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第24話:装獣戯画〔ビーストアート〕①

「ねえねえみんな、今日はこれで遊ばない?」

「「「え?」」」


 とある昼休み。

 まーちゃんがスマホの画面を僕達に見せてきた。

 そこには『装獣戯画ビーストアート』という、スマホゲーのトップ画面が映っていた。

 ああ、これ、最近CMとかでよく見るゲームだ。

 確か種々の獣をモチーフにした、装獣戯画ビーストアートという巨大人型ロボットを操作して、プレイヤー同士で戦うアクションゲームだったはず。

 本当にまーちゃんはゲームが好きなんだな。

 僕はそんなまーちゃんが好きだけど(隙あらばノロケ)。


「私はやってもいいよ、茉央ちゃん」

「俺もいいぜ」

「もちろん僕も」

「よーし、じゃあ――」

「フッ、致し方ない――私も参戦してやろうッ!」

「「「「!」」」」


 またしても変態教師が名乗りを上げてきやがった!

 そういえばこの変態なんでいつも、パツパツのセーラー服着てるの?(今更)


「またあなたはそうやって峰岸先生! 私達は四人で遊ぼうとしてるんですから、邪魔しないでくださいよ!」

「フッ、まあそうカッカするな足立。本当はお前も私と一緒に遊びたいんだろう? このツンデレさんめ」

「曲解が過ぎるッ!」


 親の顔より見た光景!

 うう、胸がッ!

 胸が苦しいッ!

 救○!

 お客様の中に、○心をお持ちの方はいらっしゃいませんかッ!?


「まあまあ茉央ちゃん、せっかくだから、コーチも含めて五人で遊ぼうよ」

「美穂!?」


 篠崎さん!?


「フッ、足立と違って話がわかるじゃないか篠崎。それでこそ私の弟子だ」

「え、えへへへ」

「うううぅ~」


 どうやら肘コレの一件以来、すっかり篠崎さんは梅先生の信者になってしまったらしい……。

 まーちゃんは最愛の娘を、どこの馬の骨ともわからない輩に取られた父親みたいな顔をしている。

 ド、ドンマイ。


「このおおおおお! ともくーん!」

「えっ? って、んぷっ!?」


 まーちゃんは突如立ち上がると、座っている僕の顔を思いきり抱きかかえてきた。

 結果、僕の顔はまーちゃんのおっぷぁいに押し潰されることになった。

 な・ん・で!?!?!?

 今回は僕何も言ってないじゃん!?


「えいえい! えいえいえい!」

「んぶぶ! んぶぶぶぶぶ!」


 苦しい苦しいッ!

 息ができないッ!!


「えいえい! ともくんなんてこーしてやる! こーしてやるー!」

「んんんんー!!」


 僕を憂さ晴らしの道具にするのはやめてもらえないかな!?

 そしてまたしても微居君の席の方から、岩音いわおん(岩音?)が聞こえてきた!

 しかも今回は、ゴットットン、ゴットットンって、岩音で8ビートのリズムを刻んでる!

 ノッてるノッてる!

 今日のスナイパーは、いつも以上にノリにノッてるよッ!!


 結局僕がまーちゃんのおっぷぁいリズム天国(おっぷぁいリズム天国?)から解放されたのは、微居君がまるまる一曲演奏し終わった後だった……。




「みんなチュートリアルは終わった?」

「うん」

「ああ」

「終わったよ」

「フッ、無論だ」


 そしてやっとのことで装獣戯画ビーストアートをダウンロードしてチュートリアルを終わらせたのだが、なかなかに奥が深そうなゲームだった。

 とりあえずザックリしたルールはこんな感じ。


 ・プレイヤー同士の5対5のチーム戦。

 ・相手チームの機体を全滅させた方が勝ち。

 ・同じ場所に味方の機体が4機以上集まると、徐々に機体のHPが減ってしまう。

 ・各機体には固有の特殊技が内蔵されており、装獣熱ビーストゲージというゲージが満タンになるたびに一度撃てる。

 ・装獣熱ビーストゲージは攻撃を当てる、喰らうなどすると増え、特定のアイテムを拾うと一瞬で満タンになることもある。

 ・装獣戯画ビーストアートのランクは星1~5まである。

 ・装獣戯画ビーストアートはガチャで入手する(もちろん課金すればより良い機体が出やすくなる……)。


 ふむ。

 ポイントはやはり、『同じ場所に味方の機体が4機以上集まると、徐々に機体のHPが減ってしまう』って部分だろう。

 集団戦は出来ないわけだ。

 3機と2機のチームに分かれて攻めるのがセオリーってとこかな?


「じゃ、次はいよいよ初回の無料ガチャを引く番だよ。必ず星4以上の装獣戯画ビーストアートが出るから、みんな気合い入れて回してね! 私はもう昨日引き終わっててカッコイイ機体ゲットしてるから、後で見せてあげるね」


 よし。

 正直僕はあまりクジ運は良い方じゃないけど、まあ星4以上確定ならそれほど酷い機体は出ないだろう。

 僕はドキドキしながらスマホの画面のガチャ開始ボタンをタップした。

 すると、大仰な演出と共に、徐々に僕の機体の形が露わになってきた。

 ……おぉ。

 僕もいくつかスマホゲーはやったことあるけど、やっぱ何度やってもこのガチャのワクワク感は堪らないな。

 大人がギャンブルに嵌っちゃう感覚ってこんな感じなのかな?

 ――僕の機体は、下半身が馬みたいで、大振りな弓矢を構えている、所謂ケンタウロスのような姿をしていた。

 おおっ!

 カッコイイやんけ!

 どれどれ、機体名は『ゲータウロス』か。

 うん、やっぱケンタウロスモチーフなんだろうな。

 何何……『高い機動力と弓矢による遠距離攻撃が得意な後衛タイプ』、か。

 特殊技は『影縫かげぬい』――相手の影に矢を当てると、一定時間行動を封じる。

 ほほう、これは上手く使えば強そうだな。

 因みにランクは星4か。

 まあ、僕の運じゃ星5はどの道無理だったよね。


「おっ、俺のは随分厳つい感じのが出たぜ」

「へえ、どんなの勇斗?」

「こんなんだ」


 勇斗のスマホの画面を見せてもらうと、そこには顔が牛みたいで、大きな斧を持ったゴツい機体が映っていた。

 機体名は『ゼノタウロス』。

 ああ、ミノタウロスがモチーフかな?

 『機動力は低い代わりに、高い耐久力とパワーを兼ね備えた前衛タイプ』。

 ふむふむ、所謂タンク役ってやつかな?

 特殊技は『星の盾アステリオスシールド』――一定時間防御力を上昇させた上で、敵の攻撃を自分だけに集中させる。

 うん、完全にタンク職だね。

 この手のゲームではタンク職が一番重要だってよく聞くし、責任重大だぜ勇斗(他人事)。

 ランクは星4。

 やっぱ星5は滅多に出ないんだな。


「あ、私の可愛い! 見て見て勇斗くん」

「お、おう」


 篠崎さんの機体を勇斗と一緒に見せてもらったところ、それは細身で頭に一本の長い角が生えた、可愛い兎のような姿をしていた。

 魔法使いみたいな杖を持っている。

 ああ、多分これはアルミラージっていう一角兎がモチーフだな。

 名前も『アルミラージャ』だし。

 『全体的にステータスは低い代わりに、各種補助技に長けた後衛タイプ』。

 うん、いかにも篠崎さんぽいぜ。

 特殊技は『女神の抱擁マリアベール』――広範囲の味方のHPをある程度回復する。

 おっ! これは強いな!

 やっぱどのゲームでも回復役は必須だもんね。

 ランクは星4。

 星5の確率ってどのくらいなんだろう?


「ねえねえともくん! 私のはこれだよ!」

「うへ!?」


 まーちゃんがおっぷぁいをグイグイ押し付けながら僕にスマホを見せてきた。

 君、絶対それワザとやってるよね!?

 ああ!

 微居君の岩音いわおんが、ゴトトトトントト、ゴトトトトントトって、16ビートにアップした!?

 意外と音楽の才能あるんだね!?

 ――ま、まあ、気を取り直して、と。

 まーちゃんの機体は、背中に三対の羽が生えており、両手に巨大な鉤爪が付いている、コウモリみたいな機体だった。

 名前は『カマソーソ』。

 これは何がモチーフなんだろう?

 ネットで検索してみたところ、『カマソッソ』という、マヤ神話に伝わるコウモリの悪神の名前が出てきた。

 多分これが元ネタか。

 いろんな神様がいるもんだ。

 『耐久力は低いが、素早い動きで敵をかく乱し、鋭い爪で敵を斬り裂く前衛タイプ』。

 ああ、これはまさしくまーちゃんだな。

 攻撃力と防御力の差が激しいところがまんまだ。

 特殊技は『翼王の咆哮ジャターユスロアー』――直線上に高威力の衝撃波を放つ。

 うん、いかにもアタッカーって感じだな。

 ランクは星4。

 もしかして課金しないと星5は出ないのかな?


「フッ、待たせたな諸君! 大トリはこの私だ!」


 梅先生がドヤ顔でスマホを見せてきた。

 そんなドヤるってことは、余程良い機体が出たのか?

 梅先生の機体は、背中に大きな翼が生えた、ドラゴンみたいな姿をしていた。

 そして大剣を二刀流で持っている。

 何だこいつ!?

 やたら強そうだな!?

 名前は『バルファルト』。

 ははあ、多分これ、かの有名なバハムートがモチーフだな。

 『素早さ以外の全ての数値が高いオールラウンダータイプ』。

 いやマジ強いなこいつ。

 特殊技は『淪滅りんめつ』――自身のHPを半分犠牲にすることによって、広範囲の敵に大ダメージを与える。

 ふおおお、これも強そうだけど、自傷ダメージがあるから奥の手って感じだな。

 思った通りランクは星5。

 引き強いなこの人。


「フッ、どうやら機体性能では私の勝ちのようだな、足立」

「ぐっ!? ……装獣戯画ビーストアートの性能の違いが、戦力の決定的差でないことを、教えてあげますよ!」


 どこぞの赤い彗星みたいなこと言い出した!?

 それに僕達は同じチームなんだから、仲良くしようよ!


「……ふう、まあいいです。では早速、血沸き肉躍るいくさを始めますよ!」


 僕の彼女発言が物騒だな!?

 まーちゃんが代表して対戦相手を探すボタンを押すと、程なくして対戦相手が決定した。

 僕のスマホの画面に『出陣』というボタンが表示されたのでそれを押すと、僕のゲータウロスがバトルフィールドに出現した。

 ……さて、いよいよか。

 ――が、何故かまーちゃんだけは、『出陣』ボタンを一向に押す気配がない。

 ん?


「ま、まーちゃん、どうかしたの? まーちゃんが押さないとバトル始まらないよ」


 僕が声を掛けると、まーちゃんは右手で顔を抑えるような仕草をしながら、こう言った。


「疾れ、穿て、天穹てんきゅう振動ゆすれ、血の一滴まで絞り尽くせ――」

「「「っ!?」」」


 まーちゃん!?!?


「顕現せよ、装獣戯画ビーストアート、カマソーソ!!」

「「「っ!?!?!?」」」


 まーちゃんは『出陣』ボタンを押した。

 まーちゃああああん!!!!!!!

 アーイタタタタタタタタタァ……。

 よもや僕の彼女が、こんなオモックソ中二入ってたとは……。


「フッ、やるじゃないか足立、見直したぞ!」

「へへ、でしょでしょ!」

「「「……」」」


 何故か犬猿の仲の二人が意気投合したから、良しとするか……。

 ……ハァ、こんなんで勝てるんだろうか。

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