快気祝いのパーティーはお開きになり、皆と別れて帰路につく。
計画してくれた憂さんには、特にお礼を言いたかったのに、気づいたらもう姿がなかった。
「…結局、来なかったね。美羽さん」
「あぁ…もしかすると…」
吉良は微妙な表情を作り、私の目を見る。
「ダメになったかもな…」
「そんな…!だってすごく仲良さそうだったし、憂さんも人が変わったみたいに優しくて、美羽さんのこと、丁寧に扱ってる感じだったし…」
とてもお似合いの2人だと思っていた。
「とは言ってもな。正真正銘のお嬢様みたいだったし」
「やっぱり合わなかった…ってこと?」
「…うん。憂の場合、本当の遊びで、女の子をとっかえひっかえしてたから。その事実を知ったら引くかもな」
吉良はそう言って、少し女性を遠ざけて、身綺麗にしてからじゃないと、憂さんの場合は難しいと言った。
そういえば…吉良の義妹、香里奈さんが、憂さんを本物の悪党と見なしてて、私を襲わせる計画を持ちかけたっけ。
「…そんなに、ひどかったの?」
「俺が聞いた話では、女の子を抱きながら、別の女の子からの電話を取って、次の約束をしてたらしい…」
人指し指を口元でまっすぐ立てて、私に打ち明ける吉良。
その話に、私の方が引いてしまう。
「でもな、俺にモネって恋人ができて、初めて会わせたあの正月から、ずいぶん変わったらしいんだよな」
「…そう、なんだ」
おこがましいけど…憂さんが正気に戻るきっかけとして、私もお役に立てたなら嬉しい。
「…美羽さんと、別れちゃったのかなぁ」
ひときわ大きくため息をつくと、今日さっさと帰ってしまった理由もそれかと思いつく。
憂さん、実は傷心した気持ちを抱えてて、何か聞かれるのを警戒して、それでさっさと帰ってしまったのかな。
吉良と話しながらも、真相は当然わからないわけで…
やがてタクシーがマンションの前に到着し、2人で玄関に入ったところで、吉良の携帯が振動した。
「…ん?未来さん…?」
携帯の画面には、椎名さんのマネージャー、未来さんの名前が表示されている。
「もしもし?」
『はっ!お楽しみのところ、大変申し訳ございませんっ!』
吉良がスピーカーにしてくれて、未来さんの声を聞こえるようにしてくれた。
「いや、まだ帰ったばかりで、お楽しみはこれからだけど?」
私に意味深な笑顔を送るから、その腕をパシッと叩いてやった…!
『そ、それでは、これからお楽しみをなさるということは…うちの椎名はご一緒ではないのでしょうかっ?』
「もちろん。恋人をあいつらと共有する趣味はないからね」
『い、い、いえ…っ!そういうつもりでお話したわけではありませんっ!申し訳ございませんっ』
…吉良、声を殺して笑ってる。
もうっ…未来さんで遊ぶなんてひどいよ!?
「もしもし未来さん?桃音です。快気祝いのパーティーは、30分くらい前に終わって、椎名さんとも別れたんですけど…何かあったんですか?」
吉良から携帯を奪って、私が未来さんと話すことにする。
『そ、そ、それが…ですね…』
携帯の向こうで、未来さんが汗をぬぐい、深呼吸をして落ち着こうとしているのがわかる。
なんだろう…何か、大変なことでもあったのかなぁ。
『つ、捕まりませんのです。私もパーティーの終了予定時刻を予想いたしまして、椎名に連絡をしているのですが、一向に捕まりませんので…それで』
「あぁ…だったら鬼龍と飲んでるかもですよ?もしかして二次会でもやってるかも」
吉良は私の体調を気にして、まっすぐ2人で帰ってきたけれど、確かにその可能性はある。
…だとしても携帯に出ないなんて。
「少し待ってみたらいかがですか?着信に気づいて、折り返してくれるかも」
私がそう言うと、未来さんが予想もしなかったことを言い出した。
『で、ですが、終電が無くなってしまいますので、早く帰ってきてもらわないと、ですね…私は2日間も椎名の家に閉じ込められることに、なってしまうのです』
「「…はっ?」」
吉良と同時に声を上げてしまった…
椎名さん、自宅に未来さんを監禁してるの?
いない間に帰れないということは、家の鍵を持って出かけてしまったから…?
…でも、どうして?
『じ、実は私、椎名に…けっけっ、結婚を申し込まれてしまいまして…!』
「「え~っ?!」」
また2人同時に叫び、顔を見合わせてしまった。
椎名さんがプロポーズ!?
吉良からも椎名さんに連絡してみると言って、未来さんとの電話は切れた。
憂さんが美羽さんと破局したかもしれない…なんて話をしていたら、椎名さんがまさかのプロポーズをしていたなんて…
「なんか、小説みたいな話…!」
「…小説だよ?」
ぷっと2人で吹き出し、吉良は私に先にお風呂に入るよう言う。
「何度か椎名に電話してみるわ…そしたら俺も入るから待ってて」
「…え?そうなの」
「また…そういう恥ずかしそうな顔をする…!」
「それは…しょうがないもん」
「今日は…後ろからいじってもらおうかな…」
妖艶な笑みをこぼす吉良。
私は真っ赤になりながら、その手に携帯を押し付け、バスルームへと向かおうとした時…
インターホンが鳴って、エントランスに人が来たことを知らせた。