目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第120話 私のカサブレード

 意識の糸が切れる刹那、暖かな光が通り過ぎました。


「ぐ、おお! こいつは!」

「エイリスさん!? マルファさん!?」


 ここにいるはずのない人間。エイリスさんとマルファさんが現れました。

 どうして、一体なんで? このことは誰にも話していないはずなのに……!


「やぁアメリア。偶然にもやってきたら、君がピンチだったので助太刀させてもらったよ」

「んだよ、そのご都合主義すぎる理由はよ。おーいアメリア、サンハイルぶち倒しに来たぞ」

「ど、どうしてここが分かったんですか!?」


 するとエイリスさんがサンハイルさんに聞こえるようになのか、大きな声で答えてくれました。


「最近不可解な出来事が続いてねー。それを調査したら、君とサンハイルにたどり着いたってわけさ」

「どっかの太陽バカさんがもうちょい慎重に行動してたら分かんなかったかもなー!」


 吹き飛ばされ、倒れていたサンハイルさんがまるでゾンビのように起き上がります。


「そうかいそうかい……。そいつぁ、失敗したな」


 サンハイルさんが手斧を大きく掲げます。


「ならお前達を滅殺することで、俺自身の決着とさせてもらおう」


 サンハイルさんの足元から、夜ではあり得ないはっきりとした光が伸びました。


「させるかよ、箒星ほうきぼしの魔法!」


 マルファさんの手のひらから箒を思わせる光線が無数に生み出されました。光線の一本一本がサンハイルさんを貫こうとします。


「光は光に飲み込まれる運命なんだよ」


 サンハイルさんから伸びた光が箒星の魔法を一本残らず受け止めてしまいました。

 防いだ、というよりはサンハイルさんの言葉通り、飲み込まれたようです。


「その直後にボクが行く!」


 サンハイルさんの背後を取っていたエイリスさんがカサミテーションを振り下ろします。月の光に包まれたカサミテーションがサンハイルさんの頭部にヒットします。


「少しは痛覚があったわ。けど足りねぇなぁ!」


 サンハイルさんは手斧を巧みに操り、カサミテーションを大きく弾きます。エイリスさんの胴体ががら空きになりました。

 次の瞬間、サンハイルさんの靴底がエイリスさんにめり込みます。


「ぐ、か、はっ!」


 強烈な蹴りの衝撃を受け止めきれなかったのか、エイリスさんは何度も地面を跳ねては転がりました。

 追撃の構えを取るサンハイルさん。

 しかし、私はそれをいち早く読んでいました。


「やらせま、せん!」

「カサブレードも使えねえ奴に用はねぇ! まずはお前の周りから片付けてやるよ!」

「くっ」


 片手を一度振るわれるだけで私は大きく弾き飛ばされてしまいました。


「やらせるかよバカが!」


 マルファさんが間一髪のところで防御魔法を行使しました。

 手斧と防御障壁が拮抗します。が、それも僅かな間でした。


「んな薄っぺらい守りで俺を止められると思ったか!? 考えがあめーよ!!」

「っおわ!?」


 一度斧を引き、力を蓄えてのフルスイング。

 まるでガラスでも割ったかのようにあっさりと防御障壁が破壊され、その衝撃でマルファさんはエイリスさんの近くまで吹き飛ばされてしまいました。


「あーヌルいヌルいヌルい!」


 サンハイルさんが吠えます。


「こんなもんじゃなかっただろうが! 太陽の魔神を倒して腑抜けたか! ちげーよちげーんだよ! 太陽の魔神はこの程度じゃやれなかっただろうが!」


 ゆっくりとサンハイルさんが二人に近づきます。


「はぁ……がっかりだよ。がっかりしながら俺は生きるのか」


 いけない。

 これじゃいけない。

 このままじゃ私は二人を失ってしまう。大事な仲間を、大切な友達を……!


「――さい」

「せめてもの慰めとして、アメリアだけは徹底的に苦しめてから殺そう」



「待ってください!」



「あん?」


 私はサンハイルさんの元へ足を動かします。


「サンハイルさん、それ以上やったら私は許しません」

「許さない? 俺は一体、何に許されないんだ?」

「仲間に危害を加えようとする、貴方をです!」

「それはまたすいませんねぇ! 俺の性分が殺せとうるさくて! そ、れ、で? 一体、どうするんだ?」


 どうも出来ません。

 私にはサンハイルさんを倒せるだけの魔法も、カサブレードもありません。

 完全に素手。


 だけど、それでも!

 それで何も出来ないという訳じゃない!


「貴方を倒します」

「話の分からねぇガキが! 良いだろう! ならお前から先に滅する! カサブレードがないことを悔やむがいい!」


 サンハイルさんは獣のように私へ向かってきました。


「カサブレードが、ない……?」


 私は自分の思い違いに気づいていました。


「違いますよね。カサブレードは太陽の光に対する日陰となるモノ。何かに立ち向かおうとする心があれば、きっとどこにでもあるはずなんです」

「何を言っている! カサブレードはない! もはやどこにもな!」

「いいえ! カサブレードはあるんです! 現に私は持っています!」

「どこに!?」


 私はどこか穏やかな気持ちで、右手を突き出しました。



「私を信じてくれるエイリスさんがいて、マルファさんがいる。――二人の思いが、私のカサブレードです」



 サンハイルさんの動きが止まりました。


 私の右手には、カサブレードがありました。けど、以前のカサブレードではない。

 これが、これこそが、私だけのカサブレード。


 カサブレードはサンハイルの身体を貫通しています。

 しかし、血は流れません。血の代わりに、光が流れ出しました。


「オオオオオオオ!! ――ごふっ」


 サンハイルさんが膝をつきました。そのまま、仰向けに倒れます。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?