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「永遠の忠誠を」

 そこはアステリアの屋敷の一画。

 上座にて豪華な椅子にアステリアが座り、少し離れた対面に認識阻害の指輪ハイディで仮面を被ったソフィアと腹心二人が立っている。

 三人の両脇には騎士たちが並んで立っており、アステリアが話し始める。


「——クリュータリアから来訪したレイトン商会。貴女がたのおかげで、私たちが愛するこの街は救われました。これはその御礼です。些細なモノですがお受け取りください」

「どうぞ」


 深い感謝の気持ちを感じさせる柔らかな物言いのアステリアに促され、アルムがソフィアに抱えるほどの布袋を渡そうとしていた。

 中には大量の金貨があった。


「そちらは機獣と帝国軍討伐の報奨金となります。改めて、なんの縁もない貴女がたが私たちの為に戦ってくれなければ、今頃私たちは命と誇りを奪われていたことでしょう」


 アステリアが立ち上がり、右腕を胸の前で折り曲げて軽く頭を下げる

 それに合わせ、騎士たちも同じ礼を取った。


「私、アステリア・フォン・ステラとステラ騎士団一同。勇敢なるこの英雄に心よりの感謝を」

「「「「感謝を!」」」」


 侯爵と騎士たちによる最大の礼が屋敷に響き渡る。

 それにソフィアは返事を返した。


「いえ私は私が出来ることをしたまでです。ですが、そこまで感謝していただけるのであれば——アステリア様、一つお願いしてもいいでしょうか?」

「えぇ、なんなりと」


 ソフィアからのお願いを軽く受け入れたアステリア。そしてアルムが報奨金をハーベに渡すと、彼もまたソフィアの道を譲るように跪く。

 どこか下手に出過ぎているように思える二人を見て、騎士たちが少しざわめいた。

 その訝る気配を感じながら、ソフィアはアステリアに向かって歩き始める。


「え——」


 それは騎士たち全員の声だったかもしれない。

 彼らが目にしたのは、頭を下げてを椅子を譲るアステリアとその前に佇んで騎士たちを見据えるソフィアだった。

 どよめく騎士たちをよそに、アステリアとソフィアが目を合わせて微笑む。


「よろしいのですか?」

「えぇ。この場には貴女が信頼する人しかいないのでしょう? だったら隠す必要もないわ。まぁ本当なら私の大好きな国民たちに嘘を吐いたままなのは嫌なんだけどね」

「そこはご自愛ください。公文書とは違い、お姉様の可憐な姿は人々の目を焼き付けすぎてしまいますから。人々に見せる時は、然るべき時にお願いします」

「えぇ、なるべく早くそれが出来る日を作ってみせるわ」


 一方的に進められる二人の会話。

 それについていけない騎士たちだが、彼らの心は今帝国と戦った時以上に逸っていた。

 ——お姉様

 アステリアがそう呼ぶ人物は一人しかいないことを彼らはよく知っていた。

 そんな目を見開く彼らを見て、笑みを浮かべたソフィアが指輪を外す。


「あ——」


 誰かが涙を流す。

 絹のように柔らかな黄金色の髪に、晴れやかな空のような美しい碧い瞳。

 それはまごうことなき『レストアーデ王族』の血脈の証であり、生死不明だったあの噂の真実を明らかにするのだった。

 貴族用の椅子がこの瞬間に『玉座』と化し、ソフィアが『王』としての威を放ちながら告げる。


「勇敢なる騎士たちよ。この度の戦い、強大な相手によくぞ戦い抜いた。私レストアーデ第一王女ならびに次期レストアーデ女王『ソフィーリア・ヴァン・レストアーデ』は、其方ら騎士たちを誇りに思う」


 厳かながらも温かな声色は騎士たちの心を癒し、滂沱の涙をもたらす。

 自分達の主人が生きていたこと、そして何より『次期女王』の言葉。それが意味するところは、悲願だったレストアーデ王国の復権だ。

 バッとまず真っ先にクルルとハーベが跪き、先程とは違った『ソフィア』としての柔らかな口調で騎士たちに微笑む。


「皆さん、生きていてくれてありがとうございます」


 心が安らぐ想いの込められた感謝の言葉に、騎士たちが一斉にソフィアに向かって跪く。


「「「「「ソフィーリア・ヴァン・レストアーデに永遠の忠誠を! レストアーデ王国に栄光あれ!!」」」」」


 主君が生きていたことの喜び、喝采、忠誠の誓いが、屋敷に響き渡る。

 それらを一心に浴び、彼らの誓いや期待を裏切ってはならないとソフィアは玉座で思う。

 ここから全てを始めるのだ——


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