『──SET、【インパクト・バレット】、発射ファイア!!』
「
「……これ、は……!」
グリーンは、
聖夜達が出かけているショッピングモールで、ヴィランの襲撃があったらしい。
明らかに上位戦隊が出張る必要のある緊急事態、それに聖夜がレッドとして思いっきり巻き込まれていた。
しかし既に事件は収束し、今は既にあった出来事のニュース映像が流れている。
その映像にレッドと、【カオス・ワールド】の幹部、ティアーの戦いの映像が映っていた。
「ティアーって、こんなに強かったんだねー!!」
「……ああ」
「レッドも、なんかすごい事やってない? レッドも凄いねー!!」
「……ああ」
「……
「……ああ」
「大変! お、お手洗い! お手洗い探してこなくっちゃ!」
「……ああ」
グリーンは、
【カオス・ワールド】の幹部、ティアー。思った以上の実力者だった。
仮にこの女性と戦った場合、【ジャスティス戦隊】総出で戦っても勝てないかもしれない……
そう思わせるほどの実力者と言うことが、映像越しでも分かった。
レッドも、いつの間にか隠していた新技を披露しているが、それでも正面戦闘で勝ち切れるとは思い切れない……
ワンチャンレッドの攻撃が当たれば、勝つ可能性は高いかもしれないが……あの汎用性と対応力で、レッドとの攻防自体回避されるか、捌き切られるかの予想しか出来なかった。
【ジャスティス戦隊】総出でも、各個撃破される未来しか今の所見えない。
──こんな凄い相手に、レッドは目を付けられてしまっているのか……!?
今日のショッピングセンターでの騒動と言い、彼は相変わらず絶望的に運が無いな……!?
そんな感想がグリーンには浮かんでいた。レッドに対し、心配の声しか上げられない。
こんな相手とレッドが対決することになったら、流石にレッドも勝てない可能性が高いだろう。
「──けど」
けど、けれど。
グリーンは、こうも思う。
確かに、“レッドではティアーに勝てない”可能性が高いだろう。
しかし……
「──“聖夜なら、勝てる”」
レッドで勝てなくとも。
“佐藤聖夜なら、ティアーに勝てる”。
グリーンは、そう確信していた。
側から聞くと、意味の分からない言葉。しかし、グリーンは知っている。聖夜は……
「……
「……ん。なんで?」
「え? ……え?」
グリーンは、
★
34歳
184cm
緑髪
秩序・善
男
【ジャスティス戦隊】のグリーン。
最年長、レッド以外の男性。
レッドの運の無さに、ずっと悩んでいる。
しかし同時に、彼の実力を信じている。
彼のとある“体質”の事も……
★
10歳
130cm
ピンク髪
秩序・善
女
【ジャスティス戦隊】のピンク。
最年少。他の戦隊ふくんでも最年少ヒーロー少女。
お出かけ中、いつ決壊するかオロオロしていた。
<おまけ>
「──うん、うん。そうか。【ガリオ・リベンジャー】の件、了解した。災難だったな」
『本当よ!! おかげでせっかくの休日が無茶苦茶だわ!!』
【カオス・ワールド】の玉座の間。
そこで私は、ティアーと通信機越しに連絡を取り、今回の騒動の顛末を聞いていた。
「しかし、まさかトールまで出張ってくるとはな……てっきり私か、旧世代の有名所の組織しか相手しないと思っていたが……」
『ねー。予想外でびっくりしちゃったわ。しかもあいつ、レッドのファンなんて言うのよ! きっと彼の活躍を聞いて、現地で見学に来たのが本音に違いないわ!!』
「存外、俗っぽいなそう聞くと」
【ジャッジメント】のトールと出会ったことまで聞くと、ティアーの予想した理由に意外、と言った感想が浮かび上がって来た。
てっきり、ヴィランを全て倒す復讐鬼か何かだと思っていたが……意外とミーハーってやつなのか?
しかし、まさかティアーが放送で公言していたレッドと同じとは……変なところで趣味が被ってしまって大変だな、ティアー。
「まあいい、トールとの戦闘で怪我はしていないな?」
『大きなものは。細かい痺れがまだ残ってるけど』
「なら、今日はもう休め。連戦で疲れているだろう?」
『そうするー。じゃあまた、暫く潜伏してすぐには連絡出来ないだろうから、あらかじめ伝えておくねー。お昼以外なら大丈夫だと思うけど』
「……ティアー」
『何ー?』
「──何をやっているかは分からないが、自分の身を大事にな」
『──ええ。ありがとう、カイちゃん。じゃーねー』
そう言って、通信機端末の電源を切った。
……玉座に深く腰掛け、ふう……っとため息をつく。
「……全く、心配かけさせおって」
【ガリオ・リベンジャー】との戦闘の件は、問題ない。
あの程度の組織に、ティアーが遅れを取るなどあるはずがないからだ。
部隊を勝手に動かした件についても、特に注意するようなことでもあるまい。私でも同じ指示をしただろうから。
……しかし、【ジャッジメント】の件については別だ。
あれはランキング外の存在とは言え、ランキングトップ層と同等の戦力を持っている。
実際に両方戦ったことがあるから、ある程度両者の実力は把握しているのだ。
むしろ見栄えを重視しない、暗殺特化という意味ではランキングトップよりある意味厄介だ。
そんな相手とティアーが交戦したと聞けば、心配の一言でも言いたくなる。
ティアーの実力は知っているから、相手が一人だけならそう簡単にやられはしないだろうとは思ってはいるが……
よくもまあ、いつものように気楽な顔をさっきの通信で見せて……
「──いつもの気楽な顔、か……」
……我は。私は。自分でふと考えたことを思い返していた。
ティアーはいつも笑顔だ。
しかめっ面も、プンプン顔もよくしてると言えばしているが、全体的には明るい雰囲気を保っている。
絶望なんて言葉は、ティアーには似合わない。そう【カオス・ワールド】に所属しているみんなから思われているほどだ。
「──そう、“絶望”」
そうだ。絶望だ。
「ティアー。お前は……」
「──お前は、何故絶望しないんだ?」
……私は、ティアーの絶望した顔を見たことが無かった。希望を失ったような顔を見たことが無かった。
それだけなら、いつも明るいだけの女性に思うことも出来るだろう。
『:当然どころじゃねえ!? お前らがばら撒いたから、ヴィラン人口一気に増えたってことじゃねーか!?』
……私は彼、ないし彼女とのコメントを思い返す。
【ダーク・ガジェット】……【レプリカ・ガジェット】の件について、顔も知らぬ彼、ないし彼女……サンタクロースとの会話を。
【レプリカ・ガジェット】を最初にばらまいたのはティアーだ。それは間違い無いはずだ。
当時小学生とも思える年齢の彼女がどうやってバラまけたかは分からないが……図面をネットに公開するだけでも、まあ拡散には十分だろう。そこは重視するところじゃ無い。
ティアー、問題は……
「……なぜ【レプリカ・ガジェット】の件が大失敗した時も、絶望をしていないんだ?」
私は、そこが彼女に対して大きく疑問に思っていることだった。
無論、落ち込んだ様子を見たことはある。しばらく食事に喉が通らなくなってたくらい、ヤバい状況だったことも把握している。
──しかし、それは“絶望では無いのだ”。
……私は悪の組織だ。だからこそ、“本当に絶望した人間の顔を何度か見たことがある”
──そんな彼らの表情は、“無”だ。“虚無”だ。“底なしの穴”だ。
例え仮の笑顔を貼り付けていたとしても、その“目”の奥には絶望者特有の色が見え隠れしているのだ。
巧妙に隠していたとしても、何かを隠している、と言うこと自体が分かるほど、隠しきれない心の穴なのだ。
なのに、“ティアーにはそれが無い”。
【レプリカ・ガジェット】が【ダーク・ガジェット】に落とし込められた筈なのに。
新たな正義の象徴が、大罪の罪の証に変化させられたにも関わらず。
「──普通、絶望するだろう? 絶望しても、おかしく無い経験だろう……?」
絶望から立ち直った、と言うわけでは無いと思う。
彼女はただ、失敗した。と言う事実だけを受け止めて。
当たり前のように普通にショックを受けて、当たり前のように落ち込んで。
そして、当たり前のようにまた前を向いて立ち上がったのだ。
ちょっと大きなミスをしちゃった。そんな程度の受け止め方しかしていないようなのだ。
世界を、ここまで巻き込んだにも関わらず
ティアーにとって、これはその程度の出来事なのか?
ちょっと高校受験に失敗しちゃった、その程度のような受け止め方なのか?
それほど小さな出来事だったとでも言うのか? ティアーにとって、この出来事が?
「……ティアー。私は何を読み違えている? 私は君の何を分かっていないんだ?」
私は手で顔を覆いながら、そう静かに呟く。
お飾りなボス。以前自嘲気味にそうサンタクロースに言ったことがあるが、ある意味一部本心でもあった。
何故なら、ティアーの事を全て分かっているとは思えないから。
彼女のことを、ボスとして全てを理解し切れているとは到底言い切れないから。
今でも、彼女の笑顔に対して何を隠しているのか、何を抱えているのか、疑う時がある。
……こんなこと、悪のボスとして言い出せることじゃ無いだろう?
「どんな底を持っているんだ? ……それとも逆か? 本当は何も考えていないのか?」
あまりにも深い暗い底。暗すぎて、逆に浅いようにも思えてくる。
意外と正義感のある悪の女幹部、ティアー。
その実態は、暗い、黒、闇。いや、そんな言葉で表していいのか、当てはまっているのかすら分からない。それが今のティアーの正体だ。
「……私は、本当に君の親友と言えるのだろうか? ……言えるって言うんだろうなあ、彼女なら」
つい、そんな弱音を吐いてしまう。誰かに聞かせるつもりもない、例えサンタクロースに対しても。
「……ティアー。君の本当の目的は、今でも私は分からない」
けれど、……けれど。
願わくば……
「──親友として、彼女の願いが叶えられることを」
例え、その結果が私たちからの離反だとしても……
それでも。親友として、独りよがりの願いだとしても、そう思ってしまうのだ。
★カイザー
22歳
172cm
紫髪
混沌・悪
【カオス・ワールド】のボス。
ティアーの幼馴染み。
世界を支配するボスと言っても、親友を大切にしたい心は持っている。
例えそれが、一方的に自身が思ってるだけだとしても……
<おまけのおまけ>
「……お邪魔しま〜す」
【ジャスティス戦隊】本部。その武器庫。
つまり、【ライト・ガジェット】の格納場所。
そこに一人、真夜中の時間にブルーが現れた。
監視カメラの映像も既にダミー映像に入れ替え済み。
彼女以外、この部屋に入った事は誰にもバレない。
「失礼しま〜す……」
そう言いながら、戦隊のメンバーの武器庫のロッカーをハッキングで開けていく。
【イエロー・ガジェット】、【グリーン・ガジェット】、【ピンク・ガジェット】の三つを取り出した。
「点検しま〜す……」
一言呟きながら、ブルーは各々のガジェットを分解していく。自分の【ブルー・ガジェット】もだ。
持ってきた計測機器を用いながら、各自のガジェットの状態を確認していく。
「コアパーツを取り出して、と……リンクネットワーク、解除済み。共有データファイル、更新無し。ダミー信号発信中、OK。……うん、問題無さそうね」
そう頷いて、分解したガジェットを全て元どおりの形に戻していく。
内部構造は複雑で、素人が分解したら簡単には戻せないほどのものを、ブルーは手慣れた手つきで作業を進めていく。
「イエローちゃん達3人は問題無しっと……あとはレッドのだけね。レッド、あいついっつも持ち帰るから全然確認出来ないのよねえ……一応大丈夫だとは思うけど」
始めの頃点検しておいて本当良かったー。そう言いながら、各自のガジェットを元の場所に戻していく。
ロッカーの開閉記録も改竄しておき、これで何事も無かったと思われるだろう。
「……はあー……っ」
ロッカーを閉めたあと、頭をコツンとぶつけ、ため息を吐く。
それはとても憂鬱そうな表情で。
「……焼石に水だわ」
そんな事を呟いていた。
「いや、本当……このペースじゃ全然追いつけないわよ。5000個近くのうち、改造出来たの本当20数個だけ? いや足りない足りない、全然間に合わない。リンクネットワーク逆利用出来たなら一気に楽なんだけど……」
でもなあ。あれ使った瞬間、確実にバレるよなあ。
やっぱり個別に端末毎に弄った方が隠し通せるよなあ。アナログ作業のメリットってそれだよなあ。
そんな事をブルーは漏らしていく。
「まあ、やらないよりはマシ……かしらね。うーん、もっと他の戦隊のガジェットを弄る機会があればいいのだけど……」
あーあ、と言いながらブルーは背伸びをする。
自分の作業のままならなさに歯痒さを感じていた。
「そもそも、【レプリカ・ガジェット】ももっと大量に普及させたら楽なのに……いっその事、“全人類にばら撒いてやろうかしら”……」
でもなー、それはそれで絶対問題発生するしなー。
全員が全員、理想的な使い方してくれるとは到底思えないしなー。旧世代とか特にそう。
あー、人類って面倒臭い……そんな事を思っていた。
そんな事をしたら、絶対世界中で大混乱が発生する。
ただでさえ今の状態でめちゃくちゃなのに、さらに手がつけられない事態になるだろう。
しかし……
「けどなー……」
──“人類滅ぶよりは、よっぽどマシよねえ”
……その言葉は、誰の耳にも、記録にも入らないでいた。
「──ま、本当の最終手段として考えておきましょう、うん。とりあえず今は、地道にやっていくしかないわね」
そう言って、彼女はその部屋から立ち去っていった……
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
女
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
……彼女の、本当の目的。
それは複雑な事では無かった。
人類の滅び。ただ、それだけを回避するためだけに。
だからこそ、利用する。正義も、悪も。
彼女の目的は、まだ、叶えられていない──