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ほしいものは

 男クオイには欲しいものがある。



 それは――。




「だめだ」


「リンゴの1000個や2000個くらい、べつにいいだろ! ルーくんのひとでなし!」


「良くないに決まってるだろう! だいたいこの前あったリンゴの山はどうしたんだよ?」


「全部アップルパイにして、食べてやったぜ」


「ドヤった顔をするな」



 ここは暁の国。早朝から城内に響き渡った声の主はクオイ。――城に居候している、一応僕の親友だ。そして、世間で知らない人はいない有名な絵本作家でもある。



 僕? 僕はここの国の王で、ルシュラという。毎日仕事とクオイの世話におわれている(いや、おわされているが正しいな)。




 そこへ――。



「ルーシューラっ」


「リシュ」



 駆けてきて、勢いよく抱きつくリシュティアを受けとめる。彼女は――《暁の姫》と呼ばれている少女で、僕の大切な存在だ。彼女もまたここへ居候していて、妹のように想っている。



 夜空を思わせる長い髪に、ローズクオーツのワンピース。



 そして、花のような笑顔。



「みてみてールシュの顔描いたの」



 そこに、クオイが詰め寄る。



「えー俺は俺は?」


「あ、描くの忘れちゃった」



 彼女の一言にまたわめきだすクオイは放置し、僕は思わずふっと笑ってしまう。そして、あらためて彼女にお礼を言った。



「ありがとう」


「うん!」



 僕の、本当に欲しいものは――。



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