアに何かが起きているのなら助けになる、という目的ははっきりしているのにそこからの一歩が中々踏み出せない。

 そんなボク達へ声をかける人がいた。


「あの、すいません。お屋敷に何か御用でしょうか?」


 一人のメイドが警戒の表情を浮かべながら、ボク達へ声をかけてきた。

 警戒されるのは当然だろう。冒険者の二人組が貴族の屋敷をうろうろしているなんて普通じゃない。

 強盗か、暗殺か、いずれにしても穏やかな想像をされていないことは確かだろう。むしろ、声をかけてくれるだけ、まだ話し合いの余地があると思ってくれているのだろう。


「失礼。さっきからウロウロしていたのを見られていたようだね。お恥ずかしい……」

「この屋敷の主と何かお約束を?」


 ボクは目の前の女性を見て、メイド長かそれに近しい立場であると予想を立てた。

 メイド服の質から見て、彼女はメイドの中でもそれなりの地位にいるのは明白だ。

 ボク達にとっては逆に都合が良かったのかもしれない。


「いいや、パーナソン卿に用事があるわけじゃないんだ」

「? すると、このお屋敷に何の用が? もしや……」

「安心してくれ。貴方が今、思い浮かべたような真似はしない。誓ってね」


 これ以上、上辺だけの会話を続ける訳にもいかないので、ボクは思い切ってアメリアの名前を出してみることにした。


「アメリア・クライハーツというメイドが働いていないかい?」

「さぁ……少し思い出してみます。ちなみにご関係は?」


 これも警戒されている。危機管理能力の高いメイドのようだ。

 安易に働いているかどうかを漏らさないあたり、かなり場慣れしているようだ。

 ならば小細工をする必要はない。この手の相手は、速やかに事実だけを伝えれば良い。


「友人、それもかなり親しい友人です。一緒に冒険もする仲です。どうぞ、冒険の履歴です」


 もしものときのために用意しておいた冒険者ギルドから発行された冒険の履歴書だ。これにはこなした依頼名や対応した冒険者名が記載されている。

 冒険者が自分を売り込む際、たまに申請がある書類だ。

 メイドはその履歴書を受け取り、パラパラとめくっていく。やがて、自分の中で整理がついたのか、小さく頷いた。


「確認できました。アメリア・クライハーツさんは確かにこの屋敷で働いています。呼んできましょうか?」

「あ、いや。呼ばなくてもいいかな。それよりも聞きたいことがあるんだ」


 直接会うことは慎重になるが、こうして間接的に干渉するのは許されるだろう。

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