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第20話 俺がヴィランの道を転がり始めたようだけど、どうすればいいと思う?

「──うむ! 【ジャスティス戦隊】のレッド! ありがとう、君のおかげで私たちの基地は守られた!!」

「ああ、いえ……」


 俺は、ショッピングセンターの屋上で【ガリオ・リベンジャー】を本来の担当区域のヒーロー、【マッハ情熱戦隊】に引き渡していたところだった。

 ランキング43位。旧世代対処のボーダーである50位より、やや上の戦隊だ。

 そのリーダーと、俺は今会話をしている。


「援軍に来れなくて済まなかった! 私たちの方は、【ガリオ・リベンジャー】の大規模別働隊との戦闘でな! 発電所を占領されかけていたため手が離せなかったのだ! 放っておくと街全体の被害となる為、こちらを優先せざるを得なかった!」

「あいつら、わざわざそんな事を……」


 思ったより計画的だったんだな、あいつら。

 確かに発電所とショッピングセンターじゃ、一見優先度は明らかに見えるだろう。

 一般人には、まさか隠れヒーロー基地がある場所とは知らず。

 こちらを優先していたら、一般人にも見当違いな場所を対処してると思われていただろうな。


「しかし、レッド! 後から映像を見たが、君も中々の実力者だな! ランキング83位とは思えない実力者だ!! 独断行動は褒められたものでは無いが、それを差し引いても君の今回の活躍は、大幅にランキングを上げてくれるだろう!!」

「はあ、ありがとうございます。しかし、私は特にメインで行動したわけではありません。主に、ヴィラン同士の内乱を利用した形です。さらにその独断行動だったのは間違い無いので、ランキング上昇の話は辞退させてもらおうかな、と……」

「ふむ! だとしても、幹部を二人倒したのは紛れもなく君だろう? それに、ショッピングセンター内のヴィラン対処も君が中心だったと聞く! ……確か君は、以前にもランキング上昇の話を辞退していたな!」

「あ、はい。知っていたんですか? 下位ランクのヒーローの話なのに」

「いい意味でも、悪い意味でも有名な配信だったからな! あの映像は!」


 あはは……と、俺はから笑いするしかなかった。

 ティアーの部隊との騒動、そんなに有名になっちゃってたのかよ……


「ふむ! その上で言わせてもらおう! ……あまり、推奨出来ない判断だと思う!」

「……と、言うと」

「過剰な謙遜は、何も君だけに影響するものでは無い! そもそもランキングは、その戦隊の総合力の基準パラメーターの目安ともなる!! 君は明らかに上位ランキングの実力者だ! そんな君がいる戦隊が、下位の順位に甘んじているという状況は、よろしく無い!!」

「……しかし、わざわざ希望しているわけでもなく、無為に上位に上がらせる必要もないのでは?」

「いや! 君が今回のような活躍をしてしまったせいで、“ランキング80位台で今回のような事件を対処出来る”と勘違いされてしまう可能性が湧き出て来る! それは同ランキング帯に、過剰な期待が寄せられる事を意味する! それは彼らにとって負担となり、いずれ破綻してしまう結果となるだろう!」

「っ! なるほど……」


 そっか、そこまで考えが及ばなかった……

 今まで俺は、自分一人が強くても意味がないと思って、ランキング上昇を辞退し続けていたけど……

 そう考えると、上がらなさすぎる、というのも別の問題を抱えていたんだな。


「適切な実力を持つ部隊に、適切な騒動の対処を任せる! それがランキングがある理由の一つでもある! 君自身、今回のような独断行動をしたのなら、似たような出来事が会った際同様に行動してしまう可能性があるだろう!! それならば、最初から上位ランキングに所属しておいた方がいい! 君自身が活躍する機会を増やすという意味だけでなく、周りへの配慮も兼ねてランキング上昇も一つの選択肢としてあると考えてはくれないだろうか!!」

「それは……」


 もちろん! っと、【マッハ情熱戦隊】のリーダーが続ける。


「自信も、実力の一つでもある! ランキング上昇が不安という気持ちがあるなら、それ込みで実力と言えるだろう! それに、君の一人だけが突出した部隊が上位に入るのは危険、という懸念も理解出来る!」


 だからこそ!! っと……


「……君の部隊の他の仲間達と、よく相談するといい。戦隊は、一人でやるものではない。まあ例外はあるが……君の部隊は、そうではないだろう? 仲間と共に前に進める。それが戦隊の魅力の一つだ」

「────、はい」


 最後に、先ほどまでの声のデカさが嘘のように……静かに促すような声色でそう伝えて来た。


 ……これが、【マッハ情熱戦隊】のリーダー。

 一見暑苦しいように見えるが、物事の本質をはっきり捉えている。

 上位ヒーローである理由の一端が、この会話だけで理解出来るような気がした。


「うむ! それでは!! 我らは【ガリオ・リベンジャー】の引き渡しの手続きと、被害の対処があるからな! そちらは全て我らが受けもとう! 君はこれで帰宅するといい!」

「あ、はい。……ありがとうございます」


 俺は素直に礼を言って、ショッピングセンターの屋上を後にした……



 ☆★☆



「……あー、疲れた……引き継ぎに結構時間掛かっちゃったな」


 既に警察なども来て、出入りの封鎖作業を行なっている。おそらくこの後【ガリオ・リベンジャー】の引き渡しが行われるのだろう。

 俺は近くの警察官に頼んで、通してもらうようお願いをする。ヒーロースーツのままだからか、特に身体検査などもせず通してもらえた。


 俺は適当な場所で変身を解除して、いつもの私服となって建物の外に出た。

 あー、空気が美味しい……


「聖夜先輩!? 大丈夫だったッスか!?」

「あ、イエ……雷子らいこ


 建物の外に出たあたりで、雷子らいこと合流出来た。

 よかった、無事だったんだな。


「俺は大丈夫だ。それより、お前の方こそ大丈夫だったのか? 市民の誘導任せちゃったけど……」

「問題ないっス! 全員無事に逃がせたッス! ……まあ、逃がせた理由、私メインじゃないんですけど……まさか建物内にティアーがいたなんて……」


 雷子らいこは目をそらしながらそう呟いていた。

 そうだよな、ティアーが一緒にいたなんて思ってもいなかったよな。


「結果論っすけど、あいつが通った道を辿って無事脱出できたッス。けど冷や汗掻いたっスよ……レッド先輩大丈夫だったっスか? 変に絡まれたりしなかったっスか?」

「あー……絡まれたっちゃあ、絡まれた、かな……?」


 俺はティアーの普段のノリを思い返し、歯切れの悪い返事をするしか無かった。

 その様子を見て雷子らいこはやっぱり!! と言った表情をしていた。


「あー……そういえば、るいは? あいつは合流してないの?」

るい先輩は、まだ見てない……あ、来たッス!!」


「やー。お待たせー。ちょっと事情聴取で時間取られちゃった」


 雷子らいこの指差した方向から、るいがやって来た。

 どうやら俺と同じ、建物の中から出て来たらしい。


 あいつ……トールと一緒に外出た後、わざわざ建物内に戻って来たのかよ。

 バレないためとはいえ……というか、戻って来るの早えなおい。正直今日はもう会えないかと思ってたぞ。


「聖夜、お疲れ様。今回大活躍だったみたいじゃない、このこの〜♪」

「え、そうだったんスか!? くそう、あとで配信見直して来るっス!!」

「茶化すな。あれほとんど、敵同士の内輪揉めみたいなものだって知ってんだろー」


 さて、と。

 とりあえず全員合流出来た事だし、話を切り替える。


「とりあえず、今日のところはこれで解散でいいか? 流石に疲れた……」

「まあねー。しょうがないか……もうちょっと聖夜と一緒にお出かけしたかったのに。ヴィランめ……」

「それじゃあ、帰りましょうか。忘れ物はないッスか? と言っても、あの建物に忘れちゃったら今取りに行けないッスけどー」

「あー、あー……実は忘れ物、というか無くし物は私合ったのよねー。あの騒動で。高かったのに……」

「そうなんっスか? 災難だったっスねえ……一体何無くしたんですか?」

「ある意味“貴重品”よ“貴重品”。高かったのに……」

「“貴重品”、ねえ……まあ財布とか、身分証を無くしたわけじゃないんだろ?」

「まあ、ね……」

「だったら、命あっての物種じゃねーか。切り替えて行こうぜ」

「まあ、たくさんある内のものだからまだマシだけど……」

「そうッス。どんまいッスー」


 そう慰めながら、俺たちはその場から離れていった……



 ☆★☆



「ふう。ただいま〜っと……」


 俺は自宅に入り、一息を付く。

 自分の部屋の椅子に座って、はあー……と、心を落ち着かせた。


「……さて、と。コレ、どうしよっかなぁ……」


 そう呟きながら、懐からあるものを机の上にゴトリと置いた。


 ──屋上で見つけた、ティアーの【ダーク・ガジェット】二つだ。


「…………持って帰っちゃったよ、おい」


 正直、ここに来るまでかなりドキドキだった。

 警察の横を通り過ぎる時だって、ヒーローだから身体検査を免除されたからよかったものの、調べられたら一発だった。


「【ダーク・ガジェット】、所持してるだけで罪に問われる代物、か……」


 待機状態のそれを、一つだけ慎重に持って全体を見渡す。

 これ一つ持つだけで、警察に逮捕されても文句ない代物だ。


 本来なら触らず、事後処理部隊に連絡して任せるのが本来の流れなのだが……


「よりによって幹部級のティアーの……ブルーの持ってるやつだもんなー……」


 もしかしたら、指紋などから辿られて持ち主を判明されてしまうかもしれない。

 流石にそんなミスを犯さないだろうとは思うが、でもブルーの普段の姿を見ていると、割とありうる線というか……

 さっき本人を見た感じ、ちょっと無くし物した程度で、そんなに慌ててなかったから大丈夫だとは思うが……

 まあ、バレたらバレたで、ブルーの事は仕方なかったと割り切る覚悟はしているつもりではあるが……


 とりあえず、念の為よく拭いておこう……と、ウェットティッシュでキュッキュッと全体を拭っておいた。


「……【ダーク・ガジェット】。いや、【レプリカ・ガジェット】、か……」


 俺は手に持ったそれを見て、カイザーの話を思い返していた。

 本来ヒーローとは別の、ヴィジランテ達の象徴になる筈だったもの。


 ……上手くいけば、ヒーロー側の戦力増強になるはずだったそれが、連合から拒絶され一転ヴィランの象徴となったもの。


「……………………」


 カイザーの話を、一から十まで全て信じ切ったわけでは、ない。

 所詮ヴィラン側の言い分だ。本当に全てその話が正しいとは限らない。……個人的には、カイザー本人がそんな嘘を付くような存在ではないと感じているが、それはそれ。


 ……しかし、それを差っ引いたとしても。

 “ヒーロー連合側がキナ臭い”、とは薄々と感じてはいた。


「……何故、【レプリカ・ガジェット】をそこまで拒絶する」


 国が管理出来ない暴力を野放しに出来ない、という理由ならそこまでは納得出来る。

 しかし、量産品の武器として有用なのは確かの筈だ。


 限りあるヒーローの席を、実質増やす事のできるという意味では、喉から手が出るほど欲しい技術の筈だ。

 ……それを調査も考慮もせず、何故切り捨てる? 


 本当に洗脳されるから? それとも、他の理由が? 

 ……例えば、“ヒーローとしての希少性が薄れるから”、と言ったものか? 

 もしそうだとしたら……そんなものは犬にでも食わせておけ、と言いたい。

 しかし、早合点は早計だ。



「──“人の法は、完璧ではありません”、か」


 俺は、トールが話していた言葉の一部を思い返していた。

 ……ああ、そうだ。否定はしない。


「……俺も、“今の法が本当に完璧なのか?” って、思っているよ」


 ヴィジランテが爆発的に増えた頃。コントロールが効かなくなるそれを懸念して、【レプリカ・ガジェット】を禁止した法を作ったのは、当時としては正しいんだと思う。


 しかし、しかし。


 昔の戦国時代なら人を殺しても問題無かったが、現代の法だと命を奪うことを禁止したように。

 今の時代に合わせて、法をアップデートしていくことも、確かに必要なのだ。

 ただ無為に、当時の法をずっとそのまま維持し続けているだけだったのなら……いつか、変わらなければいけないと思う。


 無論、その法を維持し続ける理由もあるにはあるんだろう。……しかし、それは本当に現代の人の総意と言えるのか? 


「……知りたい。俺は、知りたいんだ」


 何故、【レプリカ・ガジェット】をそこまで禁止する? 

 何故、ヒーローが【ダーク・ガジェット】の所持だけでなく、“倒した敵の物を回収”すら禁止する? 


 ……トールの襲撃は、ある意味好都合だった。

 彼女が配信機器をマヒさせてくれたおかげで、俺はバレずにこの【ダーク・ガジェット】を回収することができた。


 知りたい。知りたい。

 俺は調べたい。【ダーク・ガジェット】……【レプリカ・ガジェット】の事を。


 素人知識かもしれないが……それでも、チャンスがあるなら、自分の手でいけるところまで調べたいのだ。

 それに、ある意味知識のツテが俺にはあると言えるだろう。


 ティアーの配信。

 カイザーの配信。


【レプリカ・ガジェット】の本場とも言える二人との繋がりが、俺にはあるのだから。

 直接正体を明かさずとも、コメントなどである程度は聞けるだろう。

 ……チャンスというには、大きすぎた。もはや無視できないほど、都合の良い状況が揃っている。


 ……やってやるよ。


 もしかしたら、本当に法を変えることが出来るかもしれない。

 ヒーロー側にとって、頼れる新たな味方を増やせるチャンスかもしれない。


 ……分かっている。こんなのはただの都合のいい言い訳だ。法は法。


今現在、法に逆らっているのは佐藤聖夜俺自身だ


 ……今なら、軽い罪で済ませられる筈。引き返すのなら今だ。

 ……だからこそ、今の内に色々準備せざるを得ないだろう。



 ──例え、自分が捕まっても(失敗しても)問題無いように。



「……さて、と。いろいろやっておきたい事が出来たなあ、おい」


 俺は、目の前の【ダーク・ガジェット】を二つとも鍵付き引き出しに仕舞い込む。

 今はまだ、取り出す必要はない。本当に試す時までは。

 それまでは、出来る範囲で情報収集。そして、ヒーロー戦隊でやるべき事を。


 そうして俺は、身の回りの整理をし始める。

 それはまるで、側から見ると身辺整理のようだった……




 ★佐藤聖夜さとうせいや


 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 男


 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。


 ヒーロー連合を、心から信頼していた訳ではなかった。

 より多くの人を救える可能性のある方法。

 それを探すという正義/建前を得た今、彼が止まる理由は無くなった。


 ティアーの目論見が、望外に成功し始めたと言えよう。

 彼は間違いなく、自身の定義するヴィランへの道を転がり始めたのだった……



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