「…あいつら何しに来たんだろうな?」
「惚気に来た?楽しかったなぁ…」
未来さんからの突然の愛の告白に気をよくした椎名さん。
何を思ったか、急に彼女の手を取って帰ってしまった。
『好き、じゃなくて、愛してるって言わせてやる…』
聞こえてしまった色っぽい声。
幸せな2人を見送るのは、この上ない幸せだ。
「椎名も憂も着々と進めていくな。俺らの方は、どうしようか?」
「お母さんに日取りのこと相談したんだけど、暇だからいつでもいいって」
「…暇なのか…w」
笑顔になる吉良。
…自分の家族は、招待するのかな。
「あの…さ。吉良はご両親と香里奈さん、招待するの?」
しない…という返事を覚悟した。
だとしたら、いろいろあったから仕方ないとは思うけど…
「一応招待はする。来るか来ないかは任せるけど」
あっさり言うので少し驚いた。
「最近思うんだよ。冷たい人ではあるけど、母親によって、俺はこの世に生まれたんだなぁって」
少し前なら見せなかった表情をする吉良。それは…とても先を、そしてとても昔を同時に見ているような、悟ったような表情。
「冷たくされても何をされても、俺は母親から生まれて、二階堂さんにも世話になった。香里奈とも、子供の頃は無邪気に遊んだ日もあったんだ」
私も…できたら参列してもらえたら嬉しいと思っていた。
吉良の新しい門出を、見守って欲しい。
「結婚は…人生の大きな節目だしな」
「うん。私もご招待したいと思ってた」
意見の一致を見て、嬉しくなった。どちらからともなくキスを交わして笑い合えるなんて…幸せすぎて、困っちゃう。
吉良から具体的な日にちの提案があったのは、それからまもなくのこと。
「4月の初め。桜が咲く頃とか散りはじめの頃なんてどうだ?」
新入社員が入ってくる頃ではあるけど、新人はその後しばらく研修で、すぐに配属されては来ない。
「うん。大丈夫!…半年後かぁ。いよいよだね!」
吉良は結婚式場できちんと式を挙げようと言う。
「いくつかピックアップしてみたんだけどさ…」
吉良が見せてくれた会場を見て驚いてしまった。
豪華絢爛、ゴージャス、という言葉がぴったりな、大きな式場…
「こんなスゴいところで式を挙げるの…?なんか、緊張しちゃう…」
「そう?だって和装と洋装で2回ずつ着替えるだろ?」
「…え?そうなの?!」
相当調べたのか、白無垢と色打掛、ウェディングドレスとカクテルドレスなんて言葉がスラスラ出てくる。
「私は…ウェディングドレスを着るだけだと思ってた…」
「一着だけなんてもったいないだろ。俺は白無垢のモネも見たい。…そうなると色打掛も着せてみたいし、カクテルドレスってやつは、何色がいいかな…」
モネの希望じゃなくて、俺が見たい…と堂々と言われ、逆に清々しい。
「ご両親だって、いろんなモネを見て喜ぶと思うぞ?」
屈託のない笑顔を向けられて、私は「そうだね…」としか言えなくなった。
「ついに結婚か!…おめでとう!」
結婚式場と日取りが決まり、報告も兼ねて霧子と錦之助を誘い、飲みに来た。
お祝いに…と、2人がシャンパンを開けてくれる。
シュワシュワ弾ける炭酸が、透明のグラスの中で泡立って、とても綺麗。
「式場がね、豪華絢爛ゴージャスで、何だか気後れするんだけど…」
照れ笑いする私の背中を、霧子が叩く。
「ゴージャスいいじゃん!…なんか吉良さんが張り切ってるのが見えるみたいで笑えるわ!」
「うん…衣装、全部で4着も着せられることになったよ…」
「へぇ…!吉良先輩、いろんなモモを見たいんだろうなぁ…デレ顔が楽しみだわ」
錦之助が笑えば、霧子も笑って言う。
「…吉良さんの七変化も楽しみだよね!?モモが4回着替えるってことは、吉良さんも4回…」
それを聞いてハッとした。
吉良が、紋付き袴?タキシード?
…ヤバい…絶対カッコいいに決まってる!!
「結婚式、ちょっと気後れしてたけど、めっちゃ楽しみになってきた…!」
もう一度グラスを傾け、乾杯した私の顔は笑顔で彩られた。
私たちの結婚式の日取りについては、家族と会社にも早速報告をした。
私の家族は皆大喜び。
会社の方も問題なく認めてくれて、同じ課の同僚には、大きな花束までもらって感動して泣いた。
問題は…吉良の家族…
「…来るってさ。3人揃って」
思わず口元を両手で覆ってしまう。
たくさんの気持ちのかけ違いとトラブルと、悲しみと…憎しみさえ抱いたかもしれない吉良の家族。
それでも、人生の大きな節目に立ち会ってくれる決断をしてくれたことが…単純に嬉しかった。
こうして私たちは、幸せをお披露目するカウントダウンに入り、忙しくも嬉しい毎日を過ごすことになる。
招待客も決まり、料理や演出など、細かいことも決まっていく。
そしてついに、衣装選びの段階に入った。
「ウェディングドレスは買うとか作るとかも、視野に入れたら?」
突然そんなことを言い出す吉良を全力で止める。
「たった1日のことだし…だいたい今から作るなんて無理じゃないかなぁ…」
「そんなことないぞ?まだ十分日にちはあるし、作れるよ?」
またまた下調べが素晴らしい吉良。レンタルするのとそんなに違わないお値段だと聞いて、驚いた。
迷う私に吉良は、早速話を聞きに行ってみようと、次のお休みの予定を押さえてしまう。
確かに…話を聞きに行くだけなら…
暴走しそうな吉良を、果たして私1人で取り押さえられるのか…
若干不安に思いながら、笑顔の吉良にうなずいて見せた。