「私の部屋だああああああヒャッホー!!!」
「自室でそのテンションはおかしいでしょ!?」
うおおぉ。
ついに僕、生まれて初めて女の子の部屋に入っちゃったよ。
しかもその部屋が、まーちゃんみたいなSSR彼女の部屋だなんて……。
何だか凄くイイ匂いがするッ!
ちょっとこの匂い持って帰りたいんで、ビニール袋お借りできますかね?(通報しますた)
「は、恥ずかしいからあんま部屋の隅々までは見ないでね」
「う、うん」
まーちゃんは例によって赤面しながら釘を刺してきた。
この赤面プリンセスめ。
普段は飄々としてるくせに、たまに年相応の照れを見せてくるから、そのたびに僕のハートはキュンキュンダイナマイト(キュンキュンダイナマイト?)だぜ。
それにしても、意外とまーちゃんの部屋はフリフリした装飾が多くて、女の子っぽい部屋だな。
ベッドの上には大きな猫のぬいぐるみも置いてあるし(ホントに猫が好きなんだね)。
当然っちゃ当然だけど、僕がまーちゃんについて知っている部分は、まだまだごく一部に過ぎないんだな……。
何だかちょっとだけ寂しいな。
――いや、まだ付き合って一週間で何をおこがましいことを言ってるんだ僕は。
人生は長い。
仮に80歳で死ぬとしても、あと60年以上も僕らには時間がある(既に結婚する気でいる)。
これからゆっくり時間を掛けて、少しずつお互いのことをわかっていけばいいじゃないか。
「よいしょ、っと」
「?」
何故かまーちゃんは床に置いてあるクッションではなく、ベッドの上に座った。
まあ、普段からそこに座って過ごしてるのかな?
じゃあ、僕はこのクッションをお借りしよっかな。
「あ、ともくんともくん。ともくんの席はここだよ」
「へ?」
まーちゃんは右手でぽふぽふとまーちゃんの隣を叩いた。
えっ!?
そ、そこに座るの……?
それは流石に、絵面がヤバくない?
ベッドの上に、若い男女が並んで座るなんて……。
「どうしたの? 別にやましい気持ちがなければ座れるでしょ?」
「……!」
まーちゃんは挑発するような笑みを投げ掛けてきた。
……くぅ!
そう言われたら、座らざるを得ないじゃないか!
「じゃ、じゃあ、失礼します……」
「どうぞどうぞ~」
僕はベッドの感触を確かめるように、ゆっくりとまーちゃんの隣に座った。
おおぅ……。
メッチャふかふかなベッドや……。
ベッド界のモンドセレクション金賞や(は?)。
「……ともくん」
「……!」
まーちゃんが僕の手を握ってきた。
ま、まーちゃん!?
「……ん」
「っ!!」
そして僕の顔に唇を寄せて目をつぶった。
まーちゃん!?!?
こ・こ・で!?!?
流石にここでキスはマズいんじゃないかな!?
ラブコメとかだとこういう時は、大体ドアの隙間からご両親が覗いてたりするもんだよ!?
「ん!」
「……」
だが、尚もまーちゃんは執拗にキスを催促してくる。
う、う~ん。
念のためドアの方を確認すると、特に隙間は空いていなかった。
……じゃあ、いいのかな?
僕は目をつぶって、まーちゃんの唇に僕の唇を――
「あさいくんあさいくーん」
「「っ!!!」」
重ねようとした刹那、未央ちゃんが勢いよく部屋に突入してきた。
ご両親じゃなく未央ちゃんのパターンだったかー!
「あさいくんあさいくーん」
「未央ちゃん!?」
未央ちゃんはまた僕の脚に抱きついてきて無表情の頬擦りを始めた。
未央ちゃん僕の脚好き過ぎじゃない!?
何なの!?
僕の脚から、ヤベーエキスでも出てんの!?
「もう、未央! いいとこだったのに!」
まーちゃんはお冠だ。
ま、まあまあ、幼女のやったことだし(幼女に甘い)。
「あさいくんあそぼー」
「え?」
未央ちゃんは無垢な瞳で僕に訴えかけてきた。
カ、カッワイイ!!
「ダメだよ未央! ともくんは私と遊ぶんだから」
「やだやだみおもあさいくんとあそびたいー」
「ダメだったらダーメッ!」
「やだやだよおおお」
未央ちゃんは眼に大粒の涙を浮かべた。
あ、ああああああッ!!
「まーちゃん! ちょっとだけ、ちょっとだけ未央ちゃんとも遊んであげようよ!」
「ええ?」
「やったー。ありがとーあさいくーん」
途端に未央ちゃんの涙は引っ込んで頬擦りを再会した。
え……。
まさかの嘘泣き……?
……女の子は怖いな。
この歳で、もうそんな
「……ハァ、しょうがないなぁ。ちょっとだけだからね」
まーちゃんはやれやれといった顔で未央ちゃんの頭を撫でた。
ふふ、こういうところは何だかんだお姉ちゃんなんだな。
どんどんまーちゃんの新しい顔が見れて嬉しいぜ。
「じゃあ、何して遊ぼうか、未央ちゃん」
「すごろくがやりたいー」
「すごろく?」
随分古風な遊びが好きなんだね。
「ああ、いつものやつだね。ちょっと待って用意するから」
そう言うとまーちゃんは抽斗の中から、丸めた一枚の大きな画用紙を取り出した。
え?
それがすごろくなの?
「これは私が未央のために手作りした、オリジナルすごろくだよ!」
まーちゃんはドヤ顔で画用紙を広げた。
確かにそこにはすごろくみたいなマス目が引かれており、各マスには何やら文字も書かれている。
へえ。
わざわざ手作りしてあげたんだ。
良いお姉ちゃんだね。
惚れ直したぜ!(はいはい)
「よし、じゃあ誰から始めようか」
「あさいくんがさいしょでいいよー」
「え」
未央ちゃんがサイコロを手渡してくれた。
未央ちゃんも良い子ッ!!
どうしよう!
僕、将来未央ちゃんに彼氏ができたら、そいつのこと殺しちゃうかもしれないッ!(おまわりさんこいつです)
「よーし、負けないぞー」
僕は気合を入れてサイコロを振った。
そして出た目は――4だった。
ふむ、まあ最初はこんなもんか。
僕は駒を手に取って4マス進めた。
「1・2・3・4」
そしてそこに書かれていた文字を読む。
「えー、何何――『風の噂で学生時代に片想いしていた清楚系の女の子がキャバ嬢になったと聞き、陰鬱とした気持ちになる』」
何これッ!?!?
『陰鬱とした気持ちになる』って何!?
普通すごろくの結びの言葉って、『1回休み』とか、『3マス進む』とかじゃないの!?
確かに陰鬱とした気持ちにはなったけれどもッ!!
「よしよし、次は私の番ね」
しかしまーちゃんは僕の動揺など歯牙にも掛けず、サイコロを振った。
まーちゃんはどんな気持ちでこのすごろく作ったの!?
「おっ、ラッキー! 6だ。1・2・3・4・5・6――。えーと――『近所でもおしどり夫婦で有名だった若夫婦の旦那の方がパチンコにハマってしまい、多額の借金を抱えて離婚してしまったという噂を聞き、陰鬱とした気持ちになる』」
もうこのすごろくやめたいッ!!
どのマスに止まっても陰鬱とした気持ちになるッ!!
これ絶対未央ちゃんの教育に悪いってまーちゃん!
そもそも未央ちゃんはまだ『陰鬱』って言葉の意味わからないでしょ!?
「きゃははは、おもしろーい」
「っ!?」
が、未央ちゃんは僕の心配とは裏腹に無垢な笑い声を上げた。
今のどこに面白い要素が!?
「ふふん、これは未央に社会の厳しさを教えるために開発した、『大人のすごろく』だよ!」
「大人のすごろく!?」
ネーミングもヤバいね!?
アダルトグッズみたいなネーミングだね!?
てか、流石に社会の厳しさを教えるのは早すぎないかい!?
このくらいの歳の子には、もっと夢と希望を教えてあげようよ!
「つぎはみおのばんー」
が、未央ちゃんは僕の心配なぞどこ吹く風で、サイコロをていっと振った。
強い子だ……。
因みに出た目は3だった。
未央ちゃんは駒を掴んで3マス進める。
「いち・にー・さーん。あさいくん、なんてかいてあるかよんでー」
「え? ああ……いいよ」
流石にまだ漢字は読めないか。
今度は何て書いてあるんだろう……。
「えーと――『入社以来ずっと憧れていたメガネ巨乳美女の先輩が、部長と不倫している現場を目撃してしまい、もう全てがどうでもよくなる』」
強く生きてッッ!!!
「1・2・3――、ゴ、ゴール……」
「おおー、ともくんが1番だったね! おめでとう!」
「……ありがとう」
その分僕の精神は、針金並みにか細く削られてしまったけどね……。
「くぴー、くぴー」
「――!」
いつの間にか未央ちゃんが僕のふとももを枕代わりにして寝てしまっていた。
寝顔もカッワイイッ!!
この寝顔を1/6スケールフィギュアにして、部屋に飾りたいッ!(タイーホ)
「あらあらしょうがないな未央は。――よいしょっと」
まーちゃんはそんな未央ちゃんを慣れた手つきで抱っこして、まーちゃんのベッドに寝かせてあげた。
嗚呼、美しき姉妹愛。
「さて、と」
「?」
するとまーちゃんは僕のすぐ隣に腰を下ろした。
おや?
「……これで今度こそ邪魔は入らないね」
「――!」
まーちゃんは妖艶な笑みを浮かべてきた。
……おおふ。
やっぱまーちゃんには敵わないな。
「ん」
まーちゃんは、目をつぶった。
「……ん」
僕はまーちゃんにそっとキスを落とした。
彼女の部屋でするキスは、何とも背徳的な感じがして、僕の心臓はいつもよりドキドキしていた。
「……えへへ、ありがとともくん。大好きだよ」
「……僕もだよ」
「わーお」
「「っ!?!?」」
横を向くと未央ちゃんが目を開けて、ガッツリこっちをガン見していた。
わあああああああああ!!!!!!
「フフフ、若いねえ」
「そうだねえ」
「「っ!?!?!?」」
今度はドアの方を向くと、そこには隙間が空いており、お母さんとお父さんがこれでもかとニマニマしていた。
ひゃっあああああああああああ!!!!!!!!
何で今回はドアのほうを確認しなかったんだよ僕うううううう!!!
「ちょっとッ!! 勝手に覗かないでよお母さん! お父さん!」
赤面プリンセスは最高潮に顔を真っ赤にした。
こうして僕の初めてのお宅訪問は、大波乱の末幕を閉じたのであった……。
おあとがよろしいようで。