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5章…第3話

「メッセージアプリ、交換しとこ」


自分の携帯を差し出す鬼龍さん。


そういえば吉良の親友3人と、私の携帯は繋がっていない。

そんな必要なかったし、私が吉良を差し置いて、個人的に連絡することなんてないと思ってたし。



「はい…」


これからは、それがあるのかな…

私が吉良を通さないで、鬼龍さんに連絡したくなることが。


心の片隅にそんな不安を隠しながら、私は吉良の後ろ姿が待ち受け画面の…携帯を開いた。



「…おぉ?」


「いや…こ、これはですね…」


暗闇に照らされる吉良の待ち受けにテレる。普通にテレる…!



「いいよ!ラブがすごくて羨ましい」


ニコニコする鬼龍さんと赤い顔の私。

鬼龍さんによって、メッセージアプリは無事にお互いの登録に成功した。


エントランスをくぐり、エレベーターで部屋まであがって玄関までたどり着いた。


…見ると、まだこちらを見上げている鬼龍さんがいる。

玄関に入るまで見張るつもりらしく、守られてる感じがありがたい…

それほど私は、吉良の大切な人だと認められているんだ。


カチャリ…玄関を開けて入る前に手を振ると、しっかり振り返して、ようやく歩き出した鬼龍さん。


そうなると、今度はこっちが見えなくなるまで見送ってあげたくなる…



「…モネ」


呼ばれてハッとした。

吉良が開けた玄関に、立ち尽くしている。



先に帰っていたことに若干驚いた…



「…ただいま」


「…お帰り」


スリッパを履く私を見守って、吉良は先に私をリビングに入れた。



「あの…」


「ごめん。ごめんな…」


私の右腕に手を掛けながら謝罪の言葉を口にする吉良は、いつより弱々しく見える。



「り、理由が知りたい…」


なぜ私はあの時、鬼龍さんの恋人だと言われたのか。



「それは…」


私の腕から手を離し、ソファに落ちるように座る吉良。

前屈みで両手を組み、視線を落としたまま、言った。



「彼女は、昔の知り合いで…以前しつこく付きまとわれていた」


鬼龍さんが言ってたことと同じだ…。

でも、それならどうしてこんなに辛そうな顔をするの?



「鬼龍の恋人だって言ったのは…モネに、危害を加えられたら、大変だから…」


「そう…なんだ」


私はすぐに、納得した風を装ってしまった。


本当は…


昔の知り合いって、どんな知り合い?

いつ頃付きまとわれていたの?


昨日は、私が外した席で、彼女と何を話したの?

迷惑をかけられてたのに、どうして隣に座らせたの?


聞きたいことはいっぱいあったけど、吉良が立ち上がって私を抱きしめて「ごめん」って何回も言うから。


もう何も聞けないよ。

聞いた情報だけで納得するしかないよ。


それで、いいんだよね?



私もそっと吉良の背中に腕を回した。

私よりずっと背が高くて、背中も大きくて。


抱きしめられてるのは、確実に私の方なのに…どうして小さく感じるんだろう。抱きしめているのが、自分の方だと思うんだろう。




…交代でお風呂に入って寝る準備をした。

吉良は私に「先にベッドに入ってて」と言ってくれたけど、暗いリビングで、誰かとやり取りしているのはわかってる。


…誰?

鬼龍さん?

それとも、今日会った金沢さんって女の人?


眠れるわけないのに、私はそっと目を閉じて、鬼龍さんの話と吉良の様子を思い返していた。





吉良がベッドに入ってきて、スプリングがわずかに軋む音で目を覚ました。

いつもなら、こんな音で起きないのに。


…てか私、寝てた?


不安渦巻く心を持て余しながらも眠れる自分に、若干の拍手を送りたい。

図々しく眠れる強さ、大事。


吉良は私が起きたなんて気付いてないと思う。そっとこちらの様子を伺いながら頭を撫でる。


吉良の体温を感じて、私は吉良の方に横向きになった。

それを合図にして、吉良の腕が首元に滑り込んで、抱き寄せられる。


足を絡ませたのは、今日は私からだった。

ハーフパンツをはいた吉良の太ももに自分の足を挟むと、体の全部が触れ合って安心する。


髪を撫でる吉良の大きな手が、頬に移動しながら、下を向いたことに気付く。


わずかに上を向くと…待っていたように触れる唇。

2度…3度と軽く啄むと、ゆっくり熱い唇を押し付けられた。



気付くと朝だった。

今日は休日。


昨日とほとんど変わらない体勢で目覚めたらしい。

すぐそこにある吉良の寝顔は、今日も麗しくて、寝ぼけまなこでじっと見つめてしまう。


昨日は…いろいろあったけど、やっぱりこうして2人で寄り添っていられたら、それが一番幸せ。


…そう思ったのに。


吉良の目元が濡れていることに気づいた。


涙…?

吉良が、泣いてる?



「…どしたの…?」


小さく声をかければ、観念したように目を開ける吉良。

その目はなぜか…赤い。



「眠れてなかったの…?」


「いや…」


なんでもないように笑顔を浮かべて、さりげなく目元を拭う吉良。



「変な夢見た…それで、よく眠れなかったみたい」


どんな夢…?

どんな夢を見て、泣いてたの?



「…じゃあ今日はもっと寝坊しよう」


無意識に、私は吉良の頭を胸に抱いた。


泣くなんて…吉良が泣くなんて。

私が守りたい。泣いちゃうようなことから、私が守ってあげたい。


…前にもこんな風に思ったことがあった。


吉良の生い立ちを知ったとき、それから…挨拶に行った時の、お母さまの無関心さを目の当たりにしたときだ。


胸に抱いた吉良はおとなしくされるがままになってる。

頭をそうっと撫でて、おでこに口づけ、額の生え際から手櫛で地肌を撫でた。



「いいな…この体勢…柔らかくて、いい感触…」


パジャマの上から膨らみにキスを落とされた。



「…急にドキドキし始めた…」


吉良は楽しそうに言ったけど、私の胸の高鳴りは、ぜんぜん違う意味。


手櫛で吉良の頭を撫でてたら、昨日金沢さんという女性も同じことをしていた光景を…思い出したから。



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