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3章…第13話

「こらっ!お前勝手に帰りやがって…一瞬どこに行ったのかと思って探しただろうがっ!」


真っ先に憂に叱られる聖也。


「す、すいません」


やらかしが続き、あっちからもこっちからも怒られて、さすがに素直に謝るしかない聖也。


頼みの綱の、モネも部屋で寝てるしな。


俺は2人に、ついさっき聖也を叱り飛ばした経緯を話した。

驚いたのは錦之助だ。


「モモが寝てる部屋に忍び込んで寝顔を覗くって…半殺し案件だろ」


「確かに。吉良のモネちゃんへの独占欲は、海よりも深いって知らねーのか?」


「し、知りませんでした…」


呆れ顔の2人を見て、どれほどヤバいことをしたんだと冷や汗をかく聖也。

改めて俺に頭を下げた。


「モネの従兄弟だから、取りあえず命は取らないでおく」


そう言ってバンッと肩を叩くと、その拍子で腰が浮きかけてた。

…どれほど居心地が悪いんだと、笑ってしまう。


「さて…決めなきゃならないのは、お前の今後の行き先なんだが」


「…え?」


モネにあんな風に近づいておいて、まだここで暮らせると思っているとしたら、相当おめでたい。


「あー…こいつ、どこもかしこも嫌だとか言って、アパート全然決まらなかったんですよ」


「…だろうな。今日も憂の手伝いバックレて、モネの寝顔なんて見てないで、物件探ししてたら褒めてやったんだけどな」


錦之助とそう言い合って笑い飛ばしたが、聖也は反論ひとつできないらしい。


すると憂が話に入ってきて、聖也の行き先を勝手に決めてくれた。


「ここは…錦之助が面倒見るしかないだろ?」


「…は?」


急に話を振られて驚いたのか、錦之助はとっさに聖也をにらみ、顔を寄せている。


「す、すいません。あの…よろしくお願いします」


実家に送り返されるよりマシだと思ったのか、聖也はペコっと頭を下げ、ヘラリと笑って見せた。


「錦之助が預かるって言ったら、きっとモネも安心すると思うぞ。あぁ…俺はいい後輩を持ったなぁ」


俺の言葉に一応笑顔で返事をしながら、錦之助は情けない顔を憂に向ける。


「あのぅ…俺の住まい、ワンルームなんですよ。…憂さんの家なら、きっといくつも部屋があって、空いてる部屋もいっぱいあるなんてことは…」


「無いな」


キッパリ返す憂にさすがの俺も吹き出す。


「確かに部屋は余ってるけど、全部の部屋に女の子の名前がついてるから…いつその子たちが帰るかわからないんだわ!」


「なんっすかそれ?!本命の子ができたんじゃないっすか?…少しは吉良先輩を見習いましょうよ!」


憂のモテっぷりに腹を立てたのか、錦之助が噛みつく。


「…部屋に女の子の名前って…俺もつけてみたいわ…」


ブスッとして呟いた錦之助。

完全に論点がズレた発言に笑ってしまう。



…………


「あの、本当にすいませんでした」


またしても俺からの先輩風に吹かれた錦之助が、口をへの字に曲げつつ、聖也を連れて帰ってくれることになった。


だから俺は、謝罪の言葉を口にした聖也に、強く言ってやった。


「取りあえず、なる早で部屋を決めろよ」


「は、はい…入学式も間もなくですし、本当に早く、決めますです。…はい」


「実家にはすべて内緒にしてやるから。邪魔くさい家具も、いったんうちで預かっとく」


「何から何まで…すいません」


「まぁ…いいってことよ」


実家に内緒にするのはモネのためでもある。

それに家具の送料は、今までとは違うまっとうで体力を使うバイトをさせ、そのバイト代から払ってもらうつもりだ。


そう伝えると、聖也は素直に頷いて、深く頭を下げた。

そして涙を流さんばかりに恐縮し、最後は俺に手を合わせて出ていった。




「…錦之助には、今度グラビア撮影を見学させてやるとしよう」


「それがいいかもな…!」


憂と笑い合ったところで、ふと真顔を向けられたことに気付く。


「なに?」


「この間は香里奈で次は聖也と…モネちゃんとせっかく2人きりになったのに、立て続けに邪魔が入ってざまー」


「なんだとコラ?」


目を剥いて腕まくりをするふりをすれば、笑いだす憂。


「そんなこんなで聞けなかったけど、モネちゃん、実家に連れてったんだろ?」


「あぁ」


「…大丈夫か?」


冗談まじりでしかものを言わない憂が、やけに真面目くさった顔で尋ねてくるのがおかしくて笑ってしまう。


「大丈夫だ。モネは、俺が思ってたよりずっと優しくて素直で、懐が深い子だよ」


ちょっとテレくさいが、真顔の憂にはそんな本音をもらすこともできた。


「そっか。じゃ、よかったな」


初めて会わせた時、悪友…なんて、モネには紹介したが、憂も鬼龍も椎名も、間違いなく俺の親友だ。


「…あれ?そう言えば、鬼龍はどうした?」


「あぁ。モネちゃんが体調崩したって聞いて、押し掛けるのはやめとくってさ」


鬼龍は他の3人にはない、気の利かせ方をする男だ。

それは、突っ走る俺たち3人のブレーキのような存在。


「実家に連れてってどうだったか、一番心配してたのは鬼龍だよ。ま、これであいつも安心するだろ」


憂はそう言って帰っていき、やっと2人っきりになれた…




寝室を覗くと、モネがスヤスヤと寝入っている。


枕元に座ってその寝顔を見つめると、紅かった頬はすっかり紅みを消していて、さっき測った熱が、更に下がったのかもしれないと思わせる。


聖也をお仕置きする…なんて聞いて心配そうにしていたが、こんなにぐっすり眠っているところを見ると、俺を信頼して任せてくれてたのかな…と思う。


起きたら聖也のことを伝えて…錦之助に引き取らせたと言ったら怒られるか、少々心配だ。


あぁ…なんだか俺も眠くなってきた。

邪魔にならないように、モネのそばに頭を乗せると、甘い匂いが立ち上って安心する。


…2人きりになったと言ったら、モネは喜んでくれるだろうか。


そんなことを思いながら、俺は重くなったまぶたを素直に閉じた。



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