その後、憂さんから無事にドバイから帰国したと連絡をもらい、美羽さんも連れて遊びに来てくれることになった。
吉良が椎名さんと鬼龍さんも誘い、未来さんも連れてくるよう椎名さんに伝え…いまだかつてない大人数をマンションに迎えることになる。
「…プリン、ちゃんと固まるかなぁ」
美羽さんに少しでも栄養になるようにと、吉良に教わってプリンを手作りした私。
「そんなに何回も覗いたら、なかなか冷えなくて固まらないぞ?」
くすくす笑われて、私は冷蔵庫の開きにガムテープを貼った…
「…お招きありがとうございます!モネさん」
ウエストのあたりで両手を組み、膝をちょっと曲げて挨拶をする美羽さん。
お嬢さまらしい品のいい挨拶に、私と未来さんは両手を口元に当てて感動する…!
ソファに座っている男性陣は床に移動してもらい、美羽さんをソファに座らせた。
「ご懐妊おめでとうございます!…ちょっと、触ってもいいですか?」
「もちろん!少しだけ動くようになったんですよ?」
美羽さんは私の手を取って、そっとお腹にあてがってくれた。
少しふっくらした美羽さんのお腹に感動していると、未来さんも震える手を差し伸べてきた。
「…美羽さんのお腹には、しっ…幸せが入っているのですね…!」
「…未来さん!もう泣いてる!」
感動の涙なんだろうけど、私は慌てて椎名さんに視線を向けた。
なのに椎名さんは鬼龍さんの肩を叩いて笑ってる…
「未来さんは本当に…椎名を笑かす天才だよな!」
鬼龍さんはそう言って笑うけど、きっと椎名さんは、純粋過ぎる未来さんが可愛くて笑ってるんだろう。
そう思うと、本当に微笑ましい。
「…ほい。モネ特製の手作りプリン、皆で食べてやって」
わちゃわちゃしている間に、吉良が皆にコーヒーを、美羽さんにはハーブティーを出してくれた。
とりあえずプリンは普通に美味しく出来ててホッとした…!
すると未来さんがまたも泣き出した。
…いったいどうした…?
「も、申し訳ありません、私…少々情緒不安定なのでしょうか…」
頭を冷やしてまいります!と言って席を立とうとするのを、椎名さんが止めた。
「…頭を冷やすどころか丸めそうだから行くな」
椎名さんに肩を抱かれ、隣に座る未来さん。
なんとなく2人が…というか、未来さんの様子がおかしい気がするけど…?
「実は俺、結婚を機にモデルを辞めることにしたんだ」
「「「「…えぇっっ?!」」」」
皆一斉に驚いた。そして固まる…
「なんでだよ?お前、これからもっとメディアに出るところだったろ?」
鬼龍さんがまずは驚きの声をあげる。
「だよな。その見た目と長い脚がありゃ、まだまだ稼げるのにw」
美羽さんのお父さんに電話した時とはまったく違う、腹黒い笑顔を見せる憂さん。
そして吉良は…
「…何があった?」
静かに腕を組んで椎名さんの言葉を待つ。
「俺が表舞台に立つことで、未来を不安にしたくない。だからプロデュースする側に回って、未来と一緒に事務所の経営をしようと思う」
そんな椎名さんを、隣で泣きそうな顔で見つめる未来さん。
「私は…才能を発揮してほしいと思うのです…」
未来さんは、自分と結婚することで、椎名さんの無限の可能性を潰してしまったのではないかと思っているという。
「未来、俺は自分で次のフェーズに進みたいと思ったんだ。それは未来と結婚すると決めた事も同じ」
はい…と頷きながらも、涙が止まらないところを見ると…2人にはもう少し話し合いが必要なのかな…。
「吉良のところは…式は4月だろ?もういろいろ決まってるの?」
鬼龍さんが空気を変えるように、私たちに話題を振ってきた。
「あぁ。順調だよ。この前衣装選びをしてきて、モネが死ぬほど可愛くて結婚式やめたくなったくらい」
「は?やめちゃダメだろ?…俺はカメラマンとしても行くんだから…キャンセル料高いぞ?」
美羽さんに言い方を叱られてる憂さん。…ちょっと嬉しそう…!
「どんな衣装に決まったんですか?」
美羽さんに聞かれて、吉良がタブレットを持ってきて皆に披露した。
そこに映るのは…ご満悦の吉良に、何着もドレスを着せられた私…
「えぇ…っ!すっごく素敵です…!」
美羽さんの声に、未来さんもタブレットを見てくれた。
「うわっ!か、カラードレスが、鼻血…!」
ドレスは…ほとんど吉良の意見で選んだもの。
ウェディングドレスはプリンセスラインと呼ばれる、ウエストからふわりとボリュームのあるデザインのもの。
オフショルダーで胸元と袖がレースで透けているデザイン。
そしてカラードレスが、未来さんの感想そのままで…
「モネは色が白いから、この赤いドレスがよく似合うんだよ」
試着した私の写真を大きくして、皆にも同意を求めるけど…
「確かによく似合うよ?…でもなんか、モネちゃんと意見が分かれてそうだな?」
面白そうに言う鬼龍さん。
「別に…嫌なわけじゃないんですけど…このドレス、ヘッドアクセサリーもセットになって、それをつけるとなんか…火の鳥みたいになっちゃう気がして…」
「そうかなぁ…すごく可愛かったけど?」
私の衣装選びで…吉良と意見がわかれているのは本当だった。
しかも、かなり深刻な意見の割れようで、それは真っ二つと言っても過言ではないほと。
「わ、たしは…色打掛はいらないと思うんですけど、吉良が着てほしいみたいで…」
思い切ってそう言ったのは、その場にいる皆にどう思うか聞いてみたくなったから。
「色打掛は、確かにいらないと私も思います。…なんと言っても、あの…和装のかつらが問題ですよね…」
そうそう…!っと、美羽さんの手を取る私。
「えー…俺もせっかくなら、美羽ちゃんのいろんな花嫁姿を見たいと思うなぁ…だから、吉良に一票」
憂さんの言葉に、椎名さんが続く。
「俺も!…未来にこの赤いドレス着せたい!」
「私も、着たいです…」
さっき少し揉めてたようだけど、まさかの赤いドレスで意見の一致を見てる…!
「このぐらい真っ赤なら、途中で未来が鼻血出しても目立たないからいい」
「はい…そうですね…」
理由に吹いたけれど、至って真面目な2人。本当に面白いカップル…!
「俺は…色打掛はいらない派だな」
3組のカップルに順番に目をやり、腕組みをして言う鬼龍さん。
「和装のかつらなんかしてたら、うっかり笑って怒られて、ケンカになりそうだ!」
「…はい、3対4。モネの負け!」
吉良が私に…嬉しそうに言った。