「…モネ…」
メイク室に入ってきた吉良も、私を見て言葉を失っているみたい…
ちょっと待って…
それより吉良の姿がカッコよすぎて、ちゃんと見れない…
「信じられないな…こんなに綺麗な人が俺の奥さんになるなんて」
そっと手を取られて、反射的に吉良を見あげる。
「まつ毛がクルンとして可愛い」
「ほ、本当に?美亜さんが、泣いても絶対取れないウォータープルーフのマスカラしてくれて…」
「そうなんだ…しかし、テレるな…」
ふいに目をそらした吉良を、今度は私が観察した。
仕事の時とは少し違う、サイドに分けた髪をざっくり後ろに流してるから、凛々しい眉が際立って見える。
黒の五つ紋の羽織袴を着ていてもわかる、しなやかな筋肉がついた体。
手を挙げると見える腕が男性らしくて、つい…ドキドキしてしまう。
「私も…吉良がカッコよくて、テレちゃう…!」
いつの間にか、部屋には私たちだけになっていて、美亜さんが気を利かせて席を外してくれたことを知る。
「キス…して欲しい」
繋がれた手に力を込めて言ってみた。
こんなにカッコいい吉良に、キスをねだることができる贅沢…
「もちろん…白無垢の可愛い俺の花嫁にキスできるなんて、めっちゃ幸せ…」
唇が下りてきて、そっと触れたところで…
「…絵になるねぇ…!」
カメラのシャッター音がして慌てて離れた!
「いいから!そのままもう1回キスしてくれる?」
憂さんだ…!
「…できるかよ」
吉良は若干脱力したように憂さんを睨む。
「すいません…!私が見張ってなかったばっかりに…!」
美亜さんが後から入ってきて謝ってくれたけど、その顔は…イタズラっぽく笑ってる。
お陰で和装姿の素敵なキス写真が撮れたから、私に文句はない。
やがて親族控室に移動すると…
「桃音…!」
白無垢姿を見た両親が走り寄ってきた。
「まぁ…なんて綺麗なの…桃音、こんなに立派に、花嫁さんになって…お母さん…本当に…」
みるみる涙を目のふちにためていく母を見ていると、私まで泣けてきて困る…
「あぁ、本当にな。桃音は岳斗と違って、小さい頃はよく熱を出して、喘息もあって咳が止まらなくて…そのたびに、お母さんと交代で抱っこして寝かせて…」
お父さんまで泣き出して、2人で目元を拭っているから、私まで涙が止まらなくなってしまった…
吉良が私にハンカチを差し出しながら、改めて両親に言った。
「桃音を育んでもらって、感謝しています。…これからは俺が、彼女を守っていきますので」
吉良の言葉に、私の両親はさらに泣き、その姿を離れたところから見ていた吉良のお母さまもハンカチで目元を押さえているのが見えた。
あぁ…なんて幸せな日なんだろう。
厳かな挙式を終え、披露宴までの時間に、来てくれた友人たちに会うことが出来た。
「おぉ…?!絵になる2人だねぇ…」
まずは鬼龍さんが感想をもらす。
「本当に…お美しいです。桃音さん」
羨望の眼差しを向けてくれるのは美羽さん。
「お二人とも…一般人でいるのは罪ですらあると思うのですが…そのあたり、いかがお考えでしょうか…?」
メガネを引き上げながら、食い気味に言う未来さん。
その頬には、すでに幾筋も涙の跡がある…!
「孫にも衣装!吉良に羽織袴!悔しいけど死ぬほどかっけー」
椎名さんが隣に立って、腕組みをしながら言う。
「まぁな。洋物しか似合わないお前と違って、俺はオールマイティだから」
しれっと返す吉良。
その脇で…泣いてる2人が見えて、私の胸はまた、熱くなった。
「モモ…本当にいろいろあったね…たくさん悩んで泣いて、吉良さんの悪口すごいたくさん言っちゃったけど、ごめん…こんなにモモを幸せにできる男だと思わなかったから…!」
霧子がメイクが崩れるのもいとわずに泣く横で、錦之助も同じように涙を見せるとは、意外…!
「尊くて拝みたくなるほど、吉良先輩は純粋にモモのこと好きなくせに、素直じゃなくて本当に心配したよ…!」
「2人とも、ありがとう…!」
恋人として付き合っていたはずが、いつの間にかセフレに降格したのかと、悩んでいた私に1番寄り添ってくれていた2人。
こんな風に泣いてくれるなんて…
「でも…吉良先輩に、この場を借りて言いたいことがあります!」
涙を拭い、キッパリした様子で、錦之助が口を開く。
「おいおい…ずっとモネちゃんのことが好きだったとか言うなよ…?」
「違う…!そうじゃなくて!」
「逆か?…ずっと吉良のことが好きでした…とか?」
「…もう黙って…!違うから!」
ムキになった錦之助が、からかう鬼龍さんを睨んだ。
「俺が言いたいのは、モモと付き合い始めた時のことです!モモと2人で映画に行ったことを知って、吉良先輩に邪魔されたことがあったんですよ!」
「…あぁ、そんなことあったな。で?それの何が問題だって?」
のんびりと、余裕で先を促す吉良。
錦之助、若干腰が引けてる…!
「あ、あの後、結局モモを映画に連れて行かなかったでしょ?モモはそんなこと言わなかったと思いますけど、本当はすごく楽しみにしてる映画だったんっすよ?」
「あぁ…そっか。ごめぇん」
素直に謝るけど、その表情は笑顔の吉良。
いったい何年前の話だと言いたいらしいけど、なかなか自分に言えなかった錦之助の心中が面白いらしい。
…やっぱり勝てないね…錦之助…!
でも覚えてる。確かに当時、錦之助にたくさん愚痴った気がする。
きっと錦之助は、いつかそれを吉良に言ってやろうと思っていたんだろう。
私のために、私の代わりに、文句を言ってやろうって。
「ありがとう。錦之助!」
辛かった頃を思い出して、泣いてくれる友達、怒ってくれる友達。
今日何度目だろう。
なんて幸せな日だと思うのは。
「…モモ〜!」
そこへ、キミちゃんが走ってきてくれて…驚いて吉良と顔を見合わせた。
「キミちゃん…!なんで?」
一緒に走ってきてくれたウサギゴリラ…の、着ぐるみ。
「うちのスタッフに、着てもらった…!」
えぇっ?
キミちゃんのお店、もうスタッフがいるの?
「ついこの間、法人化して、私…社長になったのよ!」
「「えーっ!!」」
すごい出世に驚きながら、そこにいた皆に紹介した。
ウサギゴリラの誕生秘話に、皆驚いてる…!
それにしても、キミちゃんの成功も聞けるなんて、本当にどこまでも今日はおめでたい!