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8章…第5話

…その時だ。



玄関のドアが開き、携帯を手にした鬼龍さん、そして憂さんが姿を現した。


赤いソファのある和室の窓の方から、椎名さんも顔を覗かせる。



「…そこまでだ。金沢愛美」


憂さんの険しい顔を見て、目を見開く金沢さん。



「今の、全部録画したからね。吉良に対する性暴力、それからモネちゃんを誘拐、監禁…」


鬼龍さんは私の顔を見て、眉間にシワを寄せる。



「…暴力。モネちゃんにも暴力を振るったな」


私の頬が赤く腫れていることに気づいたみたいだ。



「…は、あはは…私の味方いないの?ねぇ…私のこと見てよ…」


鬼龍さんと憂さんに向かっていく金沢さんの表情は、次第に怒りを帯びていくのがわかる…



「…こんな犯罪をおかして、俺たちの親友とその嫁になる人を傷つけて、誰が味方になるってんだ?…あぁ?」


憂さんはそこまで言って、迫ってくる金沢さんの両手を縛り、その自由を奪った。



「…味方とか自分を見ろとか…どの面下げて言えるんだか…」


憂さんによって身柄を拘束され、ついに金沢さんは、その場にへたり込んでしまった。






「…モネ…」


吉良が私を抱きしめ、泣き出した。



「モネに、こんな…こんな目に合わせて、お、俺は…」


吉良が泣いてる…


はじめは俺さまで意地悪で、言葉が足りなくて、本当に愛されてるのか…とことん私を不安にした吉良が。



「…大丈夫。吉良、私は大丈夫だよ」


いつしか…不器用な吉良の愛がストレートな愛に変わったのは、私のまっすぐで強い愛が、影響したと思っていいかな?


ごめん…を繰り返す吉良。



「いいの。吉良が悪いんじゃない…」


…私は、この胸に帰ってこられたから、もう十分幸せだよ。




やがて3人が呼んでくれたらしいパトカーのサイレンが聞こえてきた。


「…い、いや…!私…いやっ!」


自分が起こした一連の出来事で通報され、警察に連行されるとわかったんだろう。


途端に金沢さんが暴れ出した。


3人掛かりで押さえつけ、その間に椎名さんが「ところで手錠と足枷の鍵はよ?」と聞いている。



「知らない…私じゃない…なにも知らない…知らないっ!」


…金沢さんはもう、まともに話ができる状態ではなさそうだ。






「…手首、赤くなってる。足も…」



金沢さんは到着した警察官に有無を言わさず連行されていき、私の手錠と足枷は、警察の手によってやっと外された。


吉良が私以上に辛そうに、手首と足首に残るアザを見ている。


大したケガではなかったけれど、私は病院へ運ばれることになった。





検査の結果、骨折はなく、脳にも異常がないことがわかったが、肩と腕の打撲、そして首を絞められてついたアザもあり、大事をとって1日入院することになった。



「俺はこのままモネに付き添うから…本当に、ありがとうな」


病院まで全員で来てくれて、検査結果を聞いて安心した3人は、先に帰ることになった。



「録画したものは証拠になるから、警察に提出する」


憂さんがそう言ってくれて、ありがたさに涙が出る。


実は…吉良が部屋の中に入ったあと、ドアとキッチンの窓に僅かな隙間が開いてることに、私は気づいていた。


鬼龍さんと憂さんは、どうやらそこから中の様子を録画してくれていたらしい。


「いきなり大人数で踏み込むのも、金沢さんには危険だと思ってね。ほら、刃物とか持ってないとも限らないし」


「それに、俺たちは一応部外者だから、不法侵入とか言われたら厄介だからさ」


鬼龍さんと憂さんの説明に、椎名さんも加わった。



「吉良からモネちゃんが誘拐されたって聞いて驚いて!…ちょうど仕事で郊外にいたから、駆けつけたってわけよ」


椎名さんは、現場に一足先に到着していたらしい。


そこで機転を利かせて、和室の窓から中の様子を録画しておいてくれたのだ。



「吉良が絶対に1人で踏み込むなって言うからさ」


吉良がそう言ったのは、人気モデルである椎名さんを心配したからだ。



「…当たり前だろ。1番に助けに入るのは、俺に決まってるじゃん」


吉良の言葉に、ふふ…っと笑う椎名さん。

その本心を見抜いているらしい。



「モネちゃんが暴行されてる証拠は撮れたけど…もう少し吉良たちの到着が遅かったら、マジで突入しようと思ってた」


真剣な顔でそう言ってくれる椎名さんに、私はベッドに寝かされたまま頭を下げた。



「とにもかくにも…一件落着、だな」


鬼龍さんの言葉に、皆いっせいにため息を吐き出す。


今後、金沢さんがどんな罪に問われるかは見守っていくつもり。

私も吉良も、警察に事情聴取されるかもしれない。


でも、今回のことで、改めてわかったことがある。


それは、自分の吉良への気持ちの強さ。


ヘタレだった私が、殴られても蹴られても、手足の自由を奪われても…吉良を守りたい、傷つけたくないと思っているんだなぁ…って。


少し強くなったみたいで、嬉しくなる。


大人の女の人って強いもんね!

私も少しは近づけたかな。



「じゃ、モネちゃん…お大事にね」


3人が帰ろうとして、吉良がエントランスまで送ろうとして…「やっぱやめた」と、ベッドまで戻ってきた。


「あぁ。それがいい」


「確かに。しばらく離れるな!」


「モネちゃん、っていうか、吉良だろうけど」


3人それぞれ言いたい事を言って、ドアの向こうに消えていくのを、私もベッドから手を振って見送る。



「…今の、どういう意味だろ?」


「この先一生、モネに頭が上がらなくなった…ってことがバレた」


ベッドの脇の椅子に座って、横たわる私の髪を撫でてくれる吉良。


その手は今まで以上に優しくて、この先もこの手に守られていくのを感じた。



「場所が…当たってて良かった…」


吉良は金沢さんの居所を予想して向かいながら、警察にも連絡していたという。


「喜んでついて行くはずないし。そしたら監禁に問えるんじゃないかと思って…」


話しぶりから、あのアパートへ、当時来たことがあるとわかる。


でも…もう苦しくなるような気持ちは湧いてこない。


吉良の過去を知って…感じたことのない感情に翻弄されて、我を失う事もあったけど。


金沢さんに監禁されて、生まれて初めて、人の強い悪意にさらされて怖かったけど。


吉良とだったから乗り越えられた気がする。

乗り越えて、1つ大人になった気がする。



「私…吉良のお嫁さんになる」


「…ん?」


突然の宣言に驚いた顔をする吉良。


「当然の当たり前だけど?…なんならもう1回プロポーズしますけど?

…ん?!」


言いながら、何かに気づいたようだ。










(…ちゃんとプロポーズしてないよな…俺)




吉良、心の声


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