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第121話 夜明け

 サンハイルさんの身体からどんどん光が流れ出します。今更、血が流れていないことには驚きませんでした。


「……だろうとは思っていたが、俺は既に人間じゃなかったというわけだ」

「そう、みたいですね」

「何で勝った奴が微妙な表情をしてんだ。喜べよ、誇れよ、浮かれろよ。それが勝者の務めだろうが」

「それなら私は、勝者じゃなくても良いです」

「甘えたこと言ってんじゃねえぞ……!」


 サンハイルさんがギロリと私を睨みつけます。もはや指一本動かせる体力もないのでしょう。

 それは同時に、私達の勝利を確定させます。


「俺たちは戦ったんだ。勝つ奴がいて、負ける奴がいる。前者がお前で、後者が俺だ。なら上を向けや」

「上、を」

「間違っても同情すんじゃねぇぞ。するくらいなら死ね」

「私には難しいです」

「ならいつか分かれ。そして胸に刻み付けろ。サンハイルという名を……! 太陽を憎み、愛した俺の名を……!」


 エイリスさんが私のそばに寄ります。


「アメリア、彼はもう……」

「はい、分かっています。だから、最後に一つだけ」


 サンハイルさんの身体が光の粒子へと変わっていきます。もう僅かでサンハイルさんは消えてしまいます。

 ですが、私は最後に言いたいことがありました。


「サンハイルさん、自分のために一生懸命だったサンハイルさん。私は誰かのためにしか一生懸命になれません」

「……」

「だから、貴方のその自由さが少しだけ眩しく見えましたよ」

「ちっ。最後の言葉がそんなのかよ。――――けどまぁ、悪くはないな」



 サンハイルさんの身体が、完全に粒子へと変わりました。

 粒子は風に乗り、どこかへと飛んでいきます。

 これで、本当に決着がついたのです。



「さようならサンハイルさん。もしも生まれ変わることがあれば、今度は友人として会いたいです」



 エイリスさんとマルファさんが駆け寄ってきました。


「アメリア! 大丈夫かい!?」

「はい……なんとか」

「おいアメリア、それはカサブレードなのか?」


 私は手に持つカサブレードを見つめます。


「あの聖剣カサブレードではありません。これはなんでしょうね」

「ちょっと見せてほしい」


 そういうと、エイリスさんが私のカサブレードを観察します。

 しばらくすると、エイリスさんが首を横に振りました。


「これは……魔具だね」

「や、見れば分かるんだが?」

「その発言は少し短絡的だよ。肝心なのは、何もないところから魔具相当のカサブレードが生まれたか、という点だ」

「あの時、無我夢だったんです。気づけば、私の手にありました」


 私は軽く振ってみました。すると、どうでしょう。以前のカサブレードより、手に馴染むではありませんか。


「これは、カサブレードであって、カサブレードじゃないですね」

「アメリアの内側……もっと言うのなら、アメリアの精神世界から生まれたと思って良いのかな?」

「たぶん、そうなんだと思います。なんとなくですが、以前出来たことは全部出来るような気がします」


 エイリスさんは珍妙な物を見るような目つきでした。


「悔しいなぁ。古魔具じゃないカサブレードなら欲しいとは思わなくなったよ」

「え、エイリスさん、まだカサブレードのことを諦めてはいなかったんですね……」

「そりゃあ当然さ。なんせボクは古魔具ハンターだからね」


 するとマルファさんがじとーっとした視線を送ります。


「久々に聞いたなそのワード」

「そんなに呆れないでくれよマルファ。最近はいろいろと危機的状況だったからあえて出さなかっただけで、ボクはずっと古魔具ハンターさ」

「そーかいそーかい。まぁ、これからはそういうのも自由にやれるか」

「そうだね。けど、それは皆もだろう?」


 真っ暗だった世界。その色が変わっていきます。


「太陽の魔神も、サンハイルも、ボク達のこれからにとってはただの前哨戦だ」


 エイリスさんは両手を大きく広げました。


「ボク達のこれからについて、一か月という期間を設けさせてもらっていた! けど、もう良いだろう!? ボクから提案しておいてなんだけど、今更過ぎるよこんなの!」

「……まぁ、本当に嫌ならソッコーでお前らとの連絡を絶つわな」

「アメリアはどうだい?」


 私は即答していました。


「私も同じ気持ちです。私も皆が良いんです! エイリスさんとマルファさんと、ずっと三人一緒にいたいんです。あ、でもメイド業務はそれなりにやっていたいですが!」


 とはいえ、メイド業務は私の魂なので、そこは譲れません。


「あはは! アメリアは相変わらずだね」

「いや、エイリス。お前も人のこと言えねぇからな?」

「マルファも魔法のことになると人格変わるよね」

「! わ、わたしは良いんだよ。私は魔法という高尚な物に向き合うに値するテンションでいるだけだ」

「あっ、皆さん。見てください」


 空が白み始めます。

 私が指さした方向はお日様が昇ってくる方向でした。


「こんなことがあっても、日は昇るんだな」

「そうだね。そしてまた人々は一日を始めるんだ」

「私達も始めましょうか。私達の一日を!」


 世界の夜明け。そして、私達にとっても夜明けです。

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