「…マジか…」
「あの…吉良、急にごめんね。何となく、本当に何となくなんだけど、白無垢で吉良のお嫁さんになりたくて」
「…かつら、嫌じゃなかったの?」
「自分の髪で普通に結ってもらうことができるみたい。それで…髪飾りつけて、綿帽子をかぶって…」
いつか憂さんと鬼龍さんに連れられて、雰囲気ある洋館で椎名さんと写真を撮ってもらった時、出会った美容師の霧島美亜さん。
「連絡先を交換してて、たまにメッセージしあってたの。それで…白無垢のことを聞いたら、いろいろ教えてくれた」
美亜さんが送ってくれた白無垢に合わせて結ったヘアスタイルの数々を、吉良に見せると…
「…おぉ…。なんか、モネにすごく似合いそうだな」
笑顔で言ってくれてホッとした…!
「白無垢になると、吉良も和装になっちゃうんだけど…」
美亜さんが送ってくれた別の画像を見せる。
そこには背の高い、すこぶるカッコいい人が、黒の五つ紋付き羽織袴姿で写っている。
「きっと吉良も…すごくカッコいいと思う…」
妄想して口元が緩む私に、写真の男性を見て少し怪訝な顔になる吉良。
「…あ、その人、美亜さんの旦那さんになる人だって!」
美亜さんも結婚するらしいと伝えると、意外だったのか、吉良も喜んでくれた。
「白無垢は、実はモネに1番似合うと思ってた。でもそれだけに…あんまり皆に見せたくない気もしててさ…」
それでつい「マジか…」と言ってしまったと言う。
「でも、花嫁であるモネの希望が1番だもんな。それじゃ俺たちの結婚式は、白無垢と黒の羽織袴、ということで決定だ」
そして嬉しいことに…美亜さんは式当日のヘアメイクを担当してくれることになった。
…やがて、全体の司会進行を引き受けてくれた鬼龍さんと凛々子さんがやって来て、披露宴のタイムスケジュールについて打ち合わせをする日がやってきた。
「この度はおめでとうございます…!」
「…わぁ…ありがとうございます!」
やって来た凛々子さんを見て驚いた。
初めて会ったあの日とは、まったく印象が違う。
とっても控えめで、シックな服装。
黒いタートルネックのトレーナーに、チェックのボルドー色のスカートは、くるぶしのあたりまでのロング…
毛先が明るくなってたロングヘアはアッシュ色に染められて、とても綺麗…
「あ…!モネちゃん、前に会った時と印象が違いすぎるって引いてるでしょ?」
「あの…あまりにも綺麗なので…驚きです…!」
「…当然でしょ?今までの凛々子のセンスがアホすぎるんだよ」
笑う凛々子さんと驚く私。
そして呆れた顔の鬼龍さんに、凛々子さんはムッとして噛み付いた。
「仕方ないでしょ?うちの居酒屋の夏の営業は、熱中症の危険があるから、涼しい格好じゃないと無理なの!汗だくになって大変なんだからっ!」
「…確かにな!凛々子の店、換気扇変えたほうがいいぞ?」
吉良も話に入っていくけど、私にはイマイチ話が見えない…。
「凛々子は、親から受け継いだ老舗の居酒屋を経営してるんだよ」
「老舗か…!うまい例えだ」
鬼龍さんに言われて、吉良と2人笑い合うけど、凛々子さんはムッとしたまま。
「2人は嫌味ったらしく言ってムカつくけど、本当はボロボロで、吹けば飛ぶようなの居酒屋を経営してるの」
私にそう教えてくれた凛々子さん。
その居酒屋は換気扇もろくに回らないばかりかエアコンも効いているのか怪しいらしい。
そこで、涼しさ確保のため、夏は薄着にならざるを得ないと言う。
それではじめて会った時、ヒョウ柄のタンクトップと赤いミニスカートだったのか…
「換気扇…プレゼントしてやるよ。工事費込みで」
不意に鬼龍さんが、凛々子さんを見てニコッと笑った。
「…吉良とモネちゃんの結婚式が終わったらな」
「…え?本当に…?」
凛々子さんが、急に赤くなったように見えた…
「急に司会進行を手伝えとか言ったのにて、忙しいだろうに二つ返事で引き受けてくれたお礼」
「それは…吉良とモネちゃんの役に立てたら嬉しいから…だけど…」
言いながら、さらに頬を染める凛々子さん。
…あれ、これはもしかすると。
吉良に視線を移すと、微笑ましく見守るような笑顔。
…そうか。
もしかしたら、凛々子さんは昔から、鬼龍さんのこと…
私はいつか聞いた鬼龍さんの体の異変を思い出して、もしかしたら凛々子さんが救世主になるかもしれないと、勝手に思っていた。
「定番だけど、花束贈呈は入れたい」
披露宴の内容についての話し合いで、突然意外な事を言いだす吉良。
「了解!…手紙とか、読み上げる?」
凛々子さんに聞かれて、吉良が私を見た。
「…モネが読む?…って、なんでウルウルしてるんだ?」
「だって、花束贈呈とか…これまで生きてこれた感謝を、両親に伝えるアレでしょ…」
泣いちゃうよ、という私を、吉良は笑い、つられて鬼龍さんも凛々子さんも笑った。
…幸せだなぁ…と思う。
世界でたった1人の、大好きな人のお嫁さんになれて、周りの人たちの善意とお祝いでここまで進むことができて。
「花束贈呈、します!手紙も書いて、読みます!」
この感謝の気持ちは、手紙にでもまとめておかないと、絶対に伝えそびれてしまう。
…と同時に、心の片隅で、実家の母には内緒にしておこうと思った。
なぜなら、私以上に涙もろいのを知っているからです…!
夕飯を一緒に囲もうと思っていた私をよそに、吉良は帰るという2人をあっさり帰してしまった。
「こういう場合…2人にしてやるのが正解!」
「…え?!それってもしかして…?」
「多分だけど、凛々子は昔から鬼龍のファンだと思うんだよな」