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8章…第4話

…横向きに倒されたまま放置されて、どれくらいたったのか。


ギリギリと足を踏まれ、頬を叩かれたけど、さっき流した涙は完全に乾いていた。


金沢さんはこちらを向いてソファに座りながら、携帯を操っている。


もう1台携帯を持っていたのか…

外に出た形跡はないから、トランクから取り出したものではないだろう。

携帯で何をやっているのか…

忙しく手を動かしている。


ゲーム…?


意識がこちらに向いていないうちに逃げ出したい…でも手錠に足枷、椅子に縛られている状態では、体を動かすことも不可能だ。


さっき外へ飛び出した時、どうして闇雲に走らなかったのか…


後悔がよぎって、手錠されている手を、グッと握ってしまった。





その時、突然玄関ドアがノックされた。


ドンドンっ…と、何度も。


金沢さんが弾かれたように立ち上がり、軽い足取りでこちらへ来る。



「待ってぇ…そんなに叩かないでよ、ドア壊れるからぁ」


鼻にかかる甘い声。

さっき言ってた、金沢さんの客という男…?


恐怖で体がこわばる…


この状況で金沢さんの仲間が入ってきたら…私は、一巻の終わりだ…



いやだ…開けないで…


無情にも施錠が解かれたドアを見た瞬間、恐怖で目をギュッと瞑ってしまう。




「…モネ…!」





…緊張感に満ちたその声は、



吉良…。



ドアが開いた瞬間、外の空気が入ってきて…こんな時でも感じる、愛しい人の香り…



「…っっ…!!」


猿ぐつわをされていて声が出せない…でも、吉良が来てくれたことが嬉しくて、涙が溢れてきた。




「…なんで来るのよぉ?吉良ぁ!」


髪の乱れを直しながら、吉良の正面に立つ金沢さんが、私の視界から吉良を消してしまう。



「急じゃない…?ねぇ、どうしてここがわかったの?」


私が帰らないことを不審に思って探してくれたに決まってる。


でも金沢さんは、違う解釈をしているらしい。



「このアパート、覚えててくれたのね?あの頃、よくここまで送ってくれた…」


金沢さんは何も目には入らない様子で、目の前の吉良に抱きつこうとした。



「やめろっ!さわるなっ」


伸びてきた彼女の手を強く振り払い、それでも近づいてくる体を突き飛ばし、吉良は私のそばに来てくれた。



「なんでそんなこと言うの?…吉良、私に会いに来たんでしょ?」


金沢さんは、それでも吉良に話しかけるけど…吉良は私の、あまりの姿に驚いて顔面蒼白になっている。



「…なんで…何も悪くないモネをこんな目に合わせるんだ…っ?!」


金沢さんを睨み、平手打ちをくらって赤く腫れた私の頬をそっと撫でた。


そして、見たことがないほど悲しそうに顔を歪める。



「あんたが恨んでるのは俺だろうっ…っ!なんで…モネを…っ!」


手錠に足枷、椅子に縛り付けられ、倒れて猿ぐつわ…確かにひどい目にあったけど、でも私は、そんなことはどうでもいい。


それより、吉良を傷つけられたくない気持ちの方が先。



「あ…うぅ…」


金沢さんはもう、まともな判断はできないと、伝えたかった。


だから油断しないで…と。


吉良は涙を流しながら唸る私の猿ぐつわを外し、椅子に縛られていた縄を解いてくれたところで…


恐れていたことが起きた。



「…どうして無視するのよぉーっっ!」


金沢さんの両手に、陶器でできた灰皿が握られているのが見えた。


それを持ち上げ、振り下ろそうとした先は、無防備な後ろ向きの吉良。


私はとっさに吉良に覆い被さった。


反射的に何が起きたか察したのか、吉良は素早い身のこなしで私を脇に抱え、陶器を振り下ろした金沢さんの手首を握った。


…自分に当たるまで、数センチ…



「こんなことして、ただですむと思うなよ…!」


すぐ脇で見ていて、2人が一歩も引かないのがわかる。


ギリギリと音がしそうなほどの力の攻防だ。


私は思わず、金沢さんに言った。



「お願い…お願いだから、もう吉良を傷つけないで…」


これまで…何度も何度も、傷ついてきた人なの…

あなたが吉良を幸せにしてくれるなら、私は身を引いてもいいから…



「お願い…!こんなことやめて…」


自由のきかない両手両足で、それでも私は吉良をかばう。


自分より大切な人だから…

吉良を傷つけられるのは見ていられないの…


一瞬、金沢さんの瞳が揺れた気がした。


吉良もそれを見逃さず、瞬時に掴んだ手首を床に持っていき、わずかに捻ると…陶器の灰皿が嘘のように手から滑り落ちた。






「鍵は?手錠と足枷の鍵を出せ!」


私を片手に抱きながら、金沢さんに向かって手を出す吉良。


自分に向けられた吉良の視線に、一瞬彼女が笑った気がした。


まだ諦めてない…



「…危ない!」


私が叫ぶと同時に、彼女は吉良の手をつかみ、自分の方へと引っ張った。



「…会いたかった…吉良!合いたかったのよ…愛美、吉良がいなくて寂しかったのぅ…!」


愛美…とは、金沢さんの名前なんだろう。


甘い声を吐き出しながら、吉良に抱きつき、その顔を見上げる金沢さん。


吉良は抱きつく金沢さんの両腕を力づくで引きはがし、距離を取ろうとした。



「…ふざけんなっ!あんたとの縁はもうとっくに切れてる!何度言えばわかる?…頭がおかしいのかっ!」


「縁が切れたなら…もう一度つなげばいいじゃない…ほら、こうして、以前のように…」


吉良の手を取って、自分の胸元に当てる。そしてもう片方の手で、吉良の体を弄った。



「吉良に触らないで…!」


たまらず声を上げ、必死に金沢さんと吉良の間に入ろうとする。



「邪魔すんなっ!小娘ぇっ!」


汚い言葉で罵り、私に手を挙げ、唾を吐きかける金沢さん。


もう完全に狂ってる…


僅かな隙を突いて吉良に跨った彼女は、自分で服を脱ぎだし…吉良の服に手をかけた。



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