本当に結婚という選択肢しかないのか!
逃げる?いや、聖騎士としている限り逃げれそうにない。
聖騎士から逃げる?いや、これは誓約の反故に引っかかり、私が死ぬことになるだろう。
ファルは基本的にルディの味方なので、あてにはできない。知り合いの貴族なんて居ない。
……選択肢がないような気がしてきた。
聖騎士を退役しても、何れかの貴族の元に行く未来が決められてしまっているなら、遅かれ早かれルディと婚姻することになるの……か?
このヤみまくっているルディと?
私の一言一句で情緒不安定になるルディと?
頭が痛くなってきた。
「なんで、そんなに私と結婚したいわけ?だって、口約束したのって、私が4歳の時でしょ?普通は本気には捉えないことだよね」
これで、愛してる云々が出てきたら、マジでロリコン決定だ。
私の言葉にルディは不思議そうな顔をする。しかし、相変わらず空間が歪んでいるように見えるのはなぜだろう。
「そんなもの、俺にはアンジュしか居ないからだ」
何が!そんなことは絶対にないはず!
「アンジュだけが、俺を見て話してくる。俺のこの目を見て話してくれる」
は?そんな当たり前のことを言われても、普通じゃない?
「ファル様もるでぃ兄を見て話してるじゃない」
何も変わりはしない。
「違う。ファルークスは俺じゃなくて、俺の兄上に敬意を払っているだけだ。俺じゃないんだ」
ルディの言葉にファルを見てみると苦笑いを浮かべている。そこは訂正するべきじゃないのだろうか。
「そんなことはないよね。ファル様は言っていたし、るでぃ兄が人らしくなったって、意味はよくわからないけど、るでぃ兄の事を見ていないってことはないよ?」
「いや、それもアンジュのおかげだ」
先程まで笑い転げていたファルが私のおかげだと言ってきた。え?私はファルに何もしていないけど?
「賢いアンジュのことだ。俺がシュレインに付き従っている理由はわかっているんだろう?」
「まぁ、なんとなく」
「イヤイヤだったんだ。だから、シュレインには最初から言っていた。俺は命令があってシュレインに従っているだけだと」
言ったの?本人に直接そんなことを?
「気味が悪いだろ?常闇と同じ色を持っているなんて、うぉ!っぶねー!」
私はそれ以上言わせまいと、果物が入っている籠の中に置かれていたナイフをファルに向かって投げつける。
しかし、簡単に受け止められてしまった。
「そうやってさぁ。アンジュはシュレインの事に対して本気で怒ったよな。『黒の色の何が悪い』と、『光があれば影ができる。闇が無ければ光は生まれない』と3歳の子供の言うことじゃないよな。それから、『夜がなく太陽がのぼり続ける世界がいいのか』と言われて、何かがストンとはまった感じがしたんだ。
闇と光は表裏一体。闇もこの世界には必要なものなのだと。そう思えてきて初めてシュレインと向き合うことができたんだ」
言ったねー。ルディが悪口を言われて泥水を頭からぶっかけられたときに、頭にきて言ってしまった。
服に泥がついたら中々落ちないんだからね!あ、間違えた。真冬に泥水を被せるなんて、風邪を引いたらどうする!
「俺にはアンジュしかいないんだ」
そんなこと……そんなことない!……はず。
「だから、結婚してほしい」
「はぁ、なんでそんなに今すぐみたいな言い方なのかなぁ。あと10年ぐらい考える時間があってもいいんじゃないのかな?」
「長い!10年は長すぎだ!!」
いや、私的にはそれぐらいでいいと思うよ?10年なんてすぐだよ?
「アンジュ。シュレインと婚約だけでもしておけ」
「はぁ?」
ファルが真面目な顔をして言ってきた。婚約ねぇ。結婚よりはハードルは下がったけど、それも今決めないといけないのか?
「アンジュ。昔天使だって言っていただろ?」
言ってたよ。あの頃はかわいい自分を見て調子に乗っていたよ。
「で、色々あって容姿を隠すようになったんだろ?」
そうですが、何か?
「聖騎士になると身なりを整えないと駄目だぞ。それにシュレインがアンジュに構い出すだろ?」
構い出す?連れ回すの間違いじゃないの?
「天使アンジュの再誕だ。ブフッ」
「それはどこの聖人だ!!再誕も何も私は死んでない!」
それも真面目な顔をしていると思えば、自分で自分の言ったことに受けているし。
「グフッ。まぁ、そうなるとアンジュに付き纏う奴も出てくるだろ?シュレインの情緒不安定が悪化するだろ?もう、俺が大変になる未来しか見えてこないじゃないか」
結局、ファルが楽をしたいってだけだよね!あ、その情緒不安定から不穏な気配が……。
「おい!ファルークス。アンジュに付き纏っているヤツは誰だ!」
お前だよ。