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番外編.第14話

「…今日の良き日に…!」


マイクを持った鬼龍さんが、ひときわ大きく声を発して、ザワザワする会場をしん…と静まり返らせた。


いよいよ披露宴…

私たちは、会場外の扉の前で入場を待っている。


「親友が、美しく、優しい女性と幸せになります」


声がよく通る鬼龍さん。マイクを通すしゃべり方はアナウンサーと言ってもおかしくない。


それに…なかなか印象的な始まりだなぁ…


「私は、新郎、綾瀬吉良の親友、鬼龍宗一郎と申します。そしてこちらは…」


「同じく、新郎綾瀬吉良の友人、宮本凛々子と申します。

本日は私たち2人が、この素晴らしき披露宴の司会進行を務めさせていただきます」


「「…どうぞよろしく、お願い申し上げます」」


2人のよく通る声と息の合った挨拶に、会場は割れんばかりの拍手が巻き起こった。


「なんか…すごいね!」


「あぁ。やっぱり鬼龍は適役だったな」


コソコソ話をしていたら、どーんっと扉が開いて、スポットライトに照らされた。


わわ…ちょっと緊張する…


「大丈夫…?」


すごい注目が集まってるというのに、吉良はそんなこと気にもせず、ちゃんと私の様子を見ててくれた。


手を差し伸べられ、そういう予定はなかったけど、しっかり繋がれて入場する。


…家族、親戚、会社関係、友人…来てくれた人すべてのお祝いの笑顔が見えた。


おめでとう…綺麗だよ…幸せにね…幸せのシャワーが私たちに降り注ぐ。



「桜木さん、綾瀬さん!おめでとう!」


「桃音…おめでとう!無茶苦茶キレイ…!」


添島先輩と万里奈の顔が見えた。

吉良と一緒に「ありがとう!」とお礼を言いながら、あたりを見渡して、たくさんの人たちが私たちのために集まってくれたことに感激してしまう。



新郎新婦の席について、すぐ横に立つ鬼龍さんと凛々子さんに頭を下げると…招待客からは見えないように、2人ともグッドサインで答えてくれた。



その後も宴は滞りなく進み、挨拶やスピーチをいただいた後、お色直しで退席する。


吉良からもたくさん要望が入ったドレスは…結局1番私らしい色ということになり、落ち着いたピンク色のカラードレスになった。


吉良もドレスと色馴染みのいいグレーのタキシード。


…ちょっと待って…王子様みたいなんですけど!


見惚れる私に代わって、美亜さんが吉良をカメラに収めてくれた。



こうして…たくさんの思いを乗せて…私、桜木桃音は、綾瀬桃音になった。


運命の出会い。

初めて吉良をこの目に映したあの学祭から…5年。


愛する人のそばに、一生いられる許可をもらったんだと、私は心に刻みつけていた。



やがて…終始和やかだった披露宴もそろそろお開きとなり、鬼龍さんと凛々子さんは、〆の挨拶に入っていく。



気づけば吉良のお母さまも二階堂さんも、絶極的に参列者へのお礼に回ってくれていた。


きっとそんな姿を、吉良も見ているはず。


お正月、ご両親の想いに気づいた私のように、吉良も頭を下げる2人を見て…言葉にはできない何かを感じてくれたらいい。



「本当に、おめでとう…!」


出入口で参列者一人一人にお礼を言って見送り、やがて鬼龍さんと凛々子さんが私たちの前に立った。


「こちらこそ、今日1日、本当にありがとうございました!」


「わわっ…!繊細なヘッドブーケが取れちゃうよぅ…!」


嬉しさと感謝が強すぎて、勢いよく頭を下げてしまった私の髪を、凛々子さんが気にしてくれた。



「3時間…ほとんど立ちっぱなしだったな。疲れたろ?」


これから憂さんと椎名さんが企画してくれた、友人達を集めたお祝いのパーティーがある。



「よかったら俺たちが泊まる部屋で休んでくれよ。飲み物でも頼むから」


私たちが泊まるセミスイート。

パーティーまで時間があるので、休んでもらおうと思った。



「そんなわけにいかないよ!2人の記念すべきお部屋なのに…!」


「なんだよ、凛々子らしくないじゃん、モゾモゾして…」



凛々子さん、遠慮してるんだと思ったけど…鬼龍さんの驚きのひとことに、さすがの私たちも固まる…!



「大丈夫。…俺らも泊まるから。今日…ここに」


「…は?」


吉良は私以上に驚きを隠せない様子。


でも私は…笑顔で鬼龍さんを見上げてしまう。



「凛々子と2人で、このホテルに泊まるんだよ」


凛々子さんの頬が染まり、鬼龍さんは私に、笑顔を返してくれる。



いったい…いつの間にそんな話になったのかと、思わなくはないけど。


どちらにしても嬉しい。

鬼龍さん、一歩踏み出すことにしたんだ…!


そういうわけで、そういえば距離が近い鬼龍さんと凛々子さんを見送って…私たちは予定通り、婚姻届を提出しに行くことになった。



心を込めて、一文字一文字丁寧に書いた婚姻届。


ホテルのエントランスからタクシーに乗って、役所を目指す。



「よろしくお願いします」


休日対応の窓口に婚姻届を差し出す吉良。



「おめでとうございます。末永くお幸せに…」


私にピンクの薔薇を1本手渡してくれた役所の担当者。

思いがけない嬉しいはからいに、笑顔の花が咲いた…!



愛する人と結婚式を挙げて、結ばれて…たくさんの人にお祝いの言葉と心をもらった今日という日を…私は一生忘れないだろう。


来年の今日、2年後、3年後の今日…10年たつのは、きっとあっという間。


20年、30年だって…過ぎてしまえば一瞬だ。


それでも私は、吉良と…そしてたくさんの仲間に出会えた奇跡を、愛する人と一生を共にする約束をした喜びを…ずっと忘れない。


…綾瀬桃音になった私を、笑顔で抱きしめてくれる吉良と共に。



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