「モネち…!ほっぺた治ったか?」
椎名さんは私の頬を両手で挟み、至近距離で覗いてくる…
「らいりょうるれる…」
だいじょうぶです…と言ったつもり。
吉良に頬に当てた手を引き剥がされる前に…キャッっ!と小さく叫び声が上がる。
…万里奈だ。
「…えっ!うそ!…椎名瑠偉、モデルの!瑠偉っ!」
「ども。吉良の友人S。椎名です。…モデルが必要になったら声をかけてください」
さっきから友人KとかSとか、なんなんだ?
…それに人生でモデルが必要になるときって、ある?
私は冷静にそんなことを思っていたけど、椎名さんの正体に気づいた万里奈は、興奮して足をバタバタさせながら、添島先輩に一生懸命訴えていた。
「えぇ…っ!椎名瑠偉さんって、スーパーモデルとか?好きなの?万里奈、瑠偉さんのファンなの?」
添島先輩は、万里奈に訴えられて、同じようにバタバタしながら…意外な行動に出た!
「えーっと、えー…あの!ワイシャツの背中に、サインお願いします!」
「ええっ…?ワイシャツ1枚ダメにしちゃいますよ?」
万里奈がファンだというから、添島先輩もそんなことを言い出したんだろうに…慌てる万里奈が可愛い。
「いいじゃない…俺のサイン付き彼氏のワイシャツ!プレゼントされちゃって!」
微笑ましい気持ちで成り行きを見守る中、背中にサラサラっと描いたサインは、どうやって椎名瑠偉って読むのか…私にはわからなかった。
「…揃ったかな?…それじゃ、モネちの快気祝いパーチー始めるか!」
いつの間にか、立食できるように、バイキング風に料理が並べられていた。
「んじゃ、まずは俺から」
吉良がマイクを手に、皆の前に立つ。
それだけで静かになるのは、やっぱりカッコいいから注目されるからだと思う…
「今日はモネのために集まってくれてありがとう。皆たくさん連絡をくれて、心配と励ましをもらった。本当はもっと早く、モネの心配ない姿を見せるべきだったんだけど、まぁ…とにかく俺が心配で」
言葉を切って私を見つめる吉良と目が合い、私は自然に笑顔になった。
「モネはご覧の通り、怪我はすっかり良くなりました。体のアザもどこにあったのかわからないくらいで、本当に安心した。もう多少は無茶しても大丈夫なんで、今日はみんなで楽しもう!」
挨拶が終わると同時に乾杯をして、そのあとは夜が更けるまで楽しんだ。
「それにしても…なんなの?綾瀬さんと仲間たちのビジュの強さ…」
万里奈、まだ言ってる!
「吉良さん1人だけでもすごいのに、プラス3って…破壊力ヤバい…」
霧子が大きくうなずいて賛成してる。
「でも私は…やっぱり怖すぎるほどのイケメンは緊張しちゃって無理だな…」
万里奈は、吉良と鬼龍さんと打ち解けて話す添島先輩を見つめてる。
「添島先輩もかなりカッコいいよ!あんな見た目で性格いい人、初めて見た!」
霧子の言葉に、私もウンウン、とうなずく。
「確かに!添島先輩は、スカッと爽やかで…レモン炭酸みたいなイケメン!」
「わかる!…吉良さんはね、濃厚な赤ワイン!」
霧子が乗っかれば、万里奈も負けじと乗ってきた。
「鬼龍さんは白ワイン?…椎名さんは…」
「スパークリングロゼ!」
万里奈と霧子が声を揃えて言うので、私も同意見だと、2人の手を取って笑った。
それにしても…やっぱり来ないのかな。
女子トークが盛り上がるなか、私にはひとつだけ、気になっていることがあった。
「そうだ!憂さんは?DJブース隠れてて見えなかった」
ちょっと体を乗り出して言う霧子。
「…あ!あの方だけ、ちょっと雰囲気ちがうよね?…年上?」
「ううん。吉良と同い年で、同じく幼なじみだよ?」
初対面の万里奈の質問に答えつつ、美羽さんは来ないのかな、と思う。
昨日吉良に確認したら、伝えた、とは言ってた。だから今日は、ずっと入り口を気にしてる。
「…そうなんだ。すごく大人っぽく見えた」
万里奈が言えば、霧子が早速飲み物に例えた。
「憂さんは…バーボンとか?すごい熟成されたやつ」
「…それって、老けてるってこと?」
つい聞いてしまって、慌てて万里奈に口を閉じられ…私たちは大きな声で笑った。
美羽さんは来ないまま、会は進んでいき、さっきからチラチラ視線が合う吉良が親指をDJブースに向けた。
「…DJ吉良、いきまーす」
憂さんからヘッドホンを受け取り、 音楽が少し変わった。
アップテンポの音楽は耳ざわりが良く、聞いたことのあるメロディ。
ぽっかり開いていた中央のスペースに、椎名さんが躍り出てきた。
さすが芸能人。…踊るステップは、その様子から、完全にオリジナル。
ただ、楽しんでやってるみたい。
そのうち鬼龍さんも一緒になって軽快なステップを踏み出して…これは過去に相当やって来たな、と思わせるレベル…!
皆で手拍子が始まり、憂さんに引っ張られて、錦之助と聖也も中に入った。
手拍子で盛り上げる憂さん。
皆の様子を見て、笑顔になる吉良。
私と出会う前は、こんな風に夜遊びしていたのかな…
ずっとずっと、知りたかった吉良の過去。悲しいこともあったけど、こんな風にいい笑顔でいた夜もあったであろう過去を見せてもらった気持ち。
…嬉しかった。
出会う前の吉良に会えたみたい。
やっぱり、私にとってのお祝いは、吉良の笑顔に他ならない。
…できれば美羽さんと、同じ気持ちを共有したかったなぁ。
本当に今日は来ないのかな…
それとも、突然やってくるのかな。
…そんな風に呑気に考えていた私に、驚きの事実が明かされるのは、もう少し後のこと。