「ハァ……、もう最悪……」
私はお風呂の中で一人、さめざめと泣いていた。
せっかく
今日こそは勇斗くんと一線を超えられると思ったのにな……。
途中まではよかった。
今日は勇斗くんのご家族が、勇斗くん以外みんなインドにウニカレーを食べに行ってていないから(インドにウニカレーってどういうこと!? とは少しだけ思ったけど……)、家に遊びに来ないかって誘われたんだ。
――しかもこれでもかってくらいオドオドした顔で。
ついにキタッ! って思った。
やっと私も勇斗くんと結ばれる!
だから茉央ちゃんを真似て、慣れないキャミソールとホットパンツっていう攻めに攻めた格好で勇斗くんの家に乗り込んだのに……。
そ れ が い け な か っ た。
雰囲気はよかったの!
勇斗くんも明らかにその気になってくれてたっぽいし、私を見る目がいつもと違って、濃い色を含んだものになっていた。
二人の顔と顔が、お互いの吐息が聞こえるくらいまで近くなって、後はキスをするだけ……。
そして二人は――。
な の に!
私は緊張のあまり周りが見えてなくて、肘をテーブルにぶつけてしまった。
そしてその拍子に、テーブルの上に乗っていた
ジーザス。
ええ、どうせ私のキャミソールとブラの間には、グランドキャニオン並みの深い溝ができてますよ。
だからこそとんがりコ〇ン先輩も、そんな十分にゆとりある隙間においでくださったんでしょうよ。
でもだからってあんな形に嵌る!?
二つのとんがりコ〇ン先輩は、スカイツリーの如く綺麗にキャミソールとブラの間に縦に嵌っていた。
――結果。
まるで私のtkbが、ビンッビンに尖っているように見えてしまったのッ!!!
嗚呼、違うの勇斗くん!!
私はそんな、はしたない女じゃないからッ!!
私は勇斗くんの制止を押し切って、そのまま逃げるように家に帰ってきた……。
そして今現在、お風呂に入りながら、一人虚しく頬を濡らしてるってわけ。
「ハァ……、死にたい……」
もうどんな顔して勇斗くんに会えばいいかわかんないよ。
――その時だった。
すぐそばに置いてあった、私のスマホからトークアプリの通知音がした。
私はいつもお風呂に入っている時でも勇斗くんとスマホで遣り取りができるように、防水ではないスマホを防水ケースに入れてお風呂に持ち込んでいる。
――きっと勇斗くんからだ。
いつもは心が踊る通知音も、今だけは陰鬱な気分を上乗せする不快音でしかなかった。
……それでも見ずにはいられない。
私は夏の街灯に群がる虫みたいに、引き寄せられるようにスマホの画面を確認した。
――そこにはこう書かれていた。
『今美穂の家の前にいる』
――!
私は一も二もなくお風呂から出てざっと身体を拭いてパジャマを着ると、髪も乾かさず玄関に走った。
背中からお父さんのこんな時間にどこに行くんだという怒鳴り声が聞こえたけど、無視して外に出た。
「――勇斗くんッ!」
「美穂ッ!」
そこで待っていてくれた勇斗くんに、私は濡れ髪のまま抱きついた。
「勇斗くん! 違うの! あれはね……、違うの!」
「――ああ、わかってる。わかってるよ美穂」
勇斗くんはそんな私を、優しく、ただ優しく抱きしめかえしてくれた。
勇斗くんの心臓が、どくどくと早鐘を打っているのが私の薄い胸越しに伝わってくる。
「…………今夜はうちに泊まってけよ」
勇斗くんは私の耳元で、囁くようにそう呟いた。
私は全身に電気が走ったみたいな感覚がした。
「……うん。うん」
私は溢れてくる涙を拭おうともせず、こくこくと頷いた。
私と勇斗くんは秋の色が濃くなってきた夜道を、二人で手を繋いで歩いた。