「アメリアさんの様子がおかしいかどうか、ですか」
少し会話を重ねて分かったことがあるが、やはりこの女性はこの屋敷のメイド長だった。
メイド長は特に誤魔化す様子はなく、最近のアメリアの状況を話してくれた。
特に問題はないように感じた。真面目だし、呑み込みが早いし、何より技術がある。
最近は正式に働かないかと打診したそうだ。
「あぁ、でも」
メイド長の口から気になることを口にした。
「明日、お休みを頂けないかと話がありました。当然認めましたが、非常に申し訳なさそうにしていましたね。休みは権利なのだから、堂々と取得しても良いのに」
ボクとマルファは思わず顔を見合わせた。
「おい……」
「分かってる。どうやら事態は深刻そうだね」
あのアメリアが自分から仕事を休む。
非常事態に他ならない。アメリアはメイドの仕事が大好きすぎるあまり、ずっと働いていたい人間だ。
誰かから強制的に休暇を与えられるならまだしも、自分から休暇を取得するなんて考えにくい。
「明日が休み。ということは明日に何かがあるのかな?」
「違うんじゃねえか? わたしはどちらかというと、今夜の気がしてならない」
「根拠は?」
「あのアメリアが一日休むなんて考えられるか? 今夜、もしくは明日にもつれ込む可能性があるから明日を予備日とした。そうは考えられないか?」
確かにその通りだ。休むにしても、アメリアなら五分もあれば良いと言いそうだ。
「……一理ある」
「だろ? だからこうしようぜ」
マルファはボクに耳打ちをしてくる。
その案を少し検討し、ボクは実行の方向で頷いた。アメリアがここにいると分かっている以上、マルファの案が一番確実な気がしたからだ。
「アメリアさんに会わなくても良いのですか?」
去ろうとするボク達をメイド長が引き留めた。きっとこちらを気遣ってくれたのだろう。
だけど、ボク達は笑顔で首を横に振った。
「お気遣い、ありがとう。だけど、ボク達はまた会うと約束しているので、今は良いんです」
「そうですか。なら私はこれで」
「あ、最後に聞きたいことがあるんだ」
そう、アメリアとは必ずまた会う。だから、今は――。
◆ ◆ ◆
その日の夜。
ボクとマルファは屋敷が良く見える茂みに隠れていた。
「あれがアメリアの部屋か」
「わたしらの考えすぎなら良いんだけどな」
「そうだね。それが一番良いだろう。この時間が無駄であって欲しいものだね」
そう喋っていたのも束の間、周りの空気が一気に変わった。
「! おい、エイリスあれ見ろ」
「あれは……!」
暗くてはっきりとは見えなかったが、あの人影はサンハイルと酷似していた。
「サンハイルのように見えるな」
「足を少し引きずっているね。ボク達が最後に見た姿と同じだ」
やはりサンハイルは生きていたのだ。
それならば彼がどういう目的でアメリアに近づいたのかも想像ができる。
決着をつけにきたのだ。
「いくか、エイリス?」
「少し様子を見よう。サンハイル絡みでもアメリアがボク達に助けを求めなかった理由を考えるんだ」
「……やっぱ、アメリア以外があぶねーってことなんだろうな」
「そうだね。そして、その対象が屋敷の人達だということで間違いなさそうだ」
サンハイルは二階へ飛び、アメリアの部屋へ入っていった。
数分後、サンハイルと一緒にアメリアが地上へ飛び降りた。
「どこかへ行く気だな。おいエイリス、流石に追うよな?」
「もちろん」
◆ ◆ ◆
サンハイル達が立ち止まったのは、近くの平原だった。
「エイリス、まだ見てる気か?」
「言いたいことは分かっている。でも、だからこそボク達がすぐに出ていくわけにはいかないと思う」
次の瞬間、マルファがボクの胸倉を掴んだ。
「アメリアが死ぬぞ。あいつが今、丸腰なのは分かってんだろ……!」
マルファの言葉に怒気が滲みだした。
分かっている。全部、分かっている。
アメリアには今、カサブレードがない。
ボク達もその事実は良く分かっていた。
だからこそ、良く分かっているんだ。アメリアが危ないことも、アメリアが死ぬかもしれないことを。
「それでも、ボクは見たいんだ。カサブレードのないアメリアが、一体どうして抗うのかを」
「お前……!」
アメリアは懸命に戦っていた。カサブレードを使えないからこそ繰り出せる手を使って。
しかし、サンハイルにとって、それは子供だましだ。
所詮はカサブレードのない、ただの人間。
これは戦いではない、弱い者いじめだ。
だけど、アメリアは決して弱音を吐いていない。
必死で抗おうとしている。
そうか。
カサブレードがあるからアメリアは戦ったんじゃない。いついかなる時でも勇気を振り絞って立ち向かえる、それがアメリアなんだ。
「っ!」
サンハイルがアメリアの首を掴んだ。そのまま持ち上げる。
マルファが今にも飛び出しそうだ。
「おいエイリス、もう良いよな。というか止めてもわたしは行くぞ」
「安心してくれマルファ」
アメリアがじたばたしている中、サンハイルが言った。
「でもまぁ、俺の心の整理をつけたい。死ねや」
同時に、ボクはカサミテーションの砲撃形態で狙い撃った。
「ボクも飛び出したくなった頃合いだ」
光線がサンハイルに直撃した。