なにがどうなってそうなった。
旦那様のアメリア様とトリシア様への扱いのちがいを見ればどちらを大切に思っているかなど一目瞭然だ。
「旦那様はなんと?」
「誤解だと」
あの人はなにをやっているのでしょう。
「それで? アメリア様は真実を確かめられたんですか?」
「確かめなくても結果は変わらないわ」
おそらくなにかしら手違いでもあったのだと推測できますが、なぜアメリア様はこのように頑ななのか。
「それでもいいじゃないですか。好意を寄せる人物と生涯不自由なく暮らせるんですから。あなたはそれ以上になにを求めているんです」
「わかっているはずよ。あなたがどんなに取り繕っても、彼が会いに来ないことがすべての答えよ」
だからはやく会いに行けとあれだけ申し上げたのに。あの臆病者。これでは庇いようがないではありませんか。
「では、確認致しますが、アメリア様は、旦那様とトリシア様が想い合っているとそうお考えですか?」
「それ以外に答えが必要かしら」
「アメリア様はそれ以外の答えを望んでいるのでしょう?」
図星、か。
目を広げて口を閉し喉を鳴らしたアメリア様は私には答えてはくださらなかったがその反応から答えは出ていた。
「よろしければ、その件に関して私に一任してくださいませんか?」
「事実が変わるとは到底思わないけれど」
「私はそうは思いません」
「あなたがしたいならしたら。私にはもう関係ないもの」
「ありがとうございます」
さて、どういたしましょう。
まずは旦那様に。
いや、あの人はこの件に関しては口を閉ざしている。
となればトリシア様に確かめるのが賢明でしょうか。
──へぇ、あなたクラウスの執事なの。
あの人、面倒くさいんですよねぇ。
以前対面した際のことを思い出していると足の下から伝わっていた振動が止んだことで目的地に到着したのだと理解する。
「ここって」向かいのアメリア様が声をもらし答えを求めるように視線を重ねた。
「以前、お伝えしましたよね。屋敷に侵入者がいたと」
「そんなこともあったわね」
「その時に用いられた銃がこちらになります」
手渡した銃は手に収まる程度のハンドガンだ。
「アメリア様。銃に関してなにか違和感はありませんか?」
グリップ底から弾を装填する半自動式のもので特段めずらしくはないがグリップないから弾倉を引き抜いて確認したアメリア様は意外とばかりに眉を上げた。
彼女もわかったのだろう。
「軽い」
その銃には弾薬が込められその中での銃の軽さは群を抜いていた。
今ではもうこの型を製造できる人物は限られている。
「それに刻印がないわね」
「銃を売買するにはどのメーカーが製造したものか、グリップの底に刻印が押されています。それは販売するにしても製造者と提携していることから自ずと誰の物かはわかります。つまり、このように刻印がないということは密輸に関するものであり、通常銃を扱う者は避けますよね?」
王室から賜ったその刻印を扱えものは一流品とされ重宝され誇りでもある。
だから、このように刻印のない銃はタブーとされまず出回ることはない。
だから旦那様に依頼がいったのだ。
「あなたは今回の件が同じだって言いたいの?」
「はい」
「どうして、旦那様が狙われたのかアメリア様は」
弾が装填される金属音を聞き終わる前に扉を蹴り開け「失礼」彼女を引き寄せて外に転がり出る。
馬車は一瞬で銃弾の雨が降り注ぎ穴が空いていく。
まったく無作法な方たちですね。
驚いた馬が走り出し馬車がいなくなったことで標的を失った銃弾の雨はやがて止んだ。
息を吐き出し腕の中を確認する。
「アメリア様お怪我は?」
「大丈夫、それより」
「ああ、当たってしまいましたか」
彼女の視線を追うと肘のあたりを赤く染め上げていたら。
シャツを捲り上げると銃創からは溢れ出した血がぽたりと落ちていった。傷口に指を入れるが弾は見当たらず探るうちに指が腕を貫通した。
この分なら止血をしておけば大丈夫でしょう。
幸い利き手ではない。
ハンカチを取り出し巻いていく。
「かして」
アメリア様が奪ったハンカチは傷口を覗きこむときつく巻いていく。
「汚れますよ」
「とっくに汚れてるわよ」
そういう割には彼女の手は白く華奢でその言葉は似つかわしくないと思った。