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7章…第6話

気付けば、2時間以上たっていた。


「吉良が嫉妬に狂う前に、帰ろうか」


自分の分を出そうとしたけど、鬼龍さんは財布をもっていないから、と言って受け取ってくれなかった。


電子決済やらなにやら言う私に、今度吉良に払わせると納得させてくれて、笑って歩き出す。



「そういえばさぁ、この前モネちゃんが大酔っぱらいになったときのこと、俺も謝っておくわ」


「…え?わざわざ送ってもらって、迷惑かけたのは私で…」


「いや、もし…知ることがあったら、俺の謝罪を思い出して!」


…鬼龍さんはいたずらっぽく笑って謎の言葉を残し、沿線の違う改札に行ってしまった。


…どういうこと?

私の知らないことがあるの?

あの酔っぱらいになった夜、私はいったい、何をしでかしたんだろう…


いや、鬼龍さんは…俺の謝罪を思い出してって言ってた。


…ということは、私は鬼龍さんに謝罪されるようなことをされたの?


「ま、まさか…!」


そこまで思って、あの夜衣服に一切の乱れがなかったことを思い出す。


それにそれに…聞いた話では、EDって言ってた。

今はどうなってるかわからないけど…。


と、いうことは…






「…吉良?」


考え事をしながら電車に乗って、あっという間に最寄り駅についたらしい。


…改札を抜けたところに、白いジャージ姿の吉良が壁にもたれて立っているのが見えた。


迎えに来てくれたのかな…


ホッコリして小走りで近づいてみると…1人じゃないことに気づく。



赤いミニスカートに豹柄タンクトップ。茶色い髪をポニーテールにした派手な女性…


一瞬、過去のバイトのお客さんなんじゃないかと思った。


それにしては吉良の表情が柔らかい…?


2人が連れだってこちらに歩いてきて、私はとっさに物陰に隠れてしまう。


瞬間、携帯がメッセージの着信を知らせたので、驚いて飛び上がりそうになった。





「…嘘」



『急にごめん。今日は外で夕飯食べてくる』



ハッとして、派手な女性と歩きだした吉良を探した。

携帯を見ているうちに見失ってしまったみたい…


夕飯って…今の人と一緒に食べるってこと…?


さりげなくあたりを探してしまう。だけど、見つけたって声をかけられるのかと言えば…疑わしい。


私は恋人なんだから。

親に紹介までした婚約者なんだから…っていう強気な態度には、本当にいつまでもなれない。


鬼龍さんに話を聞いてもらってモヤモヤが晴れたのに、また曇ってしまった心の雨。なす術もなく…家に帰る道を、私はトボトボと歩きだした。


……………


ご飯くらい、なんでもない。

私だって鬼龍さんとランチしてきたし、錦之助と2人でご飯くらい行くし。


そう思ってみるものの、私の知らない女の人と2人っていうのが気になる…


それに、さっきの派手な女性に向けた屈託のない笑顔…

私の心はさらに重く…沈んだ。





「あ、白ワイン」


夕飯の時間になって、冷蔵庫を開けてみると、白ワインが冷えていることに気付いた。


料理に使うつもりだったのかな…



飲みすぎなければ平気。


先にシャワーして、炊きたてご飯でおにぎりを作って、グラスに注いだワインと一緒にいただきます。


「おにぎりとワイン…合わない…」


食べすぎないように隠していたチョコを冷凍庫から出して、食べながら飲んだ。


「おにぎりとワインとチョコ…変な夕飯…」


カシャッと写真を撮ってなんとなく…霧子と錦之助に送信した。


そして私はいつの間にか、ソファで眠ってしまったようで…




………



吉良が白いタキシードを着て、こちらに向かって手を差し出した。


でも私はいつもの部屋着で、王子様みたいな吉良の手を取るのを…迷ってしまう…


そしたら後ろからすごい勢いで、赤いドレスの女の人が走ってきて、私を突き飛ばして吉良の手を取ってしまった…


吉良…っ!


必死に呼んでるのに、吉良には届かなくて…

私じゃない人の手を取って、行ってしまった…


行かないで…吉良…行かないで…







「…ネ…モネ…?」



頬に手を当てられて、そっと目を開いた。


目の前の吉良の心配そうな表情を見て、まばたきと共に、涙が頬を伝った。



夢を…見ていたらしい…





「…大丈夫なん?…この子?」



聞きなれない女の人の声…

誰だろうと思うと同時に、私の視界にヒョウ柄タンクトップと茶髪のポニーテールが目に入った。


ハッとして体を起こすと、さっき吉良と一緒にいた女の人が、吉良と一緒に私をのぞきこんでいる…



やっぱり、急に夕飯食べてくるって、この人と一緒に…ってことだったんだ。


吉良は女性を私に紹介した。


「宮本凛々子。中学の時の幼なじみ。…今日バッタリ駅のそばで会って、せっかくだから、夕飯でも食べようってことになってさ」


凛々子さんは見た目派手だけど、すごく綺麗な人だった。


モテまくった吉良だけど、唯一凛々子さんだけは男友達と同じような付き合いだったという。



「…これがあの吉良の彼女かぁ…ベタ惚れなのわかる!めちゃくちゃ可愛い」


私のことを言ってるのはわかるけど…2人で顔を見合わせて、フフって笑ってるの、なんかイヤ…



「錦之助から着信が来たんだ」


何も言わない私に、吉良が付け足して説明する。


「モネが意味不明な画像を送ってきたから返信したけど、一向に連絡が取れないって…」


「そう!せっかくお酒飲ませて、モネちゃんとのなれそめを聞き出そうとしてたのに!…連絡が取れないって聞いてもう…大慌てで帰ってきたんだよ?」


2人に説明されて、私はさすがに申し訳なく思った。



「そ、それは…ごめんなさい。

あの、私は大丈夫なので、どうぞまた2人で…夜の街へ繰り出してください…」


ちょっと嫌味っぽかったかも、と思ったけれど、もう遅い…。


なんだか素直になれなくて…

変に拗れたら嫌だなって思うのに、止められなかった。


あぁ、ちょっと待って。

吉良の表情が曇る…


…怒られちゃう…!


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