翌日、未来はぐっすり眠って起きないので…仕事だとは思ったが、休ませる事にした。
「…はぁ?お前と未来が?」
「そう。向こうの実家には行った事あるから、話はスムーズに進むと思う」
俺の両親も反対どころか泣いて喜ぶはずだ。
社長はあんぐり口を開けたまま、何か言いたそうだが、何も言わせない迫力を醸し出してる自覚は…ある。
堅木さんや是枝さんも話を聞いていて、お祝いの言葉をもらった。
「…だから、未来は俺のマネージャーに戻して。あと、結婚するんだから、今後ラブロマンスのドラマとか映画は受けないよ。…未来に嫌な思いをさせたくない」
「…はぁ」
返事をしつつ、力が抜けたように椅子に座る社長。
これで万事OKだ。
俺は、そう思っていたのに。
「し、し、椎名さん…どこに行ってたんですかぁ…?」
「あ…仕事を早めに切り上げて…モネちゃんの快気祝いに行ってた」
「か、鍵が置いてないので、帰れなくて…し、仕事も無断欠勤で…」
「大丈夫。俺が有休扱いにしてくれって言ってきたから」
「そ…それにしても、です!」
半泣きで一生懸命抗議する未来が可愛い。
「…昨日あんなに乱れた姿を見せといて、まだ帰るとか言ってんの?」
「…ヒィィ…」
ヒィィじゃねぇだろ…
「社長には、未来と結婚することを話してきた。それと…今後はラブロマンス系のドラマとか映画はNGって…」
「…それは、ダメです!」
一瞬、結婚することがダメと言われたのかと萎えかけたが…
「椎名さんのビジュアルなら…ラブロマンスは絶対ハマると思うのです。これは…才能です!椎名瑠偉だからこそできる仕事というのは、きっとまだたくさんありまして、そのひとつは…ラブロマンスなのであります!」
「…未来、お前成長したな」
いろんな意味で規格外で、予想もつかないことを言ったりやったりしてきたけど。
未来の言葉に、俺はマネージャーとしての成長を一番に感じた。
「わ…私は、椎名さんのこと、ほ…本当は、初めて会った時から…ずっと、ずっと…好きだったんです。そ、それで…お仕事をする椎名さんがカッコよ過ぎて、もっと好きになって…そんな椎名さんはもっともっと、羽ばたくべきだと思いました!だ、だから、毛利社長のおかしな言いがかりなんてやっつけたかったし…わ…私がいない方が、仕事に集中できるならと思って…マネージャーもおりて…」
全部、俺のためだったというわけか。
…まぁ、そうじゃないかと思ってたけど、未来は知らないんだ。
もう未来がいないと、俺は生きることさえ…できなくなっているということを。
「もう無理しなくていいんだよ。俺たちは2人でひとつだ」
抱きしめる俺に、未来はまだ言葉を続ける。
「ら、ラブロマンスは…?椎名さん、もうやらないのですか?」
「…ん?俺が他の人と、たとえ仕事とはいえ、キスしたりハグして何とも思わないわけ?」
抱きしめる腕をちょっと緩めて聞いてみる。
「そ…それは…その、ずっと見ないようにして耐え忍んでいたので…」
「…っ!」
そんなことを言われたらぐっと詰まるしかないわけで。
「…し、椎名さんのメロメロドラマを見て、キュンキュンしたいです…」
「…リアルに抱かれるより、二次元の世界がいいってか?…この変態め!」
頬をムギュっと両手でつぶしてやる。
ブサイクな顔になって、突き出た唇にキスをした。
未来が笑い、俺も笑う…
時には怒った顔をされることもあるだろう。
でも、俺は誓う。
未来に、決して泣き顔はさせないということを。
屈託なく笑い…独自の感性で生きる未来は…俺の未来。
笑い合う…俺の未来なんだ。