『ティアーの戦闘力について?』
:そう言えば、直接戦ってるところをまだ見たことないなって思って。
俺はふと、気になってることをカイザーに聞いてみた。
以前ティアーは俺……というか、【ジャスティス戦隊】に対して戦うつもりだった事を思い出していた。
あの時は、結局ティアーは戦わずじまいだったから、ティアーがどれくらい戦えるか分からないのだ。
『そうだなあ、一応ティアーは我と渡り合えるくらいの実力はあるぞ。……いや、というより“生き残るのが上手いというべきか?”』
:生き残るのが?
『無論、戦ったら我が勝つ自信はある。あるが……引き分け狙い、つまり逃げに徹されると我もかなり辛い。なかなかとどめをさせなくてな』
ティーカップを啜りながら、カイザーは思い返すようにそう言った。
あれは大変だったな……といいながら。
『ティアーの真骨頂は、“状況対応力”。戦闘というより、サポートや盤面支配能力が高いな』
:ということは、直接戦闘は実は苦手?
『無論、並の部下よりは攻撃力はあるぞ? あとはそうだな、“見てて楽しいな”』
:楽しい?
『これは実際見た方が早いな。まあ、その時が来る事を祈ればいい。見たら驚くぞー♪』
☆★☆
「ガッハッハ!! 女ぁっ!! テメエから向かってくるとは、馬鹿なやつだぜえ!!」
走り出したティアーに向かって、獣人の幹部が迎え撃とうと飛びかかってきた。
大きな爪を振りかぶり、ティアーに向かって振り下ろされようとすると……
「──SET、【インパクト・バレット】、
すかさずティアーが右手の拳銃を向け、その言葉と共に弾丸が発射される。
放たれた弾丸はすかさず獣人の幹部にヒットし──“衝撃波が発生する”
「っ?! ぬおう!!?」
爆弾の爆発とは、違う。まるで車のエアバッグが膨らんだような感覚。
その威力を強めたような衝撃が獣人の幹部を吹っ飛ばした!!
「今のは……! さっきの普通の狙撃とは、違う弾丸が撃てるのか!!」
俺は離れた位置で、ティアーの戦いをよく観察していた。
てっきり二丁拳銃で普通に弾を放って戦っていくかと思っていたが、今の1発だけで相手を吹き飛ばす特殊な弾丸もあることが分かった。
俺はティアーに言われた通り、彼女の戦いから目を離してはいけないと改めて実感していた。
「ロケット、パァアアアンチッ!!」
今度は、ロボの幹部が襲いかかる。
先ほど俺を襲ったようにロボの拳がティアーに向かって飛んで行く!
「同じ事よ!! 【インパクト・バレット】、
「っ!? ビガアッ!? 逸らされた!?」
しかしティアーは、先ほど獣人を吹っ飛ばしたようにパンチに対して衝撃波の弾丸を放つ。
ヒットした弾丸は炸裂し、パンチはあらぬ方向に吹っ飛ばされた。
「ビガアッ! しかし、“スパイクモード”!! これで私の足元は床に固定された! 先ほどの幹部のように吹っ飛ばせるとは思わないで頂きたい!!」
「あ、そう。SET、【アクア・バレット】、
「ビガ?」
ロボの足からトゲトゲが生えてきた事を一切気にする様子もなく、ティアーはまた別の弾丸を放つ。
先ほどとは口上が違う言葉とともに放たれたそれはロボの幹部にヒットし、“あたり一面をビチャビチャにした”
「ビガアッ?! 水!?」
「精密機械に水は致命的でしょ」
「し、しかし私には防水加工も完備!! この程度一切問題──」
「じゃあダメ押し。SET、【サンダー・バレット】、
「っ?! ビガビガビガビガビガアアアアアアア──ッ??!!!」
続けて弾丸を放つと、ロボの幹部の体が感電したように痺れ始めた!!
明らかに電流が流れている! しかもずぶ濡れ状態だから、より効果的だった!
「衝撃波の弾丸だけじゃなく、水、それに電気も……?!」
「ふふん♪ これが私の【ダーク・ガジェット】!! 【ツイン・ティアーズ】の力よ!!」
普通の弾丸も合わせれば、ここまで4種類の弾丸を撃ち分けている。
……元々ブルーは、水属性使いのエキスパートだった。
だからティアーの状態の時でも水属性を使って来てもおかしくないとは思っていたが……それどころじゃない。
衝撃、水、雷! ここまで一人で操っている!
この分だと、多分……
「ぬうううううんッ!!!」
「キキ、ヒ〜ひひ!! これでも、喰らえ!!」
すると、今度は巨体の幹部が突進と、ドクターの幹部の爆弾がティアーに襲い掛かる!
さあ、今度はどう捌く……!?
「SET、【インパクト・バレット】、
先ほどと同じように、衝撃波の弾丸を宣言するティアー。
……しかしその銃口は、“彼女の足元”だった。
ボウンッ! と衝撃波が発生して、“彼女は高く吹っ飛んだ!!”
「なあにッ?!!」
「き、ひひっ?!」
「飛び上がった!? 建物の外を上がってこれたのも、これが理由か!?」
仕組みがわかれば単純な話だった。
ティアーは衝撃波が発生する弾丸を利用して、自分自身を吹っ飛ばしていたのだ。
それで空中に高く飛び上がり、屋上までこれたのだ。
空中に躱された巨体の幹部と爆弾は、床の位置でガツンとぶつかり合い、ボカーンッ! と爆発する。
同士討ちだ。
「ぬああああああ?!!」
「き、ききい!? すまないねえ!?」
「ビガア! 逃すか、ダブルロケット、パァアアアンチッ!!」
空中にいるティアーを追撃するように、再度ロボの幹部が攻撃する。
今度は二つの方向から分けて飛んで行くように調整して飛んで行った。
しかし、ティアーは二丁拳銃。あれだと想像だが、再度2発同時に撃って対処されるように思える。
実際、ティアーも両手の銃口をそれぞれのパンチに照準を合わせている。
そのまま【インパクト・バレット】が二つ発射されて……
「ビガアッ!! 加速しろ!!」
ギュンッ! ギュンッ!
「っ!! おお!!」
すると、空中を走っていたロケットパンチが、急に加速し出した!
タイミングを合わせて放っていた弾丸は外れて過ぎ去ってしまい、後方で無意味に炸裂した。
これでパンチを逸らす事はできず、空中のティアーはなす術も無く当たる──
「【インパクト・バレット】、
バウンッ!! ←(ティアーが急速落下)
「ビガアあ?! 何ぃ!?」
「まあ、だろうな」
「ぬぅおっ?!」
あいつ、屋上に上がる際空中で急激に方向転換したしな。
空中で最後衝撃で追加移動できる事は、すでに分かっていた。
案の定、ロケットパンチは外れた上に、急速落下した際に床にいた巨体の幹部を踏みつけるおまけ付き。
新体操もかくやという動きで踏みつけた後、クルクルと空中で回転しながら着地するティアー。
その表情は汗一つたらさず、余裕といった感じだった。
「ふう……」
彼女は一息ついて、一言。
「うん! 弱い!!」
『テメエええええええッ!!???』
ティアーの一言に、案の定大激怒する幹部達。
まあ、この短時間でここまで手玉に取れてると、そう言いたくなる気も分かるが……
「【インパクト・バレット】だけで応用性抜群じゃねえか……あれを中心に戦術組み立ててるのか?」
衝撃波というだけで、相手の強制移動、遠距離攻撃の逸らし、自身の緊急回避、空中移動と何でもござれ。
そもそも、空中を縦横無尽に動き回るガンマンというだけで、相手からしてみれば最悪なデコレーションだ。
「狼狽えるな!! その女、回避はなかなかだが、ダメージはそれほどでもない!! せいぜいさっきの電気くらいだ!! それさえ気をつければ問題ない!!」
「そ、そうか! 流石ボス!!」
「そうだ! 攻撃自体は大した事ねえ! せいぜい衝撃で吹っ飛ばす程度で、ダメージはない!」
「むう……落ち込んでくれるかと思ったのに」
離れたところで見ていたボスのその声に、幹部達のやる気が取り戻す。
そうだ、確かにここまで手玉にとってるように見えるが、ティアーは致命的なダメージを相手にまだ殆ど与えていない。
このままではただ時間が過ぎ去るだけになってしまう。
他のヒーローの到着を待つという意味なら正解だが、ティアーはヴィランだ。
……そもそも、そんな程度で終わるような女か? こいつが? そんな思いが俺にはあった。
「……しょうがないわねえ。じゃあ期待に応えて、ちょっとダメージ優先していきますか」
そう言ってティアーは銃口を、獣人の幹部の方に向ける。
……しかし、向けた先はその幹部の真上の空中だった。
「あ? どこ狙って……」
「──SET、【ブロック・バレット】、
声を遮るように放たれたそれは、獣人の幹部の真上で炸裂し──“巨大なブロックとなった”
「……は?」
ドズウウウンッ!!!
「ぐはアアアアアア──ッ?!!」
「じゅ、獣人──ッ?!」
直径2.5mはあるほどの巨大なブロックが、獣人の幹部を押しつぶす!
獣人の幹部は立ち上がれず、そのまま重さで床に倒れて押し付けられている!
「ブロックッ?! そんなものまで出せるのか!?」
「ぐ、ぐぐ! な、めるなああ!! この程度の重さ、この体ならすぐ退かして……!」
「あら、すごーい」
「じゃあ、2個目をプレゼントね。
「ぐへあっ??!!」
「じゅ、獣人──ッ??!!!」
さらっと2個目を追加したティアーに、獣人の幹部はなす術もなくペチャっと潰れる。
じゃあ3個目ー、とティアーはさらっと言って……建物の床が悲鳴を上げ始めていることに気づき始める。
「って、あちゃー。流石にブロック二個積みでちょっとミシミシいっちゃうか。これ同じ箇所に3個はマズそう……これを狙って屋上で戦っているのなら、流石に予想外だったと言わざるを得ないわね。うん、よく考えてる、えらい偉い」
「ぬうん!! ほざけえええええええ!!」
そもそも屋上に連れ出したのは俺だが。
そんな事はわかりきってるはずなのに、あえて敵組織を幼い子を褒めるように声を掛けるティアーに対して、巨体の幹部が怒り狂って突進してくる。
「えーと、ダメージだっけ? めんどくさいわねー……」
ティアーはポリポリ頭を掻いた後、二丁拳銃の銃口を巨体の幹部に合わせる。
「じゃあ、これ。SET、【オイル・バレット】【ファイア・バレット】、
バシャあッ!! ボウッ!!
「っ?! ぬううおおああああああっ?!」
「脂肪燃焼にちょうどいいでしょー」
「炎に、油まで……!!」
俺はティアーの攻撃のバリエーションに、心底驚く。
間違いない。こいつ属性に拘らず、様々な状況に合わせた弾丸を組み合わせて闘うマルチ・プレイヤーだ!?
これが【カオス・ワールド】の幹部、コバルト・ティアーの戦い……!!
「ぐうぅ、ぬあああああああっ!!」
「おおう!? 燃えながら走ってくるのね! 根性だけは凄いわね!!」
しかし、巨体の幹部も燃えながらもティアーを巻き込もうと走り込んできた。
さっきまでのティアーなら、空中に逃げていただろう。
しかし、それではダメージは稼げないはずだ。なら今は……
「じゃあSET、【ブロック・バレット】、
ガツンッ!!!
「グゴがああ?!」
巨体の幹部の進行方向に、ブロックを設置。
そのまま急に出来た壁にぶつかって、自傷ダメージを負ってしまっていた。
あのブロック、単純に盾としても使えるな……!?
「キキィッ!! よそ見をしたな!!」
「っ!!」
「なら、数ならどうだアアアアアッ!!!」
そう言って、ドクターの幹部はありったけの爆弾をティアーだけでなく、空中にも向けて投げていた。
巨体の幹部の対処をしているすきにバラまいたらしい。
これでは空中に逃げたとしても、いくつかの爆弾の爆風でダメージを受けてしまうだろう。
ブロックの盾も既に近くにある以上、意味が無いはず。
つまり、今度こそティアーに逃げ道は……!
「ダメージソース、ありがとう〜♪」
「キキっ……?」
「SET、【インパクト・バレット】。──“バレット・レクイエム!!”」
次の瞬間、ティアーはその場で踊るようにクルクル回る。
そしてそのたびに、両手の銃口をあちこちに向けて【インパクト・バレット】を連打。
空中を含む辺り一面にあった爆弾を、一つ一つ衝撃波で撃ち落とし、移動させていく。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ…………三十三、三十四!!
……計35個の爆弾が吹き飛ばされ、正確に幹部4人の位置に飛ばされた。
「なあっ??!」
「ビガアッ?!」
「ぬうん?!」
「キキぃ?!!」
「あ、ついでにこれも返す。ほらっ」
そう言って投げたのは、ショッピングセンターに設置されていたティアーが持って来た爆弾達。
それを4人に向かって投げた後、バンッと通常の弾で撃ち貫抜く。
ドガガガがガガガががぁぁぁぁンッ!!!
「うひゃー、きったない花火ねー。……なんてね」
屋上が、爆発の渦に包まれる。
中心にいるのは、幹部達4人だった……
「…………すげえ」
俺は、そう感嘆の声を出すしかなかった。
今の衝撃波の弾だけで、全てを弾き返した“バレット・レクイエム”。
一見ただ全部打ち落としただけのように見えるが、吹っ飛ばし先の位置調整などミリ単位のエグいテクがいるはずだ。
それをあの一瞬で、一つも間違える事なく精密な射撃……!!
俺の“ハイパーエッジ”や“メガフレイム”などの力任せとは対極な、超精密操作技術。
一応敵ということを忘れて、惚れ惚れするような技術だった。
「ぐ、が……」
「き、貴様ぁ……!!」
煙が晴れるとともに、倒れた幹部4人の姿が見えた。
全員今の爆発で、息も絶え絶えだ。
「あー。楽しかったー♪」
髪をかけ上げ、余裕綽綽な様子で佇むティアー。
その視線の先は、敵のボス、プルガトリオ。
「さて、あとはあなただけだけど……降参する? 今なら謝って許せば考えなくもないわよー」
「ふんっ、そんな選択するわけないだろう」
「けどどうするの? ボスのあなた一人で戦える? 幹部でこの程度だと、あなたの実力もしれるわね。私勝つ自信しかないけど」
「貴様こそ何を言っている?」
「ん?」
「──まだ我の四幹部は、倒されておらぬ」
「──? 何を言ってるの、今まさに倒れてるじゃない。言っておくけど、不意打ちくらい警戒して今も見てるから、動けないのは分かってるわよ」
実際、ティアーのいう通りだった。
四幹部は全員床に倒れている。うめいてはいるが、立てる様子は無い。
「それは、どうかな?」
そう言ってボス、プルガトリオは何かを取り出し──それを4幹部のうち、3人に投げ刺した!!
あれは──“注射器?” 中に入っているのは……“血”!?
「っ!? あなたまさか!!」
「そうだ。【ブラッド・フォース】!! それを手に入れていたのだよ!!」
「っ!?」
【ブラッド・フォース】、カイザーとの会話であったドーピング効果のある液体!!
「ぐ、ううっ!! グゴおおおおおおおおッ!!!」
「ぬ、ううっ!! ああああああああああッ!!!」
「キ、キキッ!! キィいいいいいいいいッ!!!」
「さらにダメ押しだ。スイッチオン!! 暴走しろロボよ!!」
「ビガァァッ!! リミッター、解除致します!!」
幹部3人が、血管が浮き出たドクドクと変な脈動を感じさせながら立ち上がった。
ロボの幹部は、明らかに電気がショートしているようにバチバチな状態で立っている。
「くくっ、はーっはっはっは!! これが、これこそが【ガリオ・リベンジャー】の幹部の本来の力なのだよ!!」
『おおおおおオオオオおおおおォォォォ────ッ!!!!』
全員が雄叫びを上げる。
ティアーが倒した4人が、これによって復活してしまっていた。
「──ッチ」
ティアーが、舌打ちした音が聞こえた。
ガチの音で、本気でイラついているように見える。
「……さっきまでだったら、“私の遊びの範疇”で済まそうと思ってたんだけどね」
そう言って、両手の二丁拳銃、【ツイン・ティアーズ】を握り締める。
「──スイッチ入ったわよ、ええ」
そう言ったティアーの眼光は、鋭く尖っていた……
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
男
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
「さて、どう乗り越える……?」
ティアーのバトルを、完全に観戦モード。
一挙一足を、見逃さないくらい熱中している。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
女
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
「……私の地雷を踏んだわよ、あんたら」
様々な効果を持った弾丸を利用し、マルチな状況に対応する戦い方をする。
応用力が広く、一定の実力下の敵だと相手にすらならない。
しかし、だからこそ基礎スペックゴリ押しの単純戦法にはちょっと苦手だったりする。
★カイザー
22歳
172cm
紫髪
混沌・悪
【カオス・ワールド】のボス。
ティアーの幼馴染み。
「ティアーを怒らすなよ。……怖いぞ?」
時折ティアーと模擬戦をする仲。基礎スペックゴリ押しの出来るキャラ筆頭。
ボスとしての威厳は保てているが、それでもティアー相手には何度か冷や汗かくらしい。
しかしそれも含めて、ティアーと戦うのを楽しんでいたりする。