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番外編3.

快気祝いのパーティーはお開きになり、皆と別れて帰路につく。


計画してくれた憂さんには、特にお礼を言いたかったのに、気づいたらもう姿がなかった。



「…結局、来なかったね。美羽さん」


「あぁ…もしかすると…」


吉良は微妙な表情を作り、私の目を見る。



「ダメになったかもな…」


「そんな…!だってすごく仲良さそうだったし、憂さんも人が変わったみたいに優しくて、美羽さんのこと、丁寧に扱ってる感じだったし…」


とてもお似合いの2人だと思っていた。



「とは言ってもな。正真正銘のお嬢様みたいだったし」


「やっぱり合わなかった…ってこと?」


「…うん。憂の場合、本当の遊びで、女の子をとっかえひっかえしてたから。その事実を知ったら引くかもな」


吉良はそう言って、少し女性を遠ざけて、身綺麗にしてからじゃないと、憂さんの場合は難しいと言った。


そういえば…吉良の義妹、香里奈さんが、憂さんを本物の悪党と見なしてて、私を襲わせる計画を持ちかけたっけ。



「…そんなに、ひどかったの?」


「俺が聞いた話では、女の子を抱きながら、別の女の子からの電話を取って、次の約束をしてたらしい…」


人指し指を口元でまっすぐ立てて、私に打ち明ける吉良。


その話に、私の方が引いてしまう。



「でもな、俺にモネって恋人ができて、初めて会わせたあの正月から、ずいぶん変わったらしいんだよな」


「…そう、なんだ」


おこがましいけど…憂さんが正気に戻るきっかけとして、私もお役に立てたなら嬉しい。



「…美羽さんと、別れちゃったのかなぁ」


ひときわ大きくため息をつくと、今日さっさと帰ってしまった理由もそれかと思いつく。


憂さん、実は傷心した気持ちを抱えてて、何か聞かれるのを警戒して、それでさっさと帰ってしまったのかな。


吉良と話しながらも、真相は当然わからないわけで…


やがてタクシーがマンションの前に到着し、2人で玄関に入ったところで、吉良の携帯が振動した。



「…ん?未来さん…?」


携帯の画面には、椎名さんのマネージャー、未来さんの名前が表示されている。



「もしもし?」


『はっ!お楽しみのところ、大変申し訳ございませんっ!』


吉良がスピーカーにしてくれて、未来さんの声を聞こえるようにしてくれた。



「いや、まだ帰ったばかりで、お楽しみはこれからだけど?」


私に意味深な笑顔を送るから、その腕をパシッと叩いてやった…!



『そ、それでは、これからお楽しみをなさるということは…うちの椎名はご一緒ではないのでしょうかっ?』


「もちろん。恋人をあいつらと共有する趣味はないからね」


『い、い、いえ…っ!そういうつもりでお話したわけではありませんっ!申し訳ございませんっ』


…吉良、声を殺して笑ってる。

もうっ…未来さんで遊ぶなんてひどいよ!?



「もしもし未来さん?桃音です。快気祝いのパーティーは、30分くらい前に終わって、椎名さんとも別れたんですけど…何かあったんですか?」


吉良から携帯を奪って、私が未来さんと話すことにする。



『そ、そ、それが…ですね…』


携帯の向こうで、未来さんが汗をぬぐい、深呼吸をして落ち着こうとしているのがわかる。


なんだろう…何か、大変なことでもあったのかなぁ。



『つ、捕まりませんのです。私もパーティーの終了予定時刻を予想いたしまして、椎名に連絡をしているのですが、一向に捕まりませんので…それで』


「あぁ…だったら鬼龍と飲んでるかもですよ?もしかして二次会でもやってるかも」


吉良は私の体調を気にして、まっすぐ2人で帰ってきたけれど、確かにその可能性はある。


…だとしても携帯に出ないなんて。



「少し待ってみたらいかがですか?着信に気づいて、折り返してくれるかも」


私がそう言うと、未来さんが予想もしなかったことを言い出した。



『で、ですが、終電が無くなってしまいますので、早く帰ってきてもらわないと、ですね…私は2日間も椎名の家に閉じ込められることに、なってしまうのです』


「「…はっ?」」


吉良と同時に声を上げてしまった…


椎名さん、自宅に未来さんを監禁してるの?

いない間に帰れないということは、家の鍵を持って出かけてしまったから…?


…でも、どうして?



『じ、実は私、椎名に…けっけっ、結婚を申し込まれてしまいまして…!』


「「え~っ?!」」


また2人同時に叫び、顔を見合わせてしまった。


椎名さんがプロポーズ!?




吉良からも椎名さんに連絡してみると言って、未来さんとの電話は切れた。


憂さんが美羽さんと破局したかもしれない…なんて話をしていたら、椎名さんがまさかのプロポーズをしていたなんて…



「なんか、小説みたいな話…!」


「…小説だよ?」


ぷっと2人で吹き出し、吉良は私に先にお風呂に入るよう言う。



「何度か椎名に電話してみるわ…そしたら俺も入るから待ってて」


「…え?そうなの」


「また…そういう恥ずかしそうな顔をする…!」


「それは…しょうがないもん」


「今日は…後ろからいじってもらおうかな…」


妖艶な笑みをこぼす吉良。


私は真っ赤になりながら、その手に携帯を押し付け、バスルームへと向かおうとした時…


インターホンが鳴って、エントランスに人が来たことを知らせた。


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