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4章…第1話

ふと目が覚めておどろいた。

吉良が私の横で意識を失ってる…


慌てて肩を揺さぶると、すぐに目を覚ましたのでホッとした…!


体調を確認されて、熱はすっかり下がったようだと伝えると、吉良はバツが悪そうに口を開いた。


「モネは怒るかもしれないけど…」


まるで罪を告白するように、神妙な顔で、見つめてくる。


「聖也は錦之助に預けた」


「…えぇ?!」


お仕置きなんて言ってたから、何かあったんだと思ったけど…まさか錦之助の家に行ったなんて、あの子はどんな罪を犯したんだろう。



「モネの寝顔を至近距離で見下ろしてたから、ブチ切れました」


「え?」


…たったそれだけ?

と、正直思う。でも、見つめる吉良の目が鋭いから、そういうものではないんだなって理解した。



「そっか…まさか、見られてるとは思わなかった」


「聖也はモネを女の子として見てたからね?」


「え?」


…本日何回目の「え?」なんだろう。

我ながら語彙力の無さに呆れる。


「男は、女の子ってだけでそういう目で見る生き物だから」


モネが可愛いか可愛くないかは置いといて、って付け加えられてちょっと複雑…


「可愛いからこそ、危険は100万倍に膨れ上がる」


私の微妙な表情に気づいたように言う。



「男は、愛する気持ちがなくても、体を繋げる生き物だからな」



不意に吐き出された言葉は、吉良の美しい唇から放出された言葉にしては、なんだか冷たくて物悲しい。


つい、香里奈さんが言ってた言葉が頭をかすめてしまう。

…何の関係もないのに、あるはずないのに。


「…聖也のことは、吉良の判断に従う」


そう言って、ベッドの上に正座して、深々と頭を下げた。


「この度は私の従兄弟が、いろいろご迷惑をかけて、申し訳ありませんでした…」


「…マジメかよ」


吉良は私の隣に座って頭を撫でてくれた。


これで聖也の件は話が終わった。


「…あとで錦之助に、はちみつタラコのおにぎり届けよう」


「なにそれ新作?」


慌てて聞かれて…うなずいて見せる。

聖也がお世話になるお礼というかご挨拶だと思ってるんだけど、何か変?



「…普通にタラコにしてやって」


さすがにこれ以上は錦之助も可哀想だから…って、それどういう意味…?



…………


久しぶりに2人きりの夜…

お風呂に入ってまったりベッドでくつろぐ。


「そういえば、吉良の帰宅は明日の予定じゃなかった?」


「やっと気づいた?」


苦笑されて、ごめん…とつぶやく。


「モネの体調が心配で、飲み会の盛り上げは歩に頼んで帰ってきた」


愛しい人はリラックスした表情で笑ってみせる。

目がトロン…として、眠そう。


そういえばさっきも寝てるとこ起こしちゃったんだ…


私は吉良に毛布をかけ直して、そっと頭をなでる。

少しだけくせ毛の髪は、まだちゃんと乾いてないみたいで…風邪を引かないかと心配になった。


思えば、家族以外の人で、体調まで心配になる人って初めてだ。


それは、出張を早めに切り上げて帰ってきた吉良も同じ…?

口には出さないけど、同じ気持ちだってわかる。そして幸せな気持ちになる。


スーッ…と、まぶたが落ちていく吉良の寝顔を飽きもせずじっと見つめながら、香里奈さんの突撃と聖也の預かりが終わって訪れた静寂に耳を澄ました。


これからはまた2人で、この部屋で愛を育んでいく。


私の入社式もまもなく。

また生活が切り替わって、慣れるまでは大変かもしれないけど、吉良とこうして一緒に眠れたら絶対に大丈夫だって思えた。


「…おやすみ吉良。愛してます」


背中に手を回して、私もそっと、目を閉じた。



…………………


「お化粧変じゃない?」


「…マスク」


「髪は…?ハネてない?」


「…マスク」


「マスクはするけど…ほかも見てよ…」


「可愛いくって腹が立つ…」



顔を隠せって、マスクを渡してくる吉良。 

仏頂ヅラに笑みがこぼれる。


今日はついに、新社会人としてデビューする…入社式だ!


吉良と途中まで一緒に行く中で、電車のあまりの混み具合に驚いた…


これを吉良は、というか社会人の多くは、何でもない顔をしてやり過ごしているというのか…


普通に尊敬する。




同じようなリクルートスーツに身を包んだ集団に出くわして、方向音痴の私はそれとなく連れていってもらうことにした。


…これがもし、別の会社への入社式に向かう人たちだったら大変だと思いながら、入っていくホールの看板に目を凝らす。


うん、大丈夫。

トリトルエージェントって、ちゃんと採用された会社の名前を見つけた。



緊張しながらホールに足を踏み入れると、どの人も自分より賢く、しっかりして見える。


懇親会で会った人の顔は見えない。

形式的なものだったし、ほとんど話せなかったし。


だからこんなにたくさんの新入社員が集まっていて驚いた。


この人たちが全員、自分の同期になるのかと、感慨深く思う。



「あの、隣いいですか?」


どこに座ったらいいか迷いながら、隅の席にちょこんと座っていたら、背の高い女の人に声をかけられた。


「あ、もちろんです。どうぞ…」


席をずれてあげるべきか一瞬悩んだ隙に、女の人は私の前を通って隣に座った。



「なんか、緊張しますね…」


しゃべりかけてくれて嬉しいのに、私はぎこちない笑顔で「そうですね…」と、答えた。


大学では霧子という一生の友達に巡り合えたから良かったけど、中学高校と、私は女友達に恵まれずいじめにあうこともあった。


そんなつもりは一切ないのに、「可愛いを振り撒きすぎ」と言われる。

反論をしても、それも「可愛い子ぶってる」と批判された。


だから初対面の女の人には若干警戒心が働くけれど…


「私は木村万里奈。よろしくね!」


爽やかな笑顔を見せてくれて思った。

…この人はきっと、霧子タイプだと。


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