光は消え、切断された電線からは青い火花がバチバチと散っている。触ったら間違いなく感電死するその光景を横目に、アイドリングを奏でるエンジンの鼓動が目立つようになり、行動のタイミングを見計らった。
「通り雨、だったな」
「砲兵さん達も仔猫のように気まぐれなのかもな」
「お二人とも、まだ敵だって完全燃焼したって訳じゃないですわよ。油断なさらずに」
「なんか今日は気が立ってるなオタサー。なんかあったんか?」
「な、何もないですわよ。そんなことより、戦闘に集中してくださいまし」
「シルフ1より中隊戦車へ。今のうちに敵の砲兵陣地まで押し切ります。各車損害がなければ私に続いてください」
「「「了解」」」
痕跡を足元にシルフが行動を再開する。それに呼応してシヴィット中隊も前に出ようとするが、その足を絡め取る者達が迫っていた。
「シヴィットも続く。全車、損害を確認後前進するぞ」
「シヴィット3、異常なし」
「シヴィット4、銃座も身体もピンピン生きてるぜ。いつでも行け」
無線で応答する味方中隊の一人が言葉を言い淀んだ。損傷箇所でも見つけたのか、マップ上で停止した姿を目撃した途端、砲塔が家々の屋根を超える高さまで飛び上がった。
「敵襲!」
「シヴィット1、どうしたんです?!」
「敵戦車がいる。シヴィット4がやられた!」
シヴィット4が身を隠していた場所はT字路で、その前の区画には味方戦車が居た。卓上でリアルタイムにライブされているマップ上では少なくともそうなっている。
「背後にいる! 敵は背後だ」
シルフの戦車長達は疑うような目でマップを見直した。だって後ろに入り込む隙などなく、では回ってきたと言われてもそれはあり得ない気がした。
だって先ほどまで背後には彼女達の味方が居たのだから。
「背後に回るのは自殺行為です。あり得ませんわ」
「ならどうやって抜いたんだ! 複合装甲を」
「一帯の様子を伝えてください!」
「三階建てのアパートを縦に二両。その後ろ、二階建ての一軒家に一両。そいつが、やられた」
直径数百メートルはなだらかで、見渡せる場所は小高くなっている丘が二つだが、直接撃てる射線は取れない。建物に据え付けてあったのだから尚更。
しかしラヴィーは遮蔽を無力にし得る敵を認識していたが為に、すんなりとその正体に在り付く。
「なるほど……待ち草臥れました」
「は?」
「シヴィットは前進してください。仲間を撃破した不届き者は私達が引き受けます」
「引き受けるったって、場所も規模も」
「大丈夫です。嫌と言うほどわかっております、私たち。五秒で次弾がおいでなさいますわよ!」
「仔猫ちゃんのリベンジマッチだ。わかったらとっとと前に行け」
「だがお前達四人で」
「拙者達への気遣いは無用。因縁があるのでな」
「作戦行動中に私情を持ち込むのは禁物ですけど、でもここは私達が」
「……感謝する」
沈黙の後に返ってきたシヴィットの中隊長のお礼。まるで遠まわしに「見捨てて申し訳ない」と言われているようで、ラヴィーの癪に障った。
「あぁもう湿っぽい挨拶はいいです! 早くあっち行け! シッシッ!」
彼らをそのエリアから追い出すように悪態をついて、シヴィットの背中を見送った。
残された四両のエイブラムスは、そのエンジンを高鳴らせて市街地の迷路のように入り組んだ街道を往く。
「シラヌイが来ます! 各員、気を引き締めて取り掛かってください!」
ラヴィーは常識外れの攻撃で、目の前にいる戦車達が因縁の相手、国防軍切手のエース部隊『シラヌイ』であることを見破り、ノイズと共に無線へ流した。