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3章…第11話

「なるほど…で、土下座して謝ったと…?」


『うん。モネちゃんもお前の名前を出されて勘弁ならなかったんじゃねぇの?強制連行していくとき、止めなかったぞ?』


「そっか…!」


あざと可愛い聖也に勝った気分だ。


…それにしても、万が一のお仕置きを奴らに伝えておいて良かった。


『ベッドの脚に繋がれて寝るなんて初めてだったんだろうな。自由に動けない屈辱?結構堪えたみたいだわ』


クスクス笑う憂に、俺は次のミッションも頼むと伝える。


『オッケー!まぁ足かせを外してやるって言えば、抵抗はしないだろ』


「あぁ。十分労働させてやって」


次のミッションとは…カメラマンである憂の助手を務めること。


売れっ子である憂は、今回俺にこんな任務を頼まれながら…実はかなり忙しい。


だから今日は、聖也を助手にして、止まっていた仕事を再開させなければならない。


そこで、”性感”…なんていうバイトはやめて、しっかり体を動かして働かせようと思ったのだ。


これで聖也は今日1日、カメラの機材を担いで憂について回るという…重労働の1日になるだろう。




憂との電話を切ってから、モネに携帯を繋げた。

もしもし…と話す声は、少しだけ沈んで聞こえる。


『吉良は全部、知ってたんだね』


「ごめん…可愛いがってる聖也の悪い成長を知ったら、ショックだと思ってさ」


『もう、うちには置いておけないね…私、伯母さんに連絡しておく』


そこまで話して気がついた。


「モネ…声が掠れてるな」


『うん…ちょっと風邪引いたかも』


それを聞いてギョッとした…

まさか、出張前に散々抱いたからずっと薄着でいさせたし…それが原因で風邪を引かせたんじゃ…



これまでの付き合いでわかっている。モネは体調を崩すと、真っ先に熱が出るタイプだ。


白血球が戦ってる証拠…なんて言うけど、赤い顔でふぅふぅ言ってる姿は痛々しい。


「なるべく早く帰るけど…とりあえずあいつらに、熱冷ましのシートとか、買い物頼んでおくから」


モネは部屋から出ないで寝ているようにと告げた。


『なん…か、さっきみんな出かけたみたいだよ?』


そう言ったモネの言葉が、この後とんでもない事態を予感させるものだったとは、さすがの俺も思っていなかった。



出張2日目。

この日も歩と2人、取引先を回る。


今回の訪問は新事業を立ち上げた取引先への挨拶が表向きだが、実は俺が関わる金融系商品の紹介が目的だった。


俺は営業部ではないが、入社当時から担当している取引先なので、ついでに口添えしてきてほしいと頼まれていた。


まぁまぁの手応えを感じながら、歩とランチに入った店で、迷いながら聞いてみる。


「今夜、ジーザス社の近藤さんに飲みに誘われてるんだけどさ…歩も一緒に行ってもらうわけにいかないか?」


ジーザス社とは、長年俺が担当しているところで、そこの課長である近藤さんとはかなり親しくしてもらっている。


こちらに転勤した近藤さんと、出張最終日に飲みの約束をしたのだが、モネの体調が心配でたまらない。


「いいですけど…綾瀬マネージャーは?」


「俺は、悪い。1杯だけ付き合って、早めの新幹線で帰るわ」


途中で飲み会を抜け出し、後のことを歩に任せたい、ということだ。


「あっちからも佐伯さんとか村田さんとか来るってことだから。歩も知ってるよな、彼女たちのこと」


「知ってますけど…」


「…ん?やっぱ不安?」


俺より2年後輩の歩。

さっぱりした性格で仕事もできて、俺と普通に会話できる数少ない女子社員だが…


「綾瀬マネージャーと一緒が…良かったなぁって…」


ほんの少し…頬に赤みがさすのを見て、俺は前かがみだった姿勢を、そっと後ろへそらした。


「彼女…いや、婚約者だな。もう親に挨拶したし」


急に話を変えた俺に、驚いた視線を向ける歩。


「…熱出してさ。出張に行く前に、離れがたくて甘えてたから、それが原因で風邪を引かせたみたいなんだ」


「…婚約者?恋人がいるらしいって話は聞きましたけど…」


「本当は今すぐ結婚したいんだけどさ、彼女…来月から新社会人なわけよ。…さすがに結婚は待つしかなくて…」


目まぐるしく動く視線を追いかけながら、トドメとばかりにモネの写真を見せた。


スモーキーピンクのワンピースを着て、緩やかに微笑んでいる…実家に挨拶に行った時のものだ。


「えぇ…?!可愛い…」


「…だろ?写真まで見せて惚気たのは…歩が初めてだ」


俺の意図に気づいたのか、歩はキリッとした表情を取り戻していた。


「綾瀬マネージャー、最高ですね!」


惚気と心配が高評価だったらしい。

…歩は飲み会を途中で退席する話に同意してくれた。



結局…飲み会は完全にプライベートだという近藤さんに、早めの新幹線に乗るつもりだと打ち明けた。


はじめは「帰さない…!」とふざけていた近藤さんだったが、歩がいい具合にモネのことを話してくれて、最後は応援するように開放してくれた。


東京に来ることがあれば必ず再会しようと約束をして、後を歩に任せ、俺は予定の時間の

新幹線に乗る。


途中モネにメッセージを送ってみたが、眠っているのか既読はつかない。


まだ3人はマンションにいるはずだ。


ジリジリする思いで東京駅に降り立ち、やがてマンションが見えてくると、一目散に玄関を開ける。


そこで見たのは、驚くべき光景だった。


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