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5章…第6話

「モネ…」


入ってきたのは吉良…!

若干息を弾ませて、急いで来たのがわかる。



「あちゃー…早かったな。もう少し仕事してりゃいいのに」


憂さんに言われて、その肩に腕を回してしなだれかかり、険しい目を向けて不満をあらわにする吉良。



「…暑い!吉良、デカくて暑いとか…夏に嫌われる男No.1だぞ?」


「デカいのと季節はかんけーねーだろ」


憂さんにイジられてるけど、私は暑い中走ってきた吉良が心配になる。

…誰か、お水あげてぇ…


美亜さんに髪をいじられてて動けなかったけど、鏡の向こうから必死に訴えたのは吉良には伝わったみたいで、優しく微笑んでくれた。



「…なに、気晴らしさせるって、モネを変身させるってこと?」


そう言いながら近づいてきた吉良は、美亜さんに軽く会釈をした。



「ん…実は椎名とのコラボを考えててさ」


「…は?」


未来さんが来ているのは気づいていたようで、そちらに目をやりながら声を上げる吉良。



「すいませーん…吉良さんの愛しの恋人さんを…」


言いながら携帯が着信を知らせて、ホールを慌てて出ていく未来さん。



「椎名じゃねぇの?」


「だな。まぁ、予定通りって感じか」


鬼龍さんと憂さんが視線をかわすと、未来さんが戻ってきて言う。



「お待たせしました…椎名、まもなく到着するようです!」


鏡の中の私も準備が出来たみたいで…自分じゃないみたいな…美人がそこにいた。


やっぱり私も女子…

綺麗になれるのは嬉しくて、思わず立ち上がって、横から前から後ろから、鏡の自分を覗いてみた。



「…かーわい…!」


壁に寄りかかって腕を組んで、こちらを見て微笑む吉良が、鏡の中にいた。



「…あ…」


途端にくるくる自分を覗いてた仕草を恥ずかしく感じる…



「本当に、とても素敵です。…ピンク系がとてもよくお似合いで!」


美人の美亜さんに褒められてさらに恥ずかしくなる…!




「…ほぅ…やっぱ女の子ってスゴいな」


美亜さんに連れられて、用意されてた衣装に着替えて皆の前に出ていくと、一斉に視線が集まって…照れる…!


白いビスチェ風のミニワンピース。

上から薄くて繊細な、オーガンジー素材の透けるロングワンピースを重ねている…不思議な衣装…



「…ちょっと待って。この姿で椎名とカメラにおさまるわけ?」


さっきと同じく腕組みしながら、吉良が少し険しい表情になる。



「あ、わりぃね。この衣装、椎名が引きちぎって、ミニワンピだけになるから」


「…は?どういう演出だよ?」


…眉間のシワが深くなる吉良。

というか、私自身、何も聞いてないんですけど…




「皆さんお待たせしました!椎名、到着しました!」


固まりかけてた空気を弾き飛ばすように、未来さんがホールのドアをバーンッと開け放つ。



「ちー…っす」


ゆるゆるの黒いTシャツ。

襟元が切ってあるみたいで、鎖骨から片方の肩が見え隠れしてる。


下も黒の、ゆるゆるしたパンツ。

その独特な格好は、椎名さん以外では絶対似合わない…着こなせないコーデだ。


あ…でも、吉良たち3人なら、なんとかなっちゃうかも…


椎名さんは現役モデル感を存分に匂わせながら、当たり前のように鏡の前に座った。

すると未来さんが、椎名さん専用なのか、メイクボックスを持って椎名さんのメイクを始める。


未来さんもメイクとか出来る人なんだと、感心しながら見ていると、美亜さんがそっと椅子を持ってきてくれた。



「白いワンピとか…ウエディングドレス連想させてやだなー」


緩くアップにしてある髪に絶妙なバランスで飾られた花飾りを見つめながら、吉良の口が尖る。



「ウエディングじゃないから…」


そういいながら何かを期待して吉良を見上げると…



「綺麗だよ」


欲しい時に、欲しい言葉をくれて…緩む笑顔に花が咲く。



「…なぁ俺さ、タキシード着ようかな?」


メイクはたいしてしないでもいいようで、椎名さんは未来さんに髪のセットをしてもらいながら憂さんに言った。



「あぁ?!お前吉良に殺されるぞ?」


いつの間にかカメラを構えて、後ろにいた憂さんが答える。



「…だな。おい…やるなら来いや、椎名…」


「待って待って待って…!ごめんなさい。変なこと言いました…!」


近づいてくる吉良から逃げるように、鏡の前から姿を消す椎名さん。


捕まえてヘッドロックをしながら笑う2人を見ていると…

昨日の緊張感が嘘みたいだな、って思った。


私に向けるのとは違う吉良のいたずらっぽい笑顔は、憂さんたち3人といる時にだけ見せる顔。

私はその笑顔を記憶に残したくて…ついじっと吉良を見つめてしまう。


どんな吉良も好きだけど…やっぱり笑顔の吉良がいい。

昨日みたいな苦しそうな表情を、もう見ることはないように祈りながら…


私はいつまでも吉良を見つめていた。





「じゃあ撮ってくよ〜…2人はまずソファに座って向かい合って」


憂さんの指示通り、用意された革張りのソファに椎名さんと座った。



「もう少し近づいたほうが良くない?」


意見を出す鬼龍さんを睨む吉良。


「よけーな意見を…」





「立ち上がるモネちゃんにつられて椎名も立ち上がって…で、胸元からオーガンジーのドレスを引き裂く…っ感じで!」


「…普通に撮影できねぇのか…?」


「…吉良の怒りがMAXになる前に!…いくぞ?」


一同クスクス笑いながら、早速撮影が始まった…!


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