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7章…第8話

「…モネにキスしたって」





「…えぇっ?!」




いつか、鬼龍さんとランチした時に、真相を知ることがあれば、俺の謝罪を思い出せ…と言っていたことが頭をよぎった。



「鬼龍も完全に酔ってて、子供みたいな寝顔のモネが可愛くて、ついキスをしてしまったらしい。…でも俺、それからモヤモヤしてたまらなくて…」


だからタバコを吸ったり、少し様子がおかしくなったのか…と納得した。



「だけど怒れなかった。俺も…過去を話したばっかりだったし…

だから鬼龍と2人でランチとか…本当は許せなかった」


「…もしかしたら、凛々子さんと急に夕飯に行く気になったのは、そんな話をしたかったから…とか?」


「…あぁ。めちゃくちゃハズイけど、そう」


…なんだ…!気持ちは私と同じだったのか…。



「お互いにやきもち妬いてた…!」


私は振り返り、吉良の頬にキスをした。



「気付かなくてごめん…それに、鬼龍さんのことも…」


キスをされてたなんて、いかに自分が無防備で警戒心がなかったか…情けない気持ちになった。



「でもきっと、私にキスって…妹とか子供とかを可愛く思う気持ちと同じだったんじゃないかな。それか、犬とか、猫とか…」


吉良の膝に横座りして、その腰に手を回す。胸に頬を寄せていたから、吉良の鼓動がダイレクトに聞こえる。



「うん。妹とか子供の類いで可愛いと思った…って言ってた。それでもさ…」


私の顔を覗き込んで、人指し指で唇をなぞる。



「嫌なんだよ。他の誰かに触れられるなんて…絶対!」


…吉良の気持ちは痛いほどわかる。


私も嫌だもん。

過去のことでも気持ちに折り合いをつけるのは大変なのに…。



「でも鬼龍は嘘はつけなかったって言っててさ。モネが気付いてないなら秘密にしとけばいいのに…真面目っていうかバカ正直っていうか…」


私に話してくれたことを思い出す。

きっと、EDになったことや元カノが吉良を好きになってしまったこと、鬼龍さんは今でも秘密にしてるんだろうな。


もしかしたらそれを、当時誰かに打ち明けていれば、体に異変が出るほどのことにはならなかったかもしれない。


話せれば。

自分の気持ちを外に出せれば。

心の負担は軽くなる。


秘密や過ちを打ち明けるのは勇気がいるし、何でも話せばいいってものでもないけど、そもそも打ち明ける相手に相当な信頼感がなければできない話だ。


きっと、自分の酔った上でのミスごとき、私と吉良の関係に影響するはずがないと思って話したにちがいない。


私と吉良は、それほど強い絆で結ばれていると、鬼龍さんは思っているんだろう。


今回鬼龍さんが打ち明けたのは、吉良への信頼感、そして私たちの絆の強さに確信をもっていたから。


そして…元カノのことで深く傷ついた経験から、ひとりで抱えすぎない、自分を大切にする気持ちもあったんだろうと思う。



「…なに考えてる?」


「あ、ううん。なんでもない」


「鬼龍のこと、考えてない?」


「あ…」


…考えてた…



「俺だけを見てよ…」


ギュッと抱きしめられて、つぶれそうになって「…ギブ…!」と伝えると、ふっと力を抜いてくれる。



「ちゃんと見てる…よ?」


見上げた吉良の表情がなんだか苦しそう…。

もしかしたら吉良の嫉妬は、私が思う以上に激しいものかもしれない…


私は吉良の正面に膝立ちになって、その頬を両手で包んだ。



「…吉良、愛してるよ?」


「…ん?」


「私は、誰よりも…家族よりも…自分より、吉良が大切なんだよ…」


はじめは茶化すような表情をしていたけど、そのうち瞳に熱がこもり、真剣な表情になっていくのがわかる。


その唇にチュッ…とキスをして、今の正直な気持ちを伝えてみる。



「吉良の過去は…ショックじゃないって言ったら嘘になる。でも、私を信頼してくれたんだって、思えるようになった」


「…信頼?」


「うん。だって、去年の私には打ち明けられなかったでしょ?まだ学生でポヤポヤしてたし」


「ポヤポヤは今も同じ…」


「…あーっ!ひどい!」


ニヤニヤ笑う吉良。

私の腰を抱く手をペチンと叩く。



「付き合い始めて…自分でも驚くほどモネにハマって、結婚したいと思うようになった。自分の過去は…全部打ち明けるか隠し通すか、すごく悩んだ」


話すも話さないも信頼関係だとするなら、私は話してもらってよかったと思う。



「金沢さんにはどこで会うかわからなかったし、ビクビクしているのは嫌だと思った。その矢先に本当に現れたから、打ち明けなきゃいけないって思ったよ」


1度はごまかしてしまったけれど…と言いながら、吉良はそっと目を伏せた。



「過去を許してもらうまで…受け入れてもらうまで、時間が必要だってことはわかってる。だから、無理しなくていいから」


それは、セックスのことだってわかる。



「すごくデリケートなことだって理解してる。俺を好きでいてくれるモネなら、その苦しみも大きいだろうって、わかってるから」


「…うん」


「無理しないで、少しずつでいい。ただ、もし嫌じゃなかったら、これからは寝る前に抱きしめていい?」


今の話し合いで、密着していられる私を見て、無理がないと思ったんだろう。


「うん…いいよ」


吉良の優しい笑顔は、久しぶりにさえ感じる。


ベッドから降りた吉良。

改めて私を抱きしめる。

私も背伸びをして、吉良の首に腕を巻き付け…


「愛してる…吉良…」


耳元でささやいて、チュッとキスをした。



「あんまり可愛いことしないでくれる?…」


言いながら吉良も、耳元で愛をささやいてくれた。


おやすみ…と言ってドアを出ていく吉良。


無理をしないでいいというのはそういうことだとわかるけど、やっぱり一緒に寝たいと思ったのは素直な気持ち。





トイレに行くのに部屋を出て、吉良の書斎に明かりがついているのを確認する。


仕事の邪魔しちゃうかな…と思いながら、もう少し触れたい気持ちが大きくて、そのドアに手を掛けた。



「…毎日迎えに行く。いいよそんなの、気にするな」



吉良は誰かと電話してるようで、意味深な言葉につい…開けようとした手が止まってしまう。


明日から毎日、誰を迎えに行くって話…?



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