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番外編.第10話

やがて年末年始を迎えた12月。


連日繰り広げられる忘年会に、私はバカ正直にすべて出席するという荒行を経験した。


たいしてお酒は飲まないものの、毎回吉良に迎えに来てもらうのが心苦しい…


「吉良も参加できたらいいのに…ね?」


私の言葉を聞いて、パッと表情を明るくした吉良。


「…それじゃ、俺もちょっと参加しようかな」


課内だけの忘年会という日、吉良はスーツ姿で本当に顔を出してしまった。


すでに結婚の報告をしているので、あちこちからおめでとうの言葉をもらい、悠然と笑う吉良。

もちろん、私の腰に手を回すのは忘れない。


女子社員の熱い視線を爽やかにかわし、適当なところで私を連れ去る吉良。


「…鮮やかだねぇ…!」


添島先輩に拍手まで送られて…私の年末は暮れていった。



新年は2人の実家に挨拶に行くことになり、吉良は私の父のお酒に、朝まで付き合ってくれた。


呆れて先に寝てしまった私と母がリビングに行ってみると…2人で床に大の字になって眠ってて…


「吉良さん、本当に我が家の一員になってくれたね…!」


母の嬉しそうな笑顔が忘れられない。



その後訪れた吉良の実家では…意外にも3人で迎えてくれた。



「新年は、家政婦さんにもお休みをあげてるのよ」


吉良のお母さまは上品な和服姿で、1人前ずつのおせち料理を、私たちにも出してくれた。


手作りではないことはすぐにわかった。

でも…初めて挨拶に来た時とは違う雰囲気。


「もうすべて…決定したのか?」


お母さまに注がれたお酒を飲みながら、二階堂さんが言う。


「はい。後は…衣装の最終決定と、当日手伝ってもらう友人たちとの打ち合わせくらいです」


そうか、と短く返事をして、少し吉良を見つめた二階堂さん。

その横で、同じように吉良を見ているお母さまにも気づいた。


2人は、特に言葉にはしなかったけど…私には伝わってきた。


何かあれば、頼りなさい…と。


相変わらず、冷たさまで感じるほど片付いた二階堂家だったけど、前に来た時には感じなかった想いがちゃんとあるってわかった。


そんな風に感じることができたのは…私も少しは大人になったから、ということだとしたら、嬉しい。




それまでたいして話に入って来なかった香里奈さん。

数時間を過ごして帰る時、玄関まで送ってくれて、1枚の写真を手渡してくれた。



「これ…あなたに預けるわ」


「この写真…」


中学時代だろうか…吉良を中心に、憂さんと椎名さん、鬼龍さんが写ってる。

まだあどけない表情ながら、今の面影を色濃く残していて…全員が笑顔のとてもいい写真だった。



「これ…香里奈が持ってたのか?!」


咎めるように言う吉良に、香里奈さんはそっぽを向いて「だから返したでしょ!」と舌を出して見せる。


この写真を私に預ける、と言ってくれただけで、その意味するところを思って嬉しくなった。


…いつか、私も香里奈さんの結婚や出産という、人生の節目に立ち会えるだろう。


彼女の、義理の姉として。


幸せなお土産をたくさんもらったようなお正月の帰省。

仕事始めの日にちに合わせ、私たちは自分たちのマンションに帰った。



………………


「凛々子に手伝ってもらおうと思ってる」


2月の終わり、鬼龍さんから吉良の携帯に連絡があった。


最終的に、式場は都内の老舗ホテルで挙げることになり、披露宴もなかなかの規模になりそう。


スピーチと司会、全体の進行は鬼龍さん、憂さんはカメラマン、椎名さんは余興、受付などのフォローに霧子、錦之助、聖也…といった面々が担当してくれるという。



「凛々子を連れて、打ち合わせしたいって」


携帯を操りながら吉良が言うので、私はもちろん!…と返事をしながら、初めて凛々子さんに会った日のことを思い出していた。


鬼龍さんとランチをして、帰ってきた最寄り駅で凛々子さんと並ぶ吉良の姿を見て、勝手に嫉妬したこと…


素直に気持ちを言えなくて、家で1人変な飲み方をして心配をかけて、2人でマンションまで帰って来てくれたっけ…


…私はあの時、凛々子さんにすごく失礼な態度をとったと思う。

謝る機会もなく、ここまで来てしまった。


結婚式で会えたら、あの時のことを…ちゃんとお詫びしたいと思っていた。それが結婚式の司会進行を手伝ってもらうことになるなんて…!





2人との打ち合わせは来週末に決まり、私たちはふと、顔を見合わせた。



「最後まで残りましたが…衣装はどうする?」


式までそろそろ1ヶ月。

…決め切れなくて、結局ウェディングドレスを作ることはやめにしていた。


こてん…と首をかしげて聞いてくれる吉良に、私は思い切って希望を言ってみる。



「あのね、今さら無理かもしれないんだけど…」


「ん?式場を変える意外ならまだ全然大丈夫だよ?」


「…ホントに?」


「あ、引き出物も…全部ウサギゴリラで揃えちゃったから、キャンセルはキミちゃんに悪いなぁ」


…あっ!引き出物…

まさかの私の記憶から抜け落ちていたものを、吉良が手配してくれていたなんて。



「ごめん…私あの、引き出物のこと忘れて…」


「招待状出したら、キミちゃんから営業かかってさ、結構2人でノリで決めちゃったよ…!」


「…?!」


「綾瀬家の贈答品は、ウサギゴリラに決定って言ったしな?」


「うん!ありがとう。どちらにしても、私もウサギゴリラに文句なんてない!」


ふと…プロポーズのとき、ウサギゴリラの着ぐるみに扮した吉良を思い出して、幸せな気持ちになった。



「…で?何が今さら無理なんだ?」


聞き返されて、話しが途中だったと気づく。


「それが…あの、わ、和装で…」


「わそう?」



「私…白無垢で、吉良のお嫁さんになりたい!」


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