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6-3 「トルルの武者と海辺の夜明け団」

「――おい……! 今、これはどうなってるんだ……!? 殿は!? カイリ様は!? 老中はどこに……!? さっきまで祭りじゃなかったのか!? シンラが襲われているぞ!」

「一度に分からないこと何度も喚くな! そんなこと俺に言われても知るか! 分からないのはみんな同じなんだ! とにかく今はここで待機しておくしかないだろ!」


 シンラの一画にある広い練兵場にて、それぞれが混乱状態で思いのまま喋るシンラ常駐の武者たち。

 ライハ達、首脳陣を守る近衛兵らもいて全員が常在戦場の心得で完全兵装はしているが、ここもやはり実戦経験不足が目立つ。不測の異常事態に集まることしか出来ていなかった。


「――勇敢なるトルルの武者達よ! こっちを見よ!!」


 上空からの裂帛の一声。その一言でピタッとざわめきが止まり、全員が声の方向を見た。

 そこには荘厳な弓を持ち、【水宙フロート】に乗ったユウマが武者達を厳かな雰囲気で見下ろしていた。

 そこでようやく彼らは落ち着きを取り戻し、一人の武者が積もり積もった疑問を投げかける。


「ユ、ユウマ様……この状況は一体どういう……?」

「長々と説明している時間はない。端的に事態を説明する。今現在、老中・アスミによる謀反が発生。東部より海賊『吠える狼』、北部にはアスミ派の船団がシンラを襲撃。おそらく帝国も関与しているだろう。そんな奴らの最終目的は殿の命だろうが、そのついでと言わんばかりに奴等は市民達を襲っている」

「なっ……! アスミ老が謀反……!?」

「それに海賊と帝国も……!? そ、そんなのどうすれば……!?」


 ユウマより齎された真実に、再度混乱が生じる。

 だが、自然に落ち着かせる時間すら勿体無い。


「狼狽えるな!!」

「ッ!!」

「民を護る立場のお前達が混乱してばかりでどうする! 立派な武器や鎧、鍛え抜かれた業や肉体は飾りか!? 今、この瞬間にも民達の命は失われているんだぞ!」

「――――」


 まごつく武者達に一喝。しぼむ彼らの心にユウマは火をつけんと言葉を紡ぐ。


「確かに、このような状況はおれ達にとって初めてだ。海賊だけならまだしも、謀反や帝国を恐れる気持ちは分かる。だが、経験していないからといってそれは動かない理由にはならないんだ! 実戦経験なら今積め! 磨き続けた業を敵に振るうのだ! たとえ敵の殺意に怯えようと、肉体に刻んだその技が勝手に体を突き動かす! それが出来ないほど、鍛錬というお前達の経験は浅くないはずだ!」

「鍛錬の……経験……!!」

 武者達の瞳に火が灯る。ギラギラと放つ瞳の光は力強く、怯えていた武者達はもういない。


「今、外では事態を収めるために殿とクリュータリアの客人が戦っている! 自らが使える主人と異国の人間に全てを背負わせても良いのか!? それでもお前達は、殿が認める武者たちか!?」

「違う!!」

「ならば刀を抜け! その鎧で民を護れ! 倒す敵も、護らなければならない民もすぐそこにいるぞ!」


 普段はアカリの言うことを聞いてばかりでオドオドとした姿を見せているが、『海辺の夜明け団』の団長はまごう事なきユウマ・フリューゲルだ。

 団長として統率力のある威を放つユウマに武者達は傅き、命を守る獅子と化した。


「トルルが誇る最強の武者達よ! 今こそ世界にその力を示せ!」

「おおおおおおお!!!!」



 また一つ、港が砲弾によって破壊され火の粉と黒煙が立ち昇る。

 それを海賊の船長が愉快に笑ってみていた


「げっげっげ、良い音じゃねぇの! 帝国から渡されたこの砲弾とかいうオモチャが何に使えるかは知らなかったが、こんな破壊を齎す魔術具だったとはな! オラオラ、もっともっと撃ち込んでやれ! 老中サマのご命令だからよぉ!」

「ヘイ、クローミヤ船長! お前ら装填出来たな!? それじゃあ、撃てぇぇぇ!!」


 号令と共に砲塔が取り付けられた帆船から砲弾が発射される。数秒もすれば、また街の一部を破壊するだろう。

 当たれば。

 発射された砲弾は港に着弾する前に海上で爆発した。


「あぁん……? なんだぁ?」

「途中で、爆発したみたいですね」

「はぁ? んだよ、不良品か? チッ、次を用意しろ次を!」

「ヘイ!」


 何が起きているのか理解しないまま、海賊達は己の欲望を満たさんと破壊行動を続けていく。

 その海賊船団の遥か向かい側。暗闇と化したが故に見えぬ海の上で、二隻の帆船を揃えた『海辺の夜明け団』はいた。

 その船頭にアカリが立ち、遠くを見るように右手を目の上に持ってきていた。


「おーおーコイツが『セレネ』の強化魔法か。こりゃまた随分なシロモノだな。ウチの奴のとは大違いだ」

「副団長。セレネとやらが何者かは知りませんが、そんなこと言うんだったらもう掛けてあげませんよ」

「っと、悪い悪い。そういうつもりじゃなかったんだ。許せよエイシン」

「はぁ……まったく。カルメリアに残ったことといい、感情で動きすぎなんですよ副団長は」


 エイシンと呼ばれた武者が呆れたと言わんばかりにため息を吐く。苦労人感が漂い、アカリにも嫌味を飛ばす彼も、れっきとした『海辺の夜明け団』の一因。アカリの側近であり、夜明け団における身体強化付与魔法の使い手だ。


「まぁ活躍してくれるならなんでもいいですけど。はい、副団長あなたの槍ですよ」

「お、ありがとよ。やっぱ槍を振るうならコイツじゃねぇとな。んじゃあ早速――」


 アカリ専用の槍を渡され、手に馴染ませるように振るうと空気が刃となって波立つ海面を斬り裂く。

 と、そこで士気が爆発的に上がり、シンラ中に響き渡る武者達の鬨の声が『海辺の夜明け団』の下まで届いていた。


「お〜さっすが兄貴。もうまとめたのか。いざって時はやっぱやってくれるねぇ」


 兄がやったことに満面の笑みを浮かべ、アカリは石突で床を叩いて団員達の視線を奪う。

 総員二十五名。熱気ある視線がアカリに叩きつけられた。


「おーしテメェら! これよりアタシらは、あのクソったれの海賊共の壊滅に動く! アイツらに『次』があると思わせるな!」

「うぉぉぉぉぉぉ!」

「トルルに仇なす者には死を!」

「昨日は団長らに美味しいところ持っていかれたからな! 今日はオレたちが貰うぞ!!」


 刀を槍を弓矢を――各々武器を持った団員達が戦意を昂らせる。

 『盾』の役割を持つのが街の武者達ならば、『矛』の役割を持つのが『海辺の夜明け団』。世界中を巡る特別大使たるフリューゲル兄妹に付き従うだけあって、団員達は中々に攻撃的だった。


「戦意が上々でなにより。兄貴のことだ、きっとトルルの武者は世界最強だのなんだの言って発破をかけたんだろうが……」


 ニヤリと大きく口端を吊り上げて、アカリは言い放つ。


「最強はアタシら『海辺の夜明け団』だ! なんだか大層なオモチャを持ってきてるみてぇだが、そんなの知ったことか! 海賊ごときに遅れをとんじゃねぇぞテメェら!」

「おおおおおお!」

「蹂躙だ! 誰を敵に回したか思い知らせてやれ!!」


 槍を振り下ろし、大号令を放つと団員の風の魔法によって帆船が加速。

 時間もかけず『海辺の夜明け団』の船が海賊船に近づき――


「『我が手繰るは水神の加護。万夫不当、その一切を撃滅せん。さぁ立ち上がれ、夜の時間は終わりを告げる。陽の輝き、光の奔流――』」


 海から吸い上げた水がアカリの槍へと纏わりつく。ユウマがいないことで今のアカリが制御出来る範囲内だが、それでも大きさは身の丈を優に超えている。


「【滅却の豪槍インフェル・トリアイナ】!!」


 放たれた水の豪槍が海賊船の横腹を貫き、動きを完全停止させる。

 その隙を狙って『海辺の夜明け団』の船が間に着き、各海賊船へと乗り込んだ。

 『海辺の夜明け団』と海賊『吠える狼』による海戦が始まった―― 

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