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春のアップルパイ事件簿 *2

 リンゴがなる木じゃない……? この城の庭園にそんな世にも奇妙な木があっただろうか。



――ないな。  



 ルシュラは即座に否定する。アップルパイがなるなど、童話じゃあるまいし。きっとまたいつものクオイ病が出たのだろうと思い、とりあえず一段落したら向かうことにしよう。そう思い直し、仕事を再開するのだった。





 数分後。




 庭園の奥の方へ向かうと、立派な木になる香ばしく美味しそうなアップルパイ。生じゃない。ちゃんと焼けてる……。もはやどこからツッコんだらいいのか。




 しかも一本だけじゃない。一、ニ、三……目で数えるが、あまりにも非現実かつ多すぎて沈黙するルシュラ。そこへティーカップを持ったリシュティアが笑顔でこちらへ来た。



「はいこれ。クゥちゃん特製アップルティー」


「ありがとう……」


「? お仕事そんなに忙しいの?」


「いや、まあ……それなりに」


「??」




 リシュティアはなんの疑問もないらしくすっかり馴染んでいるようだ。その証拠にリシュティアの口の周りに、パイのかすがついている。




 そこへ誘ってきた張本人が現れる。両手に厚めのアップルパイを持って、ここ最近一番の笑顔で。つい最近まで、アイディアが浮かばないなどとルシュラの部屋に度々突撃してきた張本人が。



「アップルパイがなる木といい、天国かよ。はあー幸せだぜ」


「一体いくつ食べたんだお前は」




 正直慣れたが。



 呆れ果てながらも一応聞いてみる。



「わたし、一本食べた!」


「俺は三本食べたぜ。あともう一本分食おうかなあ」





 今日も平和だな……とルシュラも結局アップルパイを食べながら、庭園にある桜で花見をしながらお茶会をするのだった。



 そして後に、これはロキの仕業だと判明するのだが。



 本当に神様は悪戯好きである。




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