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第21話:手紙

「おはよー、まーちゃん」

「おはよ、ともくん!」

「おはよー、勇斗、篠崎さん」

「オ、オウ……、おはよ」

「お、おはよう……、浅井君」

「?」


 朝教室に着いてみんなに挨拶したところ、勇斗がこれでもかとソワッソワソワッソワしていた。

 そして篠崎さんは俯きながらモジッモジモジッモジしている。

 なっ!?

 ゆ、勇斗のこの態度……、身に覚えがあるッ!

 そして篠崎さんのこの雰囲気……、まさか!?


「えへへー、だから昨日私は言ったでしょ? 凄く面白いことが起きてる気がするって!」

「まーちゃん」


 確かにそんなことを言っていたけど……。

 前から思ってたけどまーちゃんってエスパーか何かなの?

 ……まあ、今更まーちゃんのことを常識的な物差しで測ろうとするのは詮無き事か。

 何にせよよかったな勇斗。

 僕が勇斗に口パクで「おめでとう」と祝辞を述べると、勇斗は目を逸らしながら無言で手を挙げてそれに応えた。

 うんうん、本当によかったよかった。

 さしもの微居君も、この二人に対してだけは岩を設置する素振りは見せていない。

 まあ、確かにこの二人には、素直にお祝いしてあげたくなる不思議な何かがあるよな。


「フッ、おはよう諸君! 今日も元気だ空気が美味いな!」


 あ。

 その時、僕らを包むほんわかした空気などどこ吹く風とでも言うように、梅先生がどかどかと肩で風を切って教室に入ってきた。

 ……この人はホントに。


「では出欠を取るぞ。ああ、因みに一時間目の私の科学の授業では、諸君らに私が発見した面白い仮説を披露してやるから楽しみにしておくといいぞ」


 面白い仮説?

 ……多分だけど、絶対に面白い仮説じゃないと思う。




「――で、あるからして、以上の理論から、私はパラレルワールドというものは実在するという結論に至ったわけだ。ではこの事実に我々はどう向き合うべきか――」


 そう言うなり梅先生は、黒板に幾何学模様みたいな図形を描き始めた。

 面白い仮説ってこれのことだったの!?

 言うに事欠いてパラレルワールドて!?

 今時中学二年生でもそんなバカげたこと言わないですよ!?

 そもそもそういうのは学会とかで発表してもらえませんかね……?

 正直理論も複雑過ぎて、1ミリも内容が理解できないし……。

 高校の科学の授業でやる内容じゃないでしょ。


「ねえねえ、ともくん」

「え?」


 その時ふと、まーちゃんが僕の左肩をツンツンとつついてきた。

 何だい、授業中に?


「これこれ」

「?」


 まーちゃんはこそっと、僕に可愛い形に折った便箋を手渡してきた。

 え? 手紙?

 ……随分古風なことするね。

 このスマホのトークアプリ全盛期の時代に。

 まあ、今でこそみんなスマホでメッセージの遣り取りをしてるけど、一昔前の学生はこうやって手紙で授業中に雑談を交わしてたっていうし、温故知新とでも言うか、たまにはこうして原始的なコミュニケーションをしてみるのもいいんじゃないってことなのかな?

 可愛い彼女からそんな可愛い提案をされては、僕も応じないわけにはいかない。

 僕は小さくこくんと頷いてから、その手紙を受け取った。

 まーちゃんは、ニッコニコした顔で僕を見つめている。

 まったく、今日もまーちゃんは可愛いぜッ!

 ――さてと、いったい何が書いてあるのかな?

 僕がこっそりと手紙を開くと、そこには一言だけ、こう書かれていた。



『好きだよ』



 ……おおう。

 シンプルイズベスト。

 まさか授業中に、しかも手紙で彼女から愛の言葉を囁かれてしまうとは。

 これは思ったよりヤベエな!

 手紙って………………イイねッ!!(溜め)

 この敢えて紙に直接自分の字で想いを綴ることによる破壊力ッ!!

 僕の中の恋愛血糖値(恋愛血糖値?)がグングン急上昇してるのがわかる!!

 こりゃ次の健康診断引っ掛かっちまうかもしんないぜッ!!!

 慌ててまーちゃんの方を見ると、まーちゃんは甘えん坊の子猫みたいな眼で僕を見ていた。

 ああおう!

 か~わい~いやつめ~。

 そんな好き好きオーラ全開な眼で見られたら、もう僕は堪らないよ~。

 よーし、ここは照れずに、僕も全力でまーちゃんの気持ちに応えないと!

 僕はまーちゃんの文字の下にこう書き足した。



『ありがとう!

 僕もまーちゃんが大好きだよ!』



 そしてまた手紙を元の形に折り直してからまーちゃんに返した。

 まーちゃんは嬉々とした表情でそれを受け取ると、ウキウキしながら開いて中を見た。

 すると――


「――!」


 まーちゃんは頭から湯気が出てるんじゃないかってくらい、顔を真っ赤にしてへにゃへにゃになってしまった。

 おお、メッチャ効いてるがな。

 流れ的に、そんな感じの答えがくるであろうことは何となくわかってただろうに。

 前から思ってたけど、どうやらまーちゃんは攻撃力はほぼカンストしてるけど、防御力は初期値だよね?

 いつもはグイグイ攻めてくるくせに、いざ自分が攻められる側になったら、途端にへにゃへにゃになっちゃうんだもんな。

 ま、そんなところもカッワイイんだけど!(い つ も の)

 ――お? またまーちゃんが手紙に何か書いてんな。

 今度は何だ?

 僕はまーちゃんに再度渡された手紙をそっと開いた。

 すると僕が書いた文字の下に、こう書き足されていた。



『ありがと!

 私もともくんだーい好き!』



 …………。

 いやこれ終わんねーやつだわッ!!!

 無限ループするやつだわこれ!!

 これ以降はアレだろ?

 僕がまたまーちゃんに『大好きだよ!』って書く。

 そしたらまたまーちゃんが『大好きだよ!』って返してくる。

 それを授業が終わるまで延々繰り返すんだろ?

 わんこそばかよッ!!(何そのツッコミ?)

 ――だが乗らないわけにもいくまい。

 少なくとも現状『好き』と書いた回数では、まーちゃん2回、僕1回で僕の方が少ないんだ。

 彼氏としてここでやめるという選択肢はない。

 僕はまーちゃんへの想いをありったけ手紙に込めて、それをまーちゃんに手渡たそうとした。

 ――が、


「フッ、いかんな智哉、足立、授業中にこんなことをしては」

「「っ!!!」」


 哀れ梅先生にその手紙を取り上げられてしまったのだった。

 う、うわあああああああああ!!!!!!!!?


「えー、何何」

「ちょっ!? 梅先生ッ!?!?」

「峰岸先生ッ!!」


 あろうことか梅先生は、その手紙を開いて音読しようとしている。

 お願いですからそれだけは勘弁してくださいッッ!!!!

 何でもしますからッ!!


「フッ。――『好きだよ』『ありがとう! 僕もまーちゃんが大好きだよ!』」

「「っ!!!!」」


 ああああああああああ!!!!!(死)

 あなたは鬼か!?!?

 そりゃ授業中に手紙の遣り取りしてた僕らも悪かったですけど、お陰様で完全に黒歴史確定ですよ、こ・れ・はッ!!!


「『ありがと! 私もともくんだーい好き!』『何の何の、言っとくけど僕はその100倍まーちゃんのこと好きだからね!』――か。やれやれ、お安くないな」

「「…………」」


 お わ っ た。

 僕とまーちゃんの高校生活が今日……。

 まーちゃんも耳まで真っ赤にしながら涙目になってしまっている。

 うぅ……、もう明日からこの教室通えないよ……。

 ――あれ?

 その割には教室の空気が……?

 恐る恐る後ろを振り返ると、クラスメイトのみんなは「あ、別に今更何とも思ってないよ」みたいな目で僕らを見ていた。

 ……おおう。

 それはそれでどうなんだろう、僕ら……。

 そんなに僕とまーちゃんってバカップルだと思われてるのかな?(無自覚)


 ――ただ、微居君の席の方からだけは、ゴトトトトトッといつも以上の数の岩を設置する音が聴こえてきたのだった。

 ……何か微居君って、僕にだけやたら厳しくない?

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