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第38話

「頼んだわよ」

 踵を返した背中はすでに角を曲がり消えていた。

 なにかあればメアリーがカバーしてくれるだろう。

 踵を返し主人の元へと思考を切り替え銃弾の音のする方へと足を進めていくと角を曲がった先の扉はガタついて外れ廊下を挟んだ向かいの壁には銃弾の跡がついていた。

 室内には床に転がる男とそれを踏みつける男の構図に状況を理解しため息を吐いた。

「クラウス、この男を殺すかお前が死ぬか、どちらがはやいかな」

 だから妻子といるようにと伝えておいたはずだが。

 いっそのこと二人とも死んでもらった方が楽ですが、それを望んでいないのは彼がこの場に留まっていることから明らかだった。

 仕方がないですね。

 隙をついて当たらないように銃弾を打ち込みつつ逃げられないように脚に撃ち込み「……今です、逃げなさいっ!」その隙に転がっている男が拘束を逃れたことを確認して倒した机の裏へと体を滑り込ませると銃弾が隠れた机の端を抉っていた。

「ずいぶんと劣勢ですね」

「遅かったが油でも売っていたのか」

 まったく誰のせいだと。溢れそうな言葉を飲み込み仕える主人に加勢できる道筋を組み立てていく。

「あちらは余程旦那様を亡き者にしたいのでしょうか」

「恨みを買った覚えはないんだが」

「当人は覚えていないものですよ」


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