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7章…第9話 Side.吉良

鬼龍から着信が入った。

なんと…奴のところに、金沢さんから電話が入ったらしい。


「ご機嫌いかが?…だとさ」


「モネに揺さぶりをかけて、俺たちの仲に変化があったか知りたかったんだろ」


鬼龍は、モネがまた退社後に彼女に誘われたら厄介だと警戒した。


モネを見張ろうと申し出てくれたが、俺はそれをきっぱり断る。


「…毎日迎えに行く」


「吉良、繁忙期だろ?」


「いいよそんなの、気にするな」


それに…

金沢さんとは1度しっかり話をしなければならない。


ただ逃げ回るだけではだめだ。

俺には守るものがある。


場合によっては弁護士や警察の力を借りることも考えていた。


「そっか。だったら安心だな。だけど…」


何を言い出すのか、俺は携帯を持ち替えた。


「1人で金沢さんと話すなよ。同席しなくても…俺らが近くで待機するから」


俺の考えはお見通しらしい。

やっぱり親友だな…と、こういう時思う。


でも気に入らない。

俺が頼む前にモネを勝手に護衛するなよ?





鬼龍との電話を切り、何気なく部屋のドアを…その先の寝室のドアに目をやった。


…モネはもう、寝ただろうか。


さっき感じた柔らかいモネの体を思い出す。

熱を帯びたまなざし。

それが自分に注がれると、途端に騒ぎ出す心臓…


最近のモネは、ただの「可愛い女の子」ではなくなりつつある。


色気とかそういうもの以前に、人としての深みが増したような、女性としての深い魅力がそこはかとなく漂う感じ。


社会人として数ヶ月。

いろんな経験をした結果なんだろうが…俺としては心配事が増えるわけで。



スマホにチラリと目をやって、今の時間を確認する。


やっぱり限界…もう一度、触れたい。


わざと勢いをつけて椅子から立ち上がり、部屋を出た向かいのドアに手をかけた。



声を掛けるべきか…否か…


一瞬悩んだが…ドアを開けてしまった。途端に、鼻先をかすめる花の香り…


モネは横向きになって眠っている。

枕元に座り、その寝顔を覗き込んだ。


長いまつ毛、バラ色の唇…頬と耳がピンク色…ちょっと暑いんじゃないのか?


そういえば枕元の明かりがつけっぱなしだ…手元に転がってる携帯を拾い上げ、危なくないところに置こうとして…


閉じきらなかった画面が見えてしまった。


「彼氏の怪しい行動10選…」


…は?俺のことか?


さっきあんなに抱きしめて、愛を伝えたと思ったけどな。

何をまた不安にさせたのかと思いを巡らせた。



「吉良…」


お約束みたいに、俺の名前を呼んで、仰向けに動いたモネ。


小さな手に触れ、口元に持っていってキスを落とす…


「モネち…ラブ。吉良の愛は全部君のもの…」


アニメみたいなキメ台詞に1人照れて…後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。




「今日から迎えに行くから。帰る頃メッセして」


翌朝、モネの新作おにぎりを頬ばりながりそう伝えると「…へ?」と言いながら固まった。



「…鬼龍のところに、金沢さんから意味深な電話があったらしいんだ。

…またモネに接触されたら嫌だから、迎えに行くよ」


今度は何も隠さず誤魔化さず伝えると、モネは少し眉をひそめて俺を見た。



「吉良のところには、金沢さんから…連絡来てないの?」


「来てないよ。…ってか、この前は鬼龍たちに庇ってもらって、金沢さんに連絡先はバレてない」


「…ならいいんだけど、金沢さん…どうして吉良のことあきらめてくれないんだろう。自分に愛はないって、わかると思うけど」


そう言いながら、手元のおにぎりを頬ばるモネ。



「あ…これ失敗かも…」


口元を指先で拭いながら、眉をハの字にして俺を見上げる。



「…そぉ?」


失敗作だというおにぎりをガブリを口に入れた。



「…やだっ!失敗って言ったのに!」


慌てたモネは、お皿を俺の手に押し付ける。

…ここ出せ、ということらしい。


確かに…なんとも言えない甘辛さと昆布の塩気が絶妙だが…


ちゃんと食べきった俺に、モネが怒ったような顔を向ける。


「モネの味がしてうまかったけど?ちなみになんてゆー具?」


「塩昆布砂糖醤油…」


「なにぃ…?w」


どういう取り合わせだ?

塩昆布に砂糖も醤油もいらないだろう普通…


あらゆるものを独自配合するモネのやることが可愛くて、つい目を細めてしまう。


「砂糖と醤油の他にも…絶対何か入れてる…」


そう言ってもうひとつおにぎりを手にした俺から、慌てて奪い返すモネ。


「だから…失敗作食べないでって!」


赤い顔をして視線を泳がせるモネが可愛くて…俺はつい、彼女の唇を奪ってしまった。


柔らかい唇を舌先で舐めながら、わずかに開いた唇の隙間に入る。




ほのかに感じるのは…ピーナッツクリーム。


隠し味を探り当て、納得したのに…次第に熱を帯びてしまって、自分で止められないキスに我ながら焦る…


朝から何を盛ってるんだ…!




「…ピーナッツだな」


やっと唇を離して、イタズラっぽくそう言えば「アタリ…」と素直に認めて下を向くモネ。


赤い顔と潤んだ目を見られるのが恥ずかしいらしく顔を伏せるが…今はその方が俺も助かる。






もう金沢さんのことは隠さないと決めたことが伝わって、少しずつモネが俺を受け入れてくれていると感じていた。 


だからこのまま、少しずつ。

以前のような2人に戻れると思った。


季節は早くも暦上の秋。


結婚式の話を具体的に進めたい。



そう思っていたのに…


まさか数日後、こんな戯れが、夢のようだと感じることが起きようとしているなんて…


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