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遠いあの日の記憶

 みずみずしいオレンジのような太陽が煌めく。死の果てにいた森も、神秘性を取り戻していた。


 世界は彼らを忘れてしまったかのように、美しく再現され不変のまま。



 暁をもたらす姫も。



 夜の王も。



 どこへ旅立ったのか、誰も知らない。




“クゥちゃん、ルシュラみてみて! 私が育てた薔薇なの”



“悪くなかった。――おいクオイ、にやにやするな。気持ち悪い”



「――リシュ? ユーリ……いるわけ、そんなわけないな」



 一瞬彼らの声が聞こえた――と思ったが、やはり幻想だ。そんなものは。ルシュラが気分を変えようと紅茶を用意していると、いつものように明るいクオイが入ってきた。



「よっ! アップルパイおまけしてもらったから食べようぜ。あいつらの分もあるから、ちゃんと紅茶、人数分淹れろよ?」



「わかってるよ」




 お見通しか。こいつには、永遠に勝てはしないだろう。ルシュラは苦笑しつつ人数分のカップを用意する。




 四人分を。




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