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4「魔の森の地下が宝の山だった件」

「鉄神を増やしましょう」


 魔物の撃退後、私は幹部を会議室に集め、そう言い放った。

 メンバーは、

 ヴァルキリエさん(バルルワ = フォートロン辺境伯領軍将軍)、

 クローネさん(治療院代表)、

 財務・法務・商務・国交・総務の各大臣、

 ステレジアさん(本人が嫌がるため無役だが、実質的な土木・建築のメイン戦力)、

 クゥン君(辺境伯家家宰 兼 領主護衛 兼 バルルワ村代表)、

 カナリア君(陸戦鉄神M4パイロット。つまり我が軍のメイン戦力)、

 そしてなぜか同席している国王陛下(カナリア君の保護者)。


 陛下がいるのが非常にナゾだが、まぁスルーするとして。

 それにしても、強くなったなぁバルルワ = フォートロン辺境伯家。

 けど、まだまだ戦力が足りない。

 魔物が来るたびに私とカナリア君が出撃していたのでは、遠からず過労や怪我その他でどちらかが倒れてしまう。


「増やせるのかい?」とヴァルキリエさん。


「はい。地下にはまだまだたくさんの鉄神が眠っていますから」


「なるほど。だが、操縦士は? はっきり言って、私とクゥンには無理だよ」


「あー。そもそもお二人は鉄神に乗らなくても十分強いですし、むしろ乗らないほうが強いまでありますものね」


「あっはっはっ。嬉しいことを言ってくれる。なぁ、クゥン?」


「はっ」


 クゥン君、取り澄ました顔をしているけれど、しっぽブンブン。

 可愛いなぁ。


「じゃあステレジアさんは?」


「私は」ひらひらと手を振るステレジアさん。「血なまぐさいのはパ~ス」


 この人は本当に自由だなぁ。

 その自由さを押して余りあるほどの有能さがあるから、全然許せちゃうのだけれど。


「大臣のみなさんは?」


「「「「「無理です無理です」」」」」


 ですよねー。

 みんな、戦闘経験皆無だもんなぁ。


「クローネさんは?」


「覚えたい気持ちはあります」とクローネさん。「エクセルシアさんにばかり負担を強いていては、教育係の矜持に関わりますので」


「あぁ、その設定、まだ続いてたんですね……。まぁとにかく、クローネさんと、他にも元奥さんや村人の中からパイロットを募りましょうか。では、明日は朝から発掘です!」


「「「「「了解!」」」」」





   ◇   ◆   ◇   ◆





 というわけで翌日、朝。

 私たちは、魔の森と温泉郷の中間地点――地龍シャイターンを落とした巨大な穴の前にまでやって来ていた。

 メンバーは、私、クゥン君、カナリア君、ヴァルキリエさん、クローネさん。

 いつもの戦闘系精鋭メンバーだ。

 私が労働タイプの鉄神『2号』に、

 カナリア君が陸戦タイプの鉄神『M4』に搭乗している。


「では、降下を始めますね」


 >mag /float


 私は2号に【浮遊float】の魔法を使わせる。

 隣ではカナリア君が操るM4も【浮遊】を使った。

 2機はゆっくりと、穴の中へと降下していく。


「あーっはっはっはっ。便利なものだねぇ。領軍に欲しい――じゃなかった。2号とM4は新生バルルワ = フォートロン辺境伯領軍の主力兵器だったね」


 ヴァルキリエさんの言葉にクローネさんがうなずいて、


「そうですよ。あのクーソクソクソ辺境伯はもういないんですから」


「あははっ」私は笑う。「クローネさんも言うようになりましたねぇ!」


 クローネさんは、とてもたくましくなった。

 何しろ、ヴァルキリエさんですら抵抗できなかった前辺境伯の【隷属】をレジストしてみせたのだ。

 もう、青い顔をしてうつむいているか弱い彼女はいないのだ。

 今も、2号の肩に乗って平然としている。

 落ちたら一巻の終わりなのに……成長して肝が据わったということなのだろう。


 なお、クゥン君は2号のもう一つの肩に、ヴァルキリエさんはM4の肩に乗っている。


「それにしても、平民落ちしたあのサイコパスはどこに消えたんでしょうねぇ?」


「さいこぱ……? が何かは知りませんが」とクローネさん。「あの人には、たとえ平民落ちしても口先八丁で上手いこと生きていきそうな不気味さがあります」


「あーね」と私。


 愛沢部長は、■■工業株式会社の総務部部長――つまり普通のサラリーマン――をやっているのが不思議なくらいの人物だった。

 どちらかと言うと、新興宗教の教祖のほうが似合っている。

 もしくは、宗教系テロ組織の首領とか。

 生まれた時代や世界が違えば、稀代のサイコパス為政者になれていたかもしれない、そういう恐ろしい器を感じさせる人物だった。

 事実、この世界では大貴族として1万数千人を口先八丁で支配していたのだし。


 ともあれ、あの男は平民落ちして、姿を消した。

 クローネさんもヴァルキリエさんも他の元奥さんたちも、あの男の呪縛からはもう解放されたのだ。

 そして私も、愛沢部長の呪縛からは解放された。

 新しい人生を歩んでいいんだ。


 フワフワと下降していくと、やがて、水面に到達した。

 数日前、地龍シャイターンと死闘を演じた時に極大魔法で凍らせた源泉だ。

 さすがにもう、溶けて湯気を発している。


「温泉郷は安泰ですね」とクローネさん。


「ですねぇ」


 相槌を打ちながら、格納庫のほうへ向かう。

 シャイターンが破壊した壁をくぐると、


「あぁぁ……凄惨な状況」


 戦車や装甲車、飛行機といった貴重な兵器群が、シャイターンの突撃でへしゃげたりぺしゃんこになっている。

 2号、M4で中に入り、進んでいく。

 進むと、自動で照明が点いていく。センサー式か。


「2号といいM4といいこの空間といい、モンティ・パイソン帝国の技術力は恐ろしい」


「であればこそ」私のつぶやきを、ヴァルキリエさんが拾う。「早急にここを実効支配してしまわなければ、だね」


「鉄神見つけたよ、お姉ちゃん!」


 先行していたM4の外部スピーカーから、カナリア君の声。


「グッジョブ、カナリア君!」


 格納庫の最奥に、陸戦型が10体も立ち並ぶ巨大な部屋があった。

 さらに、


「1号・2号様のご親類も多数見つけました!」


 と、クゥン君からの報告。


「グッジョブ、クゥン君!」


 行ってみれば、陸戦型の部屋のさらに奥で、労働型数十体を確認。


「うは。うはははははっ! 圧倒的じゃないか、我が軍は!」


「エクセルシアさん……」クローネさんが呆れる。「なんだか悪役のセリフみたいですよ」


「この奥、何か隠されてる」カナリア君が端子を壁の穴に突っ込む。「クラッキング成功」


 ――ゴウンゴウンゴウン……


 重々しい音とともに開いた扉の、その中にあったのは――






「鉄神の……製造ライン……だと!?」





 私は、開いた口が塞がらない。


「うはっ。うはははははははははっ! コレを動かすことができれば、鉄神造りたい放題じゃん!? 勝った! これは勝ちましたわ!」


 私は2号を操り、夢中で奥へと進んでいく。

 やがて製造ラインが終わり、巨大なエレベータのある部屋へとたどり着いた。

 今度こそ、本当に行き止まりのようだ。


「進んでみましょう」


 全員を乗せ、エレベータを起動させる。


 ウィーン……というエレベータの音と一緒に、


 ――ズゴゴゴゴゴゴ……


 と、巨大な構造物が動くような音が聴こえた。

 それも、頭上から。


「なにごと? うわわわわっ」


 頭上から大量の土砂が降ってきた!

 私とカナリア君は、慌てて全員をコックピットの中へ放り込む。

 ぎゅうぎゅうだが、まぁ仕方がない。


 やがて、エレベータが止まった。


「ここは……森の中?」


 地上に出たのだ。


「魔の森、でしょうか」


 クゥン君がコックピットから飛び降りて、クンクンと鼻を鳴らす。


「少し歩いてみよう」とヴァルキリエさん。「どのみち、この入口は秘匿しなければならない。そのためにも、現在位置を知る必要がある」


 ヴァルキリエさんの指揮のもと、エレベータを土や草木で覆い隠し、2号とM4も伏せさせて草木でカモフラージュする。

 もとよりM4には森林迷彩が施されているので、しゃがませるだけでもかなり見つかりにくくなる。


「では行こう」ヴァルキリエさんが先頭に立つ。「カナリア殿下はクゥンがおぶって差し上げろ。他の二人は、自分の足で歩けるな?」


「「はいっ」」


 というわけで、歩くことしばし。

 やがて、開けた場所に出た。

 草原の向こうには、遠く畑が広がっているのが見え、さらにその先には集落も見える。


「ここは?」私は首を傾げる。「辺境伯領にあんな村あったっけ?」


 ――パカラッパカラッパカラッ


 しばらくうろついていると、騎兵が2騎やって来た。


「誰だ、貴様ら! どこから来た!?」


 騎兵の一人が槍の穂先を向けてくる。

 いきなりの敵意。

 てっきりヴァルキリエさんが撃退するものだと思いきや、意外にも、ヴァルキリエさんは剣を捨てて両手を上げてしまった。


「私はバルルワ = フォートロン辺境伯家の将軍ヴァルキリエ。こちらは辺境伯閣下ご本人だ。魔の森で迷っていたら、偶然ここに出てしまったんだ。無断で侵入する意図はなかった。どうか穏便にお願いできないかい?」


 なるほど、騎兵の鎧や武器には、見覚えのない他家の紋章が刻まれている。


「ワークシュタット男爵家です」隣のクゥン君が耳打ちしてくれた。「辺境伯領の北隣に位置しており、このとおり魔の森にも面しています」


 つまり私たちは、武装した状態で、無断で越境してしまったのか。

 ゲルマニウム王国は戦国時代の日本なんかとは違い、武装集団が領土侵犯したからといって即戦争ということにはならない。

 だが、貴族領はゲルマニウム王国に臣従しているとはいえ、いわば一つの小さな国家。

 だから領土侵犯という概念があり、各家は主権を持ち、戦争の自由を有している。

 それに、彼らからすれば私たちが盗賊の可能性もあるわけで、まぁ槍を向けるのも当然の対応だったというわけだ。

 いやはや私、もっとこの世界のルールについて学ばないとなぁ。


 そこからは、話はスムーズだった。

 ヴァルキリエさんが慣れた様子で騎兵と話をしてくれた。

 騎兵が貴族璽(正式な書類を発行する際に封蝋印を押すための重要な印鑑。爵位を与えられた際に国王陛下から下賜されたモノ)を見せるようにと求めてきたので、私は大人しく見せた。

 すると騎兵は即座に私の身元を認め、槍を納めて下馬してくれた。


 良かった、何とかなりそうだ。

 さすがはヴァルキリエさん。頼りになる。

 それにしても……あぁ、なんてこった。

 鉄神の工場は、バルルワ = フォートロン辺境伯領とワークシュタット男爵領にまたがっていた。

 面倒なことにならなければいいけど……。

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