「女の子か男の子かは、肉食か野菜食かで変わるらしいぞ」
吉良がスマホを見ながら言う。
「じゃ、うちの子は女の子かね?…おーい!君は、どっちなんだい?」
まだ全然大きくないお腹に向かって話しかけてみる。
「まだわからないんじゃないの?」
吉良が声をかけられた私のお腹を撫でた。
「ううん。…受精の瞬間に決まるらしい。…わかる頃になったら、性別聞いてみる?」
「うん。…待ちきれないから、絶対聞きたい…!」
閉店する凛々子さんの店に集まった時に感じた体調の変化は、やはり妊娠によるものだった。
まずは妊娠検査薬を使って調べ、陽性反応が出た時の吉良の喜びようは大変なもので…
その後すぐに産婦人科を訪ねた時も、お医者さんに妊娠中の注意事項を聞きまくって苦笑いされていた。
「ご主人がこんなに出産を楽しみにされて、奥さまを大切にしておられるなら、心配なことは何もありませんよ」
なんて…!
本当に私は幸せだ。
出会いから、早くも7年目。
私たちの間には、いろんな出来事が通り過ぎていった。
それは後になれば笑い話になるような…吉備須川さんや弟のタケ、そして美麗ちゃんとのこと。
意外な吉良の過去に直面して、2人でたくさん悩んで苦しんだ事もあった。
でも今私は、愛してやまない人の子供をお腹に宿し、優しくて強い愛に包まれている。
それは幸せで、幸せ過ぎて…本当に夢みたいな毎日なのだ。
Side.吉良…………
「…ただい…ま」
玄関を開けて、パタパタと走ってくる小さな足音がしない時は…
俺も足音を忍ばせてリビングへと入るようにしている。
さっと視線をかわし、口元に人指し指を当てる愛しい人。
…優しい視線は、横で眠る娘に注がれる。
俺の天使は…遊び疲れて寝てしまったらしい。
少しガッカリしながら、ソファに横たわる娘、恵茉の寝顔を覗く。
モネに似て、まつ毛が長い。
柔らかそうな頬はバラ色で、そんなところもそっくりだ。
一緒に覗き込む愛しい人と、ゆっくりキスをかわしながら…自分でも思う。
俺はいつまでもモネに甘くて、信じられないくらい惚れていると。
娘は可愛くて仕方ないが、モネは食べてしまいたいくらい可愛い。
つまり、どちらも愛しさが半端ないということだ。
モネと同棲する時に借りたこの部屋、今はあちこちに段ボールが積み上がり、今週末の引っ越しに向けて準備中だ。
もうすぐ1歳になる娘。
妊娠中から考えていた引っ越し先は、治安が良く、幼稚園や小学校が近い地域に決まった。
最寄り駅から近いわりに、緑豊かな公園がある場所は、我が家にぴったりだ。
「引っ越し準備、大変じゃない?」
「全然!恵茉はよく寝る子だから、その間にスイスイ進んじゃう!」
笑う笑顔が大人っぽくなった、と思う。
「…ご飯、準備するね」
ありがとう…と言いながら、今日はどんな具が入ったおにぎりを出してくるだろうと、頬が緩む。
変わらないところと、さらに魅力を増していくところ。
モネはバランスよく、進化していると思う。
そんな彼女は、穏やかな幸せをまとって…疲れて帰る俺を、今日も癒してくれる。
幸せとは、こういう日々のことを言うんだと、俺は毎日実感している。
I love you…forever
2025.5.12執筆完了
不機嫌な彼氏の秘密に涙する
番外編…完