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俺の未来⑫

「無事か?今何やってる?」


「何やってるって…その…い、言えません」


わずかに息が上がってる…

一瞬で最悪の事態を予想した。



「…いいかよく聞け!そのままトイレに行って個室の鍵を閉めろ」


「…はい?トイレには、あまり用はないのですが…」


「いいから行け…!」


この際、未来の尿意に関する下半身事情は関係ない。

大事なのは是枝銀次に見つからないこと。そして、監督はもちろん、撮影スタッフに姿を見せないことだ。


「…し、閉めましたが…えーと私はこれから是枝さんと…」


「…是枝さんとなんだっ?!」


「はっ!はぁ…?!」


再び白いシーツの上に、あられもない格好で投げ出される未来が頭をよぎる。


「未来、もしかしたら、服を脱がされてないか…?」


「…はぁ、脱がされまして…き、着替えを…」


「…っ!?」


これは、決定だ。

きっと未来は、わけもわからず服を脱いでこれを着て来いと言われ、今頃白い上下のブラとショーツ姿だろう。


「…それでふわっふわのバスローブを渡されて喜んでるんだ。…この後何をされるかも知らないで」


「…え?あの、椎名さん…」


話しているうちに撮影現場のホテルに到着した。


「…部屋番号は?」


未来は、撮影が行われる部屋の階のトイレにいるはずだ。


「部屋…番号?」


それすら知らされないで、白いブラ&ショーツを渡されたってか?!

ボケっとして…少しは危機感を持てよ!


まぁ…そういうところが可愛いんだけどな。



ホテルのドアマンが近づいて来た。遠目でも俺だとわかったんだろう。


その場で頭を下げ、入り口に案内してくれた。


今度はフロントスタッフが飛んできて、すぐにエレベーターを呼んだ。


俺が来たことで、その用件を瞬時に判断するスタッフの優秀さに脱帽だ。


…未来とは雲泥の差…!



「今、撮影スタッフと是枝さんは屋上のプールにおりまして…」


「…プール?」  


優秀スタッフの言葉にはてなマークが浮かぶ。…いったいどんなシチュエーションのAVを撮るつもりだ…?!


携帯を耳にした俺の視線がさまよい、フロントスタッフと目が合う。

了解したように軽く頭を下げ、最上階のボタンを押した。


「…あの…そろそろ、出てもよろしいでしょうか?…皆さん準備を終えて…お待ちだと思いますので…」


まだ未来と携帯がつながっていた。カチャン…という音が聞こえて、個室を出たのがわかる。


「…ちょっと待てって…」


エレベーターを降りて歩き出し、角を曲がったところで誰かにぶつかった。


「ほぇ〜…あぁぁっ!!」


独特な叫び声と共に、廊下に転がる白い塊…



「…未来!お前っっ…」


「し、椎名さん、申し訳…申し訳、ありましぇんっ!」


転がった未来は、起き上がりこぼしのように一瞬で起きて、俺の足元に正座して頭を下げる。


やたら俊敏な身のこなしだと思ったが、それよりやっぱり白いふわふわのバスローブを着ている。


「未来…やっぱり、女優の遅刻で、お前がリハの相手をさせられるのか?」


「…え…と、リハ…とは?」


そんなことも知らないのか…と、頭を抱える。


あり得ない…俺のそばで何回もリハーサルってものを見てきたはずだ。


「…いいから。これからはもうこんなことしなくていい。俺が監督と是枝さんに話してくるから、お前は服に着替えろ…」


言いながら…白いバスローブの胸元に、思いがけないものが見えて…眉間にシワが寄る。


水着…?

いや…AVの撮影なら、ビキニだろ。

だとしたら、胸元から見えるのは肌で、次に谷間だ。…未来にも、あるとすれば。


なのに見えているのは競泳用のそれ。


体を美しく色っぽく見せるというより、早く泳ぐために水の抵抗を徹底的に無くした設計の水着。


…待て待て待て…!

どんだけマニアックなAVを撮るつもりだよ…!


「…ちょっと一緒に来い!」


とりあえず未来を確保しつつ、俺は監督に話をしに言った。

…是枝さんにもだ。


未来のようなアホな素人をこんな現場に連れてくるだけでは飽き足らず、代役にするとは許せんっ!!


…ホテルのプールにしては色気のない入り口を抜けると、そこにはピンク色の照明と、食い込むほど小さい水着を着た是枝さんが…


…いなかった。


「あっ!いたいた!未来さん探してたんですよ!」


ピンク色の照明どころか、至って健全な蛍光灯の明かり。

そしてポロシャツのボタンを一番上まできっちり留めてる人の良さそうな男が未来に声をかける。


その瞬間、プールの中に人がいるのが見えた。


「…これ…えださん?」


プールの縁につかまって、足をバタバタさせ、時折水から顔を上げて苦しそうに息継ぎしている…


バタ足の練習??


「是枝さん?!」っと、2回も声をかけてしまった。



「あ…の、是枝さんはカナヅチでして、私が泳ぎを教える事になっておりますです…」


「…はぁぁ?」


「こ…是枝さんのお仕事です。…題しまして『芸能人ポロリあるかも水泳大会』の…泳ぎの練習でございます」


ソフト路線になったとは言ってたが…そういうことか?


「じゃあ、未来はAVに出されるんじゃなくて…?」


「…ぎゃおんっ!…エーブイ…?!」


顔が赤くなったところを見ると、それが何なのかは知ってるのか…?


俺に肩をガッチリ抱かれていた未来は、コソコソとそれから逃れると、バスローブを脱いでゴーグルをつけ、頭にきつそうなゴムの水泳帽を装着してプールに飛び込んだ。


その姿は一瞬どよめきが漏れるほど美しい飛び込みのフォームで…


…ムダな肉ひとつない綺麗なプロポーションと共に、俺の視線を釘付けにした。



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