―――メノッサ・マクレーン子爵side―――
ここはスライゼンの街にある領主の館……そこでは領主であるマクレーン子爵が優雅にお茶をしていた……
「聖女だと?」
「はい、今、街中で起こっている原因不明の流行り病……あの患者を次々と治しているようです」
「ほぅ?病気を治療できるほどの使い手か……」
「はい、どうやら旅のものらしいですね……無償で治療行為を行っているようです……その治療魔法の力と美しい容姿から聖女と民衆に呼び親しまれているようです」
「ふむ……」
「いかがいたしますか?」
「そうだな……治療行為とは言え、領主である私に許可なく行うというのは問題……すぐにその聖女と呼ばれるものを連れてこい……もちろん、丁重に扱うように」
「わかりました」
領主と話していた男が出ていく……領主は立ち上がると窓辺に立ち外を見る……今や流行り病の影響で活気がなくなった街……流行り病のことは理解していたが、当初になんの対策もせずすべて丸投げした結果、街に甚大な被害を出した男は……聖女を得ることしか頭になかった。
―――アンネレーゼside―――
さて、スライゼンの街にきて既に1週間が経ちました……結構な数の住民の治療は終わったんですが……最近になって問題なのが、貴族の存在です……
「ですから、患者様の病状の重さを見て順番に案内しておりますから」
「うるさいっ!貴族である私の言葉が聴けないというのかっ!」
「はーい、貴族だろうがルールを守れない人の治療はお断りしてまーす」
「なっ!貴様ふざけるなっ!不敬であるぞっ!!」
旅人様が慣れた感じで貴族の人を引きずって外に捨ててきました……4日目になってから貴族にも話しがだいぶ回ったようで……直接治療しろと言ってくる貴族が増えてかなり困っています……旅人様が処理した先ほどきた貴族でもう6組み目です……
「アンアさん、あちらは落ち着きましたので、次の患者さんをお願いします」
「はっ、はいっ」
私が出来るのはとにかく治療をすることだけ……だから頑張って治療行為を続けているんですが……
「聖女を出せっ!治療をしろっ!」
「またですか……」
「うぅ……ああいう人たちが急に増えましたね……」
「えぇ……旅人さんが適切?に処理してくれるからどうにかなっていますが……こまりましたね」
「そうですね……どうしましょうか……」
「治療も順調に進んでいますし、教会から場所を移す……ダメですね、患者さんが移動したらすぐバレちゃいますね……」
「そうなんですよねぇ……」
あとは正直1週間もこの街にいるということが色々問題だったりする……いつ王国の人間がこちらにくるかわからないし……もしこの街に来られたら私を殺しに来るわけで……そうすると街の人にも被害がでるし……本当なら直ぐにでも出発して本来の目的地である魔法王国を目指すべきなのに……
「アンナ、ちょっといいか?」
「あっ、はいっ!どうしましたか旅人様?」
「あぁ、重傷者はほとんど終わっただろ?」
「そうですね……特に危険な状態の人は終わってますね」
「ならここからだけど、《範囲浄化》を使ったほうがいいと思う」
「え?えっと、なんででしょうか?」
「簡単なことだ、お前の魔法の効果を考えれば軽傷の患者ならそれでまとめて回復することができるだろうからな」
「あっ、なるほど……確かにそのほうが効率がいいですね」
「あぁ、とりあえず一度試してみろ」
「わ、わかりました」
クレサさんにお願いして10人ほどの方を連れてきてもらって、私の周りに並んでもらいました……
「じゃあ、いきます《範囲浄化》」
私を中心に足元に魔法陣があらわれ、その中に入った人に浄化を与える……光がおさまってからすぐにシスターたちが患者さんたちの確認をする……
「成功です、全員から発心なども消えていますし、状態も良好です」
「よ、よかったぁ……」
「これなら時間短縮もできるな」
「そうですね……じゃあ、これからは 《範囲浄化》で治療を行います、なので複数人ずつ連れてきてdください」
「わかりましたっ!」
シスターさんたちに人数を決めて連れてきてもらって、 《範囲浄化》で回復する……それを繰り返して数時間がすぎ、私が休憩に入ったころ……また、なにか声が聞こえてきました……
「あっ、クレサさん、どうしたんですか?」
「あっ……それが、領主様の遣いという方が来てまして……領主様がお呼びだから聖女を出せと……」
「領主、様がですか?」
「えぇ……ただ、領主様は正直評判がよくないので……」
「えっと、今は……」
「旅人さんが対応してくれてます」
「うぅ、すっかり頼りきりになっちゃってますね……」
「そうですね……男性がいてくれるとあそこまで心強いとは……ただ、相手が領主なので少し難しいかもしれません……」
それから、少しすると領主の遣いの人が帰っていきました……そして旅人様が私達の方にきたのですが、どこか疲れた様子でした。
「旅人様、大丈夫ですか?」
「あぁ……ただ、少々厄介だな」
「えっと、領主の遣いだと聞いたんですが……」
「あぁ、領主館に出向くようにという内容だな……」
「えっと、行かなきゃダメなんですか?」
「正直、必要はないと言いたいところだが……あちらの言い分は自分が治める街で許可もとらずに勝手な行動を取るのは許せない、一度顔を見せて一度話をしろっていうことらしい」
「えっと、そうするとどうすれば……」
「仕方ないが一度領主に会うほうがいいだろうな」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「警戒はしておけ……追っ手が手を回した可能性もある」
「はっ、はいっ」
「シスタークレサ」
「はいっ」
「すまないが、領主からの呼び出しを拒否し続けるのは難しいだろう……悪いが明日一度領主のところに行くことにした。勝手に決めて申し訳ないが」
「いえ、早かれ遅かれこうなる可能性はあっただけですし……ただ、気を付けてくださいね……この街の領主様は、その……街を見捨てた人間なので」
「見捨てた?」
「はい、流行り病が確認された時点で本来領主様が対応するはずなんです……でも、彼は自分には関係ない、こちらで勝手にどうにかしろと……対応を一切しなかったんです……領主様が動いていたら、流行り病もここまでひろがることはありませんでした……」
「そんな……」
「まぁ、王都から離れるほど領主が腐ってるのはよくあることだな」
「そうなんですね……んーと、とりあえず明日、領主様のところに出向くわけですね?」
「あぁ、だから悪いが準備しておいてくれ」
「わかりました」
「それと……もし領主の要件がお前の引き渡しなら、俺はお前を守るために戦うことになる可能性もある……しっかり覚悟をしておけ」
「わかりました……まだ治療が終わってないので……できればなにもなければいいんですが」
「まぁ、領主次第だな……」
こうして私は不安な気持ちをもちながら領主の館に向かうことになったのでした。